第62話【魔王山田、休暇を申請する】
王城の執務室は重苦しい空気が漂っていた。
ライエル王は、机越しにレイラと向かい合っている。その隣で山田は黙って成り行きを見守っていた。
「そうか。スラン殿を……」
レイラは膝の上で手を組み、小さくうつむく。
「お父様……私……」
ライエル王は静かに娘の手を握る。
「気付いてやれずすまない。働き詰めで疲れているのだと勘違いしていた。父親失格だな」
「そんなことは!」
「この前も言ったが、私はレイラの味方だ。忘れないで欲しい」
レイラが一度だけ小さくうなずく。
ライエル王は山田のほうへ体を向ける。
「山田殿。これでライエル王国は人類の敵となりました」
「そうだな」
「責任を取って私の首を差し出して諸外国に許しを乞うべきかもしれない」
レイラは顔色を失い、思わず声をあげる。「お父様!」
ライエル王は目を閉じ、しばらく沈黙してから目を開ける。
「だが、私は正直なところ山田殿がランドア大陸を支配すべきと考えております」
山田が眉をひそめる。「ほう」
「そもそも今回の件もスラン殿がレイラの話をしっかり聞くべきだったのです」
「まぁ……そうだな」
ライエル王は落ち着いた口調で山田に尋ねる。
「山田殿。改めて伺いたい。大陸を支配した後、人類を虐殺あるいは奴隷にする意思はおありか」
「そんなことするわけないだろ」 山田が即答する。
「しかし、人類はそれを知らないから反抗するのです。ですから山田殿が支配して王国のように統治されたら皆も理解するでしょう」
「元々そのつもりだけどな」
それを聞いてライエル王はレイラを見つめる。
「レイラ、勇者は私が処刑したことにする。安心しなさい」
「そんな!」 レイラは困惑した表情を浮かべる。
「公表するなよ。幸い知っている者は限られているからな。神聖国を混乱させてやりたい」
山田が口を挟む。
「なるほど……そうですな。それに……」
ライエル王は立ち上がる。固く握りしめている拳が震えている。
「お父様?」
王の顔が赤くなり、声が大きくなる。
「あやつめ! 夜に何度もレイラの部屋に来ただと! 私が知ったらその場で首を刎ねておるわ!」
「あー……」 山田は呆れたように目をそらす。
「我が愛する娘を放って逃げ去っておいてよくもぬけぬけと! 勇者ならなんでも許されるとでも?!」
「お、お父様。本当になにもされていませんので……」 レイラは慌てて否定する。
「あのような腰抜けがレイラに釣り合うわけがなかろう! あまつさえ利用しようとするなど!」
「おーい」
「差し向けた神聖国の教皇も今に見ておれ! 日々鍛えている我が剣の錆にしてくれるわ!」
* * *
ライラ商会の工房。
山田とレイラ、護衛のミリトンが受付に入る。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは、魔王をやっている山田と申します。ライラ商会長はいらっしゃいますか?」
受付の女性が一瞬固まり、青ざめて震え出す。
「え……何を……ま、魔王……?!」
レイラが前に出る。
「もう、そんな悪ふざけばかり。ネスさん、こんにちは」
「レイラ様! こ、こちらの方は?」
「魔王様ご本人です。ライラさんかマチルダさんはいらっしゃいますか?」
「はい! すぐに呼んで参りますので、こちらにお掛けになってください!」
ネスが逃げるように奥へ走っていく。
レイラが小声で呆れる。
「山田様は本当にこういうことが好きですね」
「普通に名乗っただけなのに。まぁ相手の反応が楽しいのは認める」
ミリトンが遠慮がちに言った。
「魔王様ってちゃんとした対応もできるんだと自分は意外でした」
「ほう。ミリトンは降格希望か。アイラに報告しておこう」
「えっ! すみません! 忘れてください! 隊長への報告は勘弁してください!」
ミリトンが必死に頭を下げていると、ライラたちが駆け寄ってくる。
「こんにちは。魔王様、レイラ様。わざわざ工房に来て頂いてありがとうございます。こちらへどうぞ」
案内されて応接室へ入る。
「いきなり来て悪かったな。店の方に行ったらレイラだけでも大混乱になるだろ?」
「あはは。確かに。こちらの2人は副商会長のローエンと工房長のマチルダです」
ライラが2人を紹介する。
「魔王だ。よろしく頼む」
「初めまして! ローエンと申します!」「マチルダです!」
2人が勢いよく立ち上がる。
「少し安心したよ。ライラ商会はみんなライラみたいなタイプなのかと思ってたんだ」
「それってどういう? ところで本日はどのようなご用件で?」
山田が適当に説明する。
「というわけでレイラにしばらく休みを取らせたいんだ。城の方はもう話がついてる」
「なるほど、わかりました。レイラ様にはずっと無理をお願いしていましたので、ゆっくり休養なさってくださいね」
「すみません。食事会に当選された皆さんに申し訳ないです」
レイラが謝る。
「大丈夫ですよ。延期しても皆さん1年でも待ってくれますよ」
ライラがにっこり笑う。
「いきなりの話で商会には迷惑をかけるから1つ提案を持ってきたんだ」
「提案……ですか?」
「前から相談されてるマギアへの出店なんだけど、さすがに店は無理だが工房なら作ってもいいぞ」
ライラが椅子を倒しそうな勢いで立ち上がる。
「本当ですか! やる! やります!」
「相変わらず即答だな。なんかミリアさんがベック連れて王都のライラ商会で修行したいとか言い出したんだ」
「ミリアさんが?」
「そうそう。で、そりゃ無理だろって言っても真剣な様子だったからいっそライラに打診してみるかと」
「嬉しいお話です。それに毎回王都から運ぶ手間とお金も省けるので」
「そうか。工房だけってさすがに厚かましいかと思ったんだけど。支障のない範囲でノウハウをミリアさん達に教えてくれ」
「あの……魔王様……それはやめた方が……」
聞いていたローエンが小声で口を開く。
「ん? どういうことだ?」
「ローエン!」
ライラが睨む。
「問題があるならちゃんと言ってくれ」
「その……倒れるまで働けということに……」
「え?」
「魔王様。安心してください。マギアの工房はこのローエンに任せますので」
ライラが遮った。
「え?! 冗談ですよね! なんで私が! マギアって!」
ローエンが叫ぶ。
「レイラ、ライラ商会ってそういう感じなのか?」
レイラが気まずそうに顔をそらす。
(超人気アパレルは超ブラックでした、と)
「魔王案件ってことにしておけば早々手出しされないからある程度は安全を保証するぞ。ある程度は」
「そんなぁ……」
ローエンがうなだれる。
「俺達は馬車でマギアに帰るから準備ができたら軍の方に連絡入れてくれ」
「急いで準備します! 他の人選もすぐにしておきますね。私ももちろん視察に行きます。マチルダ、調整お願いね」
「はい……」
マチルダもうなだれる。
(異世界も社畜ばっかりだな)
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




