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第63話【魔王山田、仕返しをする】

アリアン神聖国への道中、山田たちは休憩を取っていた。


《アース》で作ったテーブルと椅子を並べ、野外とは思えないほど快適な昼食を広げる。


「天気もいいし、メシも美味い。休暇って感じだなぁ」


山田が特製サンドイッチを頬張りながら、のびのびと背伸びをする。


「私はずっと親衛隊の方に運んでもらって申し訳ないです」 レイラが控えめに言う。


「レイラさんは憎き勇者を倒した私達の仲間ですから。遠慮しないでください」 アイラが毅然とした口調で返した。


「アイラ、もうちょっと言い方をだな……」


「本来は私達親衛隊の仕事だったので正直悔しいです。私自身を含め、親衛隊員には更に厳しい訓練を課しています」


「いや、そういうことじゃなくてだな……リューシー?」


横で食事を取っていたリューシーが手を止めていた。


「厳しい訓練って、なにをやらされてるんだ?」


「全身の骨が折れそうな岩を持って走ったり……気絶する寸前まで高く飛行したり……」


リューシーがアイラをちらちら見ながら答える。


「親衛隊なら当然です。サイリス様から任された以上、私も徹底的に隊員を鍛えます」 アイラが胸を張る。


「あ、はい。ていうかアイラってそんなタイプだったっけ?」


「私もアイラさんと同室だった頃によく走らされましたよ。魔王様について回るなら体力が必要だって」 レイラが遠い目をする。


「そんなことしてたのか。ま、死なない程度に頑張れよ。重傷なら治してやるから」


それを聞いたリューシーがテーブルに突っ伏す。


「神聖国への道路も作らないとなぁ。みんな王国に来やすいように」 山田が遠くを見る。


「どういうことでしょう? それに神聖国に向かっている理由もまだ……」 レイラが不思議そうに尋ねる。


「世界中に信者がいるらしいから攻めても属国にしても支障が出るだろ? だから別の方法を考えてるんだ。時間がかかるから後回しになりそうだけど」


「それではこれから何を……?」アイラも首を傾げる。


「そろそろ説明しておくか。警戒中のミリトン達も呼んでくれ」


 * * *


アリアン神聖国・聖都アーク上空。


広大な白亜の都市を眼下に、山田たちは静かに空中に留まっていた。


「よーし、やるぞ」


アイラが鉄球を山田に渡す。


「魔王様、目標は大聖堂でしょうか?」


「いや、あの像」


遥か下方に、神聖国の象徴とも言える巨大な女神像がそびえている。


「勇者を寄越したお礼に粉々にする」


山田が軽く手を掲げ、《インパクト》の魔法で鉄球を撃ち出す。 鉄球は雷鳴のごとき音を立てて落下し、女神像に直撃する。


衝突の瞬間、大地が揺れるような轟音が広がり、像は見る見るうちに崩壊していった。


「……あースッキリした。デートを邪魔した仕返しだ。おーい、ちゃんと見てるかー?」


山田が空に向かって呼びかける。


「山田様? 一体誰に」


親衛隊に抱えられていたレイラが不思議そうに尋ねる。


「悪い悪い。じゃあ帰ろうか」


山田はいたずらっぽく笑いながら戻っていった。


 * * *


神聖国から戻った山田たちは、王都カレスタの外にある”魔王横丁”に到着した。


道路の交差地点に生まれたこの場所には、多くの出店が立ち並び兵士・商人・旅人たちが行き交い、まるで市のような賑わいを見せていた。


「ここも店が増えたよな」


「マギアから王都への道路と東のブルーネまでの道路の結所ですから」 レイラが嬉しそうに周囲を見回す。


「西の神聖国とファーレン王国にも繋げたら宿場町になりそうだな」


「魔王様、バルガス商会の乗り場まで直接行かれますか?」アイラが尋ねる。


「ちょっと店見ていこう」


山田たちは出店を覗きながら歩いていく。


「この蜂蜜パン美味しそうだな。みんなで馬車で食うか。5個くれるか?」


「あいよ! まいどあり!」


賑やかな通りを歩いていると、魔族の兵士が近づいてきて敬礼した。


「魔王様!」


「ご苦労。視察だからあんまり騒がないでくれ。っていっても親衛隊連れてたら無理か」


その声に反応し、他の兵士や通行人たちも次々と注目し始める。


「ねえ! もしかしてレイラ様じゃない?」

「嘘! 初めて見た!」

「あの人達まさか……」

「え、魔王? レイラ様と?」


瞬く間に周囲が騒然とする。


「魔王様」 アイラが前に出る。


「仕方ない。飛ぶぞ。レイラを頼んだ」


空へと飛び立ち、人混みから距離を取った。


しばらくして地上に降り立つと、山田がため息をつく。


「まったく、買い物もできやしない」


「山田様は少しご自身の立場に無頓着すぎるのでは……」 レイラが苦笑いを浮かべる。


そのまま全員で歩き続けると、バルガスが小走りで近寄ってきた。


「魔王様! お待ちしておりました」


「元気そうだな、バルガス。随分羽振りが良さそうじゃないか」


「いやはや、これも全て魔王様とレイラ様のおかげです。こちらへどうぞ」


バルガスについていくと、案内された先に豪華な巨大馬車が止まっていた。


「なんだありゃ」


「魔王様のために作らせた特注の馬車です。こちらでマギアまでお寛ぎください」


「お言葉に甘えて使わせてもらうよ」


山田たちは乗り込み、内装の豪華さに目を見張る。


「広っ!」


「すごいですね……」レイラも驚きの声を漏らす。


「気に入って頂けたようで良かったです。馬の回復担当や世話人も同乗しますので」


「今度から飛ぶのやめてこれで来ようっと。バルガス、お礼に新たな街道整備のときに優先的に情報回すよ」


「ありがとうございます!」


バルガスに見送られてそのまま馬車が走り出す。


「サイリスの仕事も一段落したら、またみんなでこの馬車で出かけたいな」


「そうですね」 レイラが微笑む。


そのまま山田たちはマギアへと帰っていった。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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