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第61話【魔王と王女】

王城の一室。


山田が息を切らして扉を開ける。部屋の中央でレイラはうつむいていた。


「レイラ! どうしたんだ、重大な報告って。サイリスも後から来るぞ」


呼びかけにもレイラは顔を上げようとしない。


「どうした! なにかされたのか?」


小さな声が返る。


「勇者を……」


山田の脳裏に不吉な予感がよぎる。


「勇者? あいつが来たのか? くそっ……警備はなにを……」


「勇者を殺しました」


一瞬、山田の思考が止まる。


「は?」


「私が殺しました」


「レイラが……どうやって?」


「私に接触してきたので井戸に突き落としました」


「井戸? 一体……」


(落ち着け。レイラの様子がおかしい)


山田はレイラの前に腰を下ろし、静かに手を取る。レイラの手は氷のように冷たい。


「レイラ、順を追って話してくれるか?」


「はい。スラン様が夜、私の部屋に来たんです」


「なにかされたのか?」


「いえ、来ただけです。神聖国の指示で山田様を殺しに来て……私に協力してほしいと」


「協力?」


「山田様を誘き出して欲しいと」


「なんでもっと早く……いや、すまない。続けてくれ」


レイラは両手を強く握りしめ、声を震わせる。


「私、迷ってしまって……言えなくなって……ひとりで誘い出して……」


山田は思わず息を呑む。


「ひとつだけ確認させてくれ。まだ生きてる可能性は?」


「大丈夫です。山田様から聞いていた暴走状態も確認して……1人覗いて巻き込まれたんですけど……そのまま沈黙しました」


(マジかー……)


「すみません……また相談せずに……勝手に……」


しばし沈黙。山田は迷いながら慎重に言葉を選ぶ。


「いや、よく頑張ったな」


「でも……私……迷ってしまって……すぐに言えず……裏切り者ですよね……」


レイラの頬に涙が伝う。


「レイラは裏切ってなんかない」


「魔王がいなくなれば世界が平和になるかもって、一瞬だけ思ってしまったんです! 裏切り者です!」


「レイラ、ちょっと落ち着け」


「アイツが唆すから! 私を捨てたくせに! 利用しようとして! 何も知らないくせに!」


レイラが泣き叫ぶ。


その声はこれまで溜め込んできた全ての感情のようだった。


山田はためらいながらも、レイラをそっと抱きしめる。


「レイラは悪くない」


「私はみんなのために頑張ってきたのに! 魔族も皆殺しにするって!」


「レイラのおかげでみんな助かったんだ」


「私はあなたのために! あなたに認めてほしくて! 全部あなたのために!」


山田は、静かに背中を撫でる。


「ありがとな」


レイラは山田の胸の中で、子どものように泣き続けた。


 * * *


静けさのなか、扉が開く音が響く。サイリスが駆け込んでくる。


「山田様!」


山田の膝の上でレイラが眠っていた。山田はソファでそっとレイラを支えながらサイリスに目配せする。


「サイリス、大丈夫だ。こっちに座ってくれ」


山田が小声でこれまでの経緯を説明する。


サイリスの表情が硬直し、すぐに驚きと困惑が浮かぶ。


「レイラが……まさか……」


「ずっと思いつめてたみたいで泣き疲れて眠ってるんだ」


「てっきり私を狙ってくるかとヘラと警戒していたのですが……卑劣な……自業自得ですね」


「俺もさすがに頭に来てる。神聖国には少し仕返ししてやらないとな」


サイリスは深く息をついた。


「井戸は確認されたのですか?」


「今ガイアが向かってる。さっきレイラから聞いたんだけど毒ヘビをどっさり投げ込んだらしいからガイアには気をつけろって言っておいた」


「そこまで……」


「頭が良すぎるのも困ったものでレイラに心酔してる人間に頼んだみたいだ。勇者もさぞ苦しんだだろうな。ざまーみろだけど」


「それでもよく成功しましたね」


「《メンタルドレイン》まで使ったって。ほら以前べリアムが言ってた魔法」


「あぁ……対象の精神を……」


「そうそう。俺の魔力譲渡の強化分で習得して練習したみたいだ」


「凄まじいですね」


サイリスが呟く。


「んっ……」


レイラがゆっくり目を開ける。


「起きたか」


「あれ……あ、サイリス様……私……」


サイリスは柔らかな笑みを見せる。


「私はあなたを責めたりしない。山田様を守ってくれてありがとう」


「いえ、そんな……あの……お二人にお願いがあるんです」


「なにかしら」


「私、人間なんですけど……家族にしてほしいんです。やっぱり無理でしょうか」


山田とサイリスが顔を見合わせる。


「私、お二人には幸せになってほしいんです。でも……」


「仕方ないな。じゃあ今日から家族だな」


「そうね。よろしくね、レイラ」


レイラの顔が明るくなる。


それまで張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ。


「ありがとうございます!」


「あ、でもあの王子達とも家族になるのか。ちょっとやだな」


「山田様」


サイリスが睨む。


「冗談だって。睨むなよ」


「レイラ、しばらく仕事を休んで山田様と遊んできなさい」


「えっ! でも……」


「仕事の調整は山田様がなんとかしてくれるわ」


「サイリスも休んだらどうだ?」


「私は無理です。落ち着いたら3人で出かけましょう」


「じゃあ、そうしますね」


それぞれの疲れと緊張が残るなか、3人の間に静かな笑い声が広がった。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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