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第6話【決戦前夜】

ライエル王国。


ランドア大陸東部に位置する中規模の王政国家であり、建国から五百年を数える歴史を持つ。


豊かな水源と穀倉地帯を背景に、食料輸出を軸とした外交を展開している。


魔族領と接しており、建国以来、断続的な小競り合いと大規模な戦争を繰り返してきた。


人類諸国の“連合軍”においても常に中核的な役割を担い、実質的な主戦国家として位置づけられている。


そんな王国の中心、王都カレスタの王城内にある執務室で三人の人影が向かい合っていた。


窓から差し込む柔らかな陽光の中、重厚な机を挟んで座るのは、第33代ライエル王。


「ジーナス、報告を」


王の問いに、隣に立つ王国の参謀長――ジーナスがすぐさま応じた。


「はっ、先日の魔王の襲撃により連合軍は壊滅状態です。現在も魔族の飛行兵による継続的な襲撃で食糧が焼かれ、多くの兵士が帰還を余儀なくされています。我が国も甚大な損害を被りました」


「増援の状況は?」


「橋が落とされたため滞っております。また、川の水もご存じの通りで、現地は混乱を極めております」


「なんてこと……」


思わず声を漏らしたのは、二人の兄を持つ王家の末姫――レイラ王女だった。


「……カシウスとギレンは、無事なのか?」


王が苦しげに問いかける。


その声音には、国を背負う王としての責任と、二人の息子を想う父としての不安が滲んでいた。


「連絡は一時途絶えておりましたが、昨夜、短文が届いております。お二人はご無事とのことです」


「……そうか。それだけでも、朗報だ」


王は机の端に手を置き、わずかに肩の力を抜いた。


「しかし――今代の魔王は、力で蹂躙した先代とは違うようだな」


「はい。正面からではなく、じわじわと追い込んでくるような――得体の知れない不気味さを感じます。一度軍を立て直し、勇者様の到着を待って侵攻ルートを変え、全軍で魔族を殲滅するのが最善と考えます」


「スラン様はいつ来られるのですか? 待ち遠しいわ!」


レイラ姫が顔を上げ、期待を込めた声をあげる。


「来週には王都に到着し、出陣の準備に入られる予定です。王都を出発する際にはパレードも予定されています」


「彼にすべて託すしかないな……」


王は机の上の地図を見下ろし、深く長い息を吐いた。


 * * *


魔王城・会議室。


「全員集まったな」


山田の一言で、幹部たちの目が一斉に向けられる。


「この1ヶ月を稼げたのは大きい。だが、ここからが本番だ。……サイリス、報告を頼む」


「勇者は王都を出発し、すでに前線に到着しております。バルト要塞の前に布陣しておりますので、決戦になるかと」


「……わかった。いよいよだな。……ネイの方は?」


「第3軍は現在も継続的に兵站を襲撃しております。一昨日も大規模な輸送を叩くことに成功しております」


「よくやった。……ダリス、第4軍は?」


「万全の状態です」


「兵士の捕虜400人は解放したか?」


「ご指示通りに」


「捕らえた村人たちはそのままだ。まともな環境できっちり食わせてるか?」


「はい。しかし一体何の意味が……」


「ダリス。村にはほとんど食料は残ってなかっただろ? あれだけの軍を維持するなら、周辺の村からも取り上げてるはずだ。要するに村人たちは、あのままでも先はなかったんだ」


「食べさせておけ。いずれ魔族領を広げるときには、真っ先に領民になるからな」


ダリスが目を見開く。


「魔族領を……」


「当然だろ? このままがいいのか?」


「いえ! 皆にも伝えておきます!」


「最後に……ガイア。いけるか?」


「対勇者の策をずっと練って参りました。どれほどの犠牲が出ようと、勇者を討ち取ってみせます!」


「期待してるぞ。……最後に。この戦いを無事切り抜けたら、幹部全員と、各軍で特に武功を上げた者に、俺直々に魔力の譲渡を行う」


部屋の熱気が一気に高まる。


サイリスの目が、歓喜で輝いていた。


「以上だ。魔族の本気を見せてやれ!」


「はいっ!!」


全員の叫びが、部屋に轟いた。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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