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第57話【勇者、秘宝を手にする】

ランドア大陸中央部。白亜の城壁と巨大な大聖堂を抱くアリアン神聖国の聖都アーク。


女神アリアを絶対の神と崇めるアリアン正教の聖地であり、神聖国の教えと権威は全世界に広く浸透している。


女神の御名のもと、大陸の果てまで信仰が行き渡り、人々の祈りがこの都市に満ちている。



勇者スランが重い扉を押し、大聖堂へ入る。教皇の姿が奥に見える。


「ライライ教皇聖下、お呼びでしょうか」


教皇がゆっくりとスランを見た。


「勇者スラン。少しは落ち着きましたか?」


スランは即座に頭を下げる。


「先日は大変見苦しいところをお見せしました、深くお詫びいたします」


「許します。魔が世界を覆う未来が迫っています。あなただけが頼りです」


「はい。しかしながら先日も申しましたが私には手立てがありません」


教皇がその場の空気を整える。


「皆も集まっているので一度状況を整理しましょう。アッサイ、お願いできますか?」


アッサイが静かに現状を語り始める。


「ライエル王国に放った密偵の情報では魔軍は軍の再編をし、魔王国方面からも兵士が続々と入っています」


全員がざわめいた。


「やはり侵攻の準備を?」


「わかりません。ただ国境付近の防備は強化しているようです」


「スラン殿が来たことは公表しているので警戒されるのは当然ですね」 教皇が落ち着いて返す。


スランがアッサイに尋ねる。


「アッサイ様、魔軍はなにか大きな石を積み上げていたりしないでしょうか」


「スラン殿はご存じないのですね。ライエル王国では採石場の求人が常に出されており、石の運搬や集積も確認されています」


「くっ……そこまで……」


「スラン殿は実際に体験されたようですが魔軍と開戦すると恐らく前線だけでなくこの聖都も含めて甚大な被害が出るでしょう」


「岩など障壁で防げばいいだろう」


司祭の一人が叫ぶとアッサイが頭を振る。


「この聖都を覆う巨大な障壁など不可能です」


スランが口を挟んだ。


「自分は突然の事態に逃げ出してしまいましたが、来ることがわかっていれば障壁で少なくとも軍は問題ないかと」


「聖都の信徒は見捨てると? それが勇者の発言か!」


「それはあなた方の仕事でしょう。都でも民を集めて障壁を展開すれば被害は減らせます」


「なんだと!」


教皇が手を上げて静かに言う。


「2人ともやめなさい。スラン殿、事態は更に深刻です」


アッサイが報告する。


「ブルーネ軍も同じように考えて防衛しようとしたようですが実際にはあっさり壊滅したようです。目撃情報ではブルーネへの道中に巨大な穴が空いていると。魔王の攻撃だったという噂もあります」


「障壁も魔王の前では無意味だと……それではもう……」司祭の1人がうなだれる。


「ブルーネはどうなったのですか?」 スランが尋ねる。


「魔軍に占領された後も四大ギルドを含めて民は普通に生活しているようです。特に処刑されている様子もなく商人も出入りできています」


「それだけが救いですね」 教皇が静かに言う。


「はい。新しく総督となったサイリスという魔族の女性ですが、元軍団長で魔王の側近となっていた者です」


「恐らく魔王の側にいた魔族ですが強大な魔法を駆使していました」 スランは思い出すように言った。


「その気になればブルーネはいつでも蹂躙できるということですね」 教皇が下を向く。


「状況は把握できましたが、私が呼ばれた理由がわかりません。私は魔王の居場所を特定できませんし、魔王城までひとりで攻め込むなど不可能です」


「スラン殿に魔王の幹部を暗殺して頂くなどさまざまな案が出たのですが、ひとつ有力な案が」 アッサイが言った。


「もう勇者としての評価は地に堕ちている。暗殺でもなんでもやるさ」


教皇がスランに顔を向ける。


「それでは勇者スラン。ひとつ頼みがあります。ライエル王国のレイラ王女と接触してほしいのです」


スランは声を上げる。


「え? レイラ王女ですか?」


「アッサイ、詳細の説明を」


「はい。連合軍の壊滅後、ライエル王国の情勢は最優先で収集していますが、レイラ王女は魔王城に人質として連れて行かれた後、現在は王都に戻り内政に携わっています」


「洗脳でもされて傀儡になっているのだろう」 司祭の1人が声を上げる。


「その可能性はありますが王国民から相当な支持を集めておりまして、その理由のひとつが魔王と交渉をしていると」


「馬鹿な。魔王と交渉などできるわけがないだろう。やはり洗脳だ」


「そうかもしれませんが、集めた情報からも魔王と接触しているのは事実のようです」


やりとりを聞いていたスランが顔を上げる。


「まさか……レイラ王女に魔王を呼び出してもらうということですか?」


教皇が頷く。


「今代の魔王に時間を与えるとなにが起きるか予測がつきません。魔王を直接討ち取る可能性に賭けるべきです」


「しかし……レイラ王女が説得に応じるかどうかも……俺を恨んでいる可能性すら……」


アッサイがスランに問いかける。


「直接確認したわけではないのでしょう? 潜入できるよう手配しますので王都で彼女に会って説得してほしいのです」


「仮に……応じてくれたとして俺が魔王を討てなかったら彼女は間違いなく殺されます」


「勇者ならできるでしょう」 司祭の1人がスランに言う。


「そんな簡単にできるわけが……そもそもあいつは空を飛べるんです。罠だと気付いて逃げられたら終わりだ」


教皇がスランの目を見据えて言った。


「魔王と直接戦えば勝てるのですね?」


「当然です」


教皇が満足げにうなずく。


「素晴らしい。アッサイ、秘宝をここに」


しばらくすると輝くクリスタルが運ばれてくる。


スランがそれを見つめる。


「これは?」


教皇が告げる。


「アリアン神聖国の秘宝 《アリアン・クリスタル》 です。これを使えば魔王が逃げられなくなる結界を張ることができます」


「結界? それなら……いや、本当に効果があるのですか?」


「過去に勇者が使用した記録もあります。必ず発動します」


「しかし、不発になる可能性も」 スランが食い下がる。


「心配は不要です」


「なぜわかるのです!」


「あなたが知る必要はありません。必ず発動します」


スランは観念したように答える。


「そこまでおっしゃるなら……わかりました。一度レイラ王女に接触してみます」


「お願いします。彼女もあなたの助けを待っているはずです」


教皇は静かに告げた。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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