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第65話【海賊、真面目に略奪する】

海賊たちの朝は早い。


海の向こうが白み始める頃、デクスラの怒号が甲板に響き渡った。


「おい、全員集まったか!」


「はい! お頭!」


「点呼だ!」


がらついた声に応えるように、甲板に整列した海賊たちが一人ずつ名乗りを上げていく。


「よし、体操を始める!」


隣にいた陽気な海賊が笛を吹くと、軽快な旋律が流れ出す。それに合わせて全員が腕を振り、足を上げる。まるで軍隊のような規律ある動きだった。


「それでは本日の予定を伝える!」


笛が止まると同時に、デクスラの声が再び甲板に響く。


「ノルン共和国のシーリンから南下してくる商船を襲撃する! おいお前、詳しくこいつらに説明しろ」


「はいっ!」 彼の隣にいた若い海賊が一歩前に出る。


「シーリンで買収した商会の人間から航路と停泊予定地はすでに把握済みです! 昼頃にはこの辺りを通過しますので、そこを襲撃します!」


「各自準備を怠るな!」


「了解しました!!」朝焼けの空に、海賊たちの声が響き渡った。


 * * *


甲板では海賊たちが襲撃準備に追われていた。


その中で大柄の海賊がふと手を止め、ぼやいた。


「なぁ、なんでこんなことやってんだよ……俺達、海賊だろ?」


「馬鹿! お前! お頭に聞こえたら……」


「おい」


その背後に、いつの間にかデクスラが立っていた。


「お、お頭! 俺は何も言ってません! こいつが話しかけてきたんです!」


「そうか、お前は許してやる。おい、こいつを立たせろ」


数人の海賊がすぐさま走り寄り、大柄の海賊を無理やり引っ張り上げた。


「頭! 俺がなにしたってんだ!」


「お前は俺のやり方が気に食わないらしいな」


デクスラが鋭い目つきで睨みつける。


「くそっ……この腰抜けが! あんな女の言いなりになりやがって! こんな船、降りてやるよ!」


「ほう、よく言った。てめぇはクビだ。おい、こいつの手を軽く切れ」


部下の一人がナイフを抜き、ためらいなく男の手を薄く切った。血が甲板に滴る。


「このあたりはサメが多くてな。てめぇの美味しい血に集まってくるだろうよ。ここで降ろしてやる」


大柄の海賊が引きずられていく。


「おい! 嘘だろ! やめろ! ふざけるな!」


「落とせ」


絶叫が響き、海へと突き落とされる。


「他にも文句がある奴は言ってみろ!」


デクスラの怒号に、周囲の海賊たちは無言で作業へと戻っていった。


 * * *


ブルーネアの港で、海賊たちが収奪品を船から降ろしていた。


黒ギルド長のフェーネンが歩いてくる。


「あんたら! うちの船がもうじきここを使うんだよ! さっさと下ろしな!」


「すぐ片付けます。ご迷惑をおかけしてすいません、フェーネンさん」


デクスラが腰を低くし、丁寧に応える。


そのとき、弟のデクスリが走ってくる。


「兄貴! 総督が積荷を下ろしたらすぐに出航しろって!」


「なんだって?」


「シーリンから重要な船が出るからシーモアで補給して急襲しろって。ほらこれ」


デクスリが手渡したのは、サイリス総督の直筆と思われる指令書だった。


「わかった。けど積荷はどうするんだ? フェーネンさんがここ使うって」


「フェーネンさん、黒ギルドで運んでもらえませんか。総督がちゃんと支払いもされるそうです」


「ったく……急に言われても困るってのに。総督からの依頼じゃ仕方ないね」


フェーネンがギルド員に指示を出していく。


しばらくすると、大量の酒樽が運ばれてくる。


「兄貴、急な依頼だからって総督から差し入れだ。航海中に好きに飲めって」


「マジか! お前ら急いで下ろせ! 今夜は好きなだけ飲めるぞ!」


海賊たちの歓声が港に響き渡った。


 * * *


港町シーサイの一角、海賊会館。


面接室では、応募者たちが次々と呼び出されていた。


一人の若者が椅子に座り、面接官の前で緊張した面持ちで背筋を伸ばす。


「特技は?」


「特技ですか。喧嘩ですかね?」


面接官は無表情で手元の紙に何かを記入しながら問いかける。


「海賊がなにをするのかわかっているか?」


「へへっ。そりゃ船を襲って好き放題するんですよね?」


「なにか勘違いしてるみたいだが……雇ってやる。研修があるからこいつについていけ」


そう言って、隣の部屋から現れた研修係に引き渡された。


続いて別の応募者が入室する。


「お前、特技は?」


「金計算なら……やっぱり海賊にはいらないですよね」


「なんで海賊になりたいんだ?」


「は、はぁ……もう家族を養えるならなんでもいいかなって」


「よく言った。採用してやる。帳簿係が足りないからお前はあっちの部屋で研修だ」


面接官は軽くうなずくと、次の候補者の名前を呼んだ。


 * * *


海賊研修所。


新たな候補者たちが浜辺に並ばされていた。


「これから研修を始める! この研修を生き延びた奴は、晴れて3号船に搭乗だ!」


男たちがざわつく。


「海賊になれば俺達のように制服が支給される! まずは貴様らの根性を叩き直す!」


制服を着た教官たちが剣を抜き、無理やり男たちを海岸に追い立てる。


「あそこに小さく島が見えるだろう! まずは泳いで戻ってこい!」


抗議の声を上げる男もいたが、剣を突きつけられて全員が慌てて海へ飛び込んでいく。


しばらくして……疲労困憊のまま数名が浜辺に戻ってきた。


「戻ったのはこれだけか。よし、次は素振りだ! 今日は千回で許してやる!」


浜辺には絶望の表情が並んだが、教官たちは容赦なく木剣を配り始めた。


 * * *


港町シーサイの酒場。


酒の匂いが漂う賑やかな夜、デクスラが杯を掲げて立ち上がる。


「お前ら! 今回の襲撃はよくやった! 総督からお褒めの言葉と報酬アップの約束をもらったぞ!」


海賊たちの大歓声が酒場を揺らす。


「総督についていけば俺達は海の覇者になれる! 今夜は好きなだけ飲んで英気を養え!」


歓声と笑い声が交錯する中、海賊の一人が隣の仲間に話しかけた。


「実際、総督に雇われてからお頭も俺らも充実してるよな」


「メシも酒も最高だし、堂々と街を歩けるってのもいいもんだ」


「最近じゃ制服を着てるだけでちょっと誇らしいよ」


「聞いた話じゃ、幹部はいずれシーサイで家もらえるらしいぞ」


「マジで? やる気出てきたぁ! もしかして所帯も持てるんじゃ」


「これから規模がデカくなったら俺達も幹部になれる可能性あると思うな」


「うおお! 総督最高! 今夜は死ぬほど飲んで明日から頑張るぞ!」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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