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魔王山田、誠実に異世界を征服する  作者: nexustide400
第一部《魔王VS勇者》編
58/101

第58話【勇者、王女に会う】

ライエル王国・王都カレスタ。


王城の一室で、山田とレイラがリバーシを広げている。


山田はじっと盤面を見つめる。


「全く勝てない……レイラは最近始めたばかりだよな?」


レイラが微笑む。


「ふふ、この前チェイスさんが持ってきてくれたんです。これも楽しいですね」


山田がため息をつく。


「だめだこりゃ。よし、トランプでスピードしよう」


「はい」


2人でスピードを始める。真剣勝負の末、山田が勝つ。


「やったー!! レイラに勝ったぞ!!」


「むっ……」


山田がガッツポーズをすると、レイラが悔しそうな顔をする。


「悪かったよ。でもひとつぐらい勝たせてくれない?」


「スピードも練習しておきます」


「やれやれ。リバーシもトランプと同じように魔王国でも量産するけどレイラも売っていいぞ」


「ありがとうございます」


山田が部屋の隅に積まれた箱や手紙の山を見やる。


「ところであれなんだ?」


レイラが振り返る。


「あれは食事会で参加者の方にプレゼントして頂いたものです。あとは城に送られてくる手紙ですね」


「すっかり絶大な人気の王女様じゃないか。もう魔王カバンなんか誰も買ってないんじゃ」


「っ……」 レイラの表情が一瞬固まる。


「え……なにその顔。なんかあった?」


「いえ、その……ライラさんが販売コーナーを縮小したと言っていたので……」


「……あの守銭奴め。一度魔王国への通行許可取り消してやろうか」


「それは!」 レイラが慌てる。


「冗談だよ。それぐらいレイラブランドが売れてるならいいことじゃないか。ライラはサイリスとも共同で商会始めるってさ」


「この前ブルーネでお会いしたときにお聞きしました。あとその……フライの件も……」


「……あぁもう相談したのか。俺もその件で寄ったんだ」


「この前言わずに申し訳ありません! お願いするときに伝えるべきでした!」


レイラが頭を下げる。


「謝らなくていいって。俺ならその可能性に気付いてると思ったんだろうし」


「そんなことは……」


「なんか嫌味っぽい言い方になってしまった。うーん、ともかく必死だったんだろ? 俺も悪いんだし。頭上げろって」


レイラはうつむいている。


「サイリスはなんて?」


「サイリス様はもしできるとしても習得はやめた方がいいと」


「そうだな。せっかく順調なんだし」


「はい」


「ほら、元気出せよ。さて、もう夕方だしちょっと用事があるから悪いけど行くぞ」


「また来られますか?」


「おう、なにかあったら呼んでくれ」


レイラは窓から飛び去る山田の背中を見送った。


 * * *


夜、レイラの私室。


レイラがベッドに腰掛けている。


(はぁ……ちょっとガッカリさせてしまったかな。言えばよかった……。でも言ったら警戒されて……はぁ……)


ぼんやりしていたレイラの耳に、カツンと窓を軽く叩く音が届く。


「なにかしら?」


ゆっくり窓を開けると、そこにスランが立っていた。


レイラは一瞬、言葉を失い目を見開く。


「スラン……様?」


「ご無沙汰しております、レイラ王女殿下。このような時間に女性の部屋に押しかけるなど無礼極まりないのですが、大事なご相談が」


「え、えぇ……どうぞお入りになってください」


「ありがとうございます」


スランが音を立てぬよう部屋に入る。


レイラは未だ状況を呑み込めず、扉の方を気にしながら問いかける。


「どうやってここまで……」


「夜を待ってなんとか警備を抜けて外壁を。途中落ちそうになってヒヤヒヤしましたが」


「見つかったら大変なことに……」


スランは静かに姿勢を正し、レイラの前で深く頭を下げる。


「レイラ様、その……本当に申し訳ございませんでした!」


「え? なにを……」


「魔王に敗れてそのまま逃げ去り、その結果レイラ様を大変な目に遭わせてしまい……お詫びのしようもございません」


「いえ……もう終わったことですので……」


「実は神聖国から密命を帯びて来たのですが……それよりもレイラ様、私と逃げませんか?」


意外な提案にレイラは戸惑いの色を隠せない。


「え……逃げる……?」


「魔王の支配下で辛い日々を過ごされて……埋め合わせにはなるとは思いませんが、せめてここからお救いしたいのです」


レイラは少しうつむき、手を握りしめる。


「それは……できません」


「なぜですか?! やはり無理矢理従わされて……」


「民は王家を信頼しています。私が逃げ出すわけには参りません」


「しかし……」


レイラが視線を落としたまま問いかける。


「密命というのは山……魔王を倒されるのですか?」


「はい。どうしてもレイラ様がここに残られるのでしたら……レイラ様、お願いがございます」


「なんでしょうか?」


スランは覚悟を決めたように顔を上げる。


「魔王を誘き出すことはできませんか?」


「え……」


レイラは言葉を失う。


「レイラ様は魔王とやりとりをされていると巷でも噂になっています。もし本当なら奴を呼び出すことは可能でしょうか?」


「呼び出して……倒されるのですか?」


「はい。残念ながら魔軍は強大です。しかし奴との一騎打ちなら確実に殺してみせます。そのための手段もあるのです」


「そんな……」


レイラの表情に動揺が浮かぶ。


「レイラ様、魔王が恐ろしいのはよくわかります。しかし魔王さえ討ち果たせば王国は元の平和を取り戻せるのです」


「私は……」


スランが少しだけレイラの様子をうかがい、優しく続ける。


「突然このようなお願いをして混乱されていると思いますので、3日後にご意思を伺いに改めてこちらに参ります」


「はい……」


「それではまた」


スランは一礼し、夜風に溶けるように窓の外へと去っていく。


レイラはただ静かにその背を見送った。




(山田様を……私は……)




【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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