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第55話【サイリス、海賊を働かせる】

ブルーネ総督府。


サイリスの前でデクス兄弟が跪いていた。


「来たわね。手下にはきっちり言うことを聞かせてる?」


「はい! 文句を言う奴は殴り飛ばしています!」 兄が大きな声で答えた。


「結構。早速だけどあなた達には今後も海賊を続けてもらいます」


「はい……えっ?」 兄がうなずきかけ――唐突な言葉に固まる。


「今後は指示した商船を襲撃しなさい。しばらくは北の沿岸部ね」


「あの、よく意味が……」兄弟は顔を見合わせる。


「ヘラ、説明してあげて」


脇に控えていたヘラが一歩前に出る。手元の資料を見ながら事務的に告げる。


「はい。あなた方は今後サイリス総督の命令で北側諸国の商船を襲撃。奪ったものは全て総督府に献上。成果に応じてあなた方に報酬を支払います。尚、その過程で出た死傷者については全てあなた方の責任になります」


弟が慌てて口を挟む。


「ちょ、ちょっと待ってください。自分たちを雇うということで?」


「そうよ。呼び方がややこしいから、あなたはデクスリ、兄の方はデクスラと呼ぶわ」 サイリスが答える。


「拠点にしていた島はそのまま使って頂いて構いませんが、デクスリはブルーネで働いてください」 ヘラが続ける。


「え? なぜです?」


「収奪品をそのまま渡されても検品が手間ですので、あなたが検品してリストを作ってください」


「検品?! 自分がですか?!」


ヘラが無視して続ける。


「報酬とは別に船の補修なども一部補助します。海賊の数も考慮しますので帳簿と乗員名簿も作ってください」


「帳簿って! 自分らは海賊ですよ!」 デクスリが反発する。


「拒否するならあなた達2人を処刑して別の者に打診します」


ヘラの冷徹な声に兄が慌てて頭を下げる。


「弟が大変な失礼を! ご命令通りにやらせて頂きます!」


「そうですか。ちなみにあなたが裏切ったら弟さんを処刑するので、そのつもりで」


弟のデクスリが凍りつく。


「え……」


「わかりました! 絶対に裏切りません!」 兄のデクスラが頭を下げたまま叫ぶ。


「早速ですがデクスリは講師をつけますので、あちらの部屋で1日も早く覚えてください。使えないと判断したら……わかっていますね?」


「はい! 死ぬ気でやらせて頂きます!」 デクスリも勢いよく頭を下げる。


サイリスが兄のデクスラに目を向ける。


「デクスラ。早速だけど、あなた達が補給していた港町シーサイの町長に魔王様の支配下にすると伝えてきなさい。できるわね?」


「もちろんです! あそこは自分らの縄張りですので!」


「使えそうな人間はどんどん補充しなさい。最後に、あなた達の服装は後日制服に変えます。そんな格好の人間を雇ったら私の品性まで疑われるわ」


兄弟は揃って絶句する。


「え……制服……?」


ヘラの無表情な声が追い打ちをかける。


「返事は?」


「はい! なんでも着ます!」


 * * *


ブルーネ総督府。


ヘラが部屋の入口からサイリスに報告した。


「サイリス様、王都からライラ商会長が参りました」


「入ってもらって」


扉が開き、ライラが小さな花束を手に現れる。


「こんにちは、サイリス様。この度は総督ご就任おめでとうございます」


「商会長自らとは驚いたわ。座って楽にして」


ライラは遠慮がちに腰を下ろす。


「ありがとうございます。私が来た方が話が早いと思いまして。もちろん今後のご相談も」


「相変わらずね。レイラブランドも好調と聞いたわ」


「はい、お陰様で。サイリス様もいかがですか?」


「しばらくは検討すら無理ね。来るときに見たでしょ」


ライラは窓の外へ目をやる。総督府の前の広場には、陳情に訪れた人々が長い列を作っている。


「あはは、すごいことになっていますね」


「さて本題なんだけど、海賊の制服のデザインをお願いしたいの」


「え……海賊……ですか?」


「海賊を雇って北側諸国に打撃を与えようと思っているんだけど、あまりにも薄汚いから制服を着させようと思って」


ライラは困惑気味に笑う。


「えっと……サイリス様のお願いなので、お受けしたいのはやまやまなんですが……」


「商会で販売してほしいってことではないの。商会のイメージもあるでしょうし」


「となると、デザインのご依頼でしょうか?」


「そう。いずれ組織化できたらと考えているんだけど、見栄えのいい制服にすれば人も集まるかと思って。難しいかしら?」


ライラは一瞬黙ってサイリスの顔を伺う。


「単刀直入にお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ええ」


「山田様とサイリス様は新大陸も支配されますか?」


「単刀直入すぎないかしら? でも、そのつもりよ」


「そうですよね……私も便乗したいし……どうしようかな……」 ライラはテーブルの木目を指先でなぞる。


「山田様がおっしゃってたけど、あなたは野心を隠そうともしないわね」


「え? すみません! つい本音が。それでしたらこちらに商会を立ち上げるのはいかがでしょうか。サイリス様と私が共同で出資する形で。ご要望のデザインはすぐにご用意しますが、いずれ海賊だけでなく商船の船員などにも商会から提供できればと」


「なるほどね。運営は任せていいのかしら?」


「もちろんです。ただ、こちらのギルドとの交渉が……」


ライラはちらりとサイリスの表情をうかがう。


「私の権限で通すわ。どこかのギルドに加盟させてもいいわね」


「さすがサイリス総督!」 ライラが満面の笑みを浮かべる。


「調子がいいわね。じゃあ話もまとまったし、お茶でも飲んでちょうだい」


「ありがとうございます。言いそびれましたが、総督ご就任のお祝いの品もお持ちしましたので」


「ありがとう。頂くわ」


ライラはにっこりと微笑む。


「サイリス様は活き活きされていますね」


「そうかしら?」


「はい……やっぱり魔王様ですか?」


「え?」


サイリスの頬がほんのり赤くなる。


「ちょっと意外だったんですよね。ずっとサイリス様を側に置きそうだったので」


「意外かしら? 山田様はそういう性格ではないわ」


「絶対的な支配者なのでそういうものかなって思ってたんですけど。レイラ王女への対応を見ても確かに私の勘違いですね」


「あなたはどう? 山田様があなたの話をするときは楽しそうで少し嫉妬するわ」


ライラは驚いたように目を丸くするが、すぐに茶目っ気のある笑みを浮かべる。


「そうなんですか? 確かに私もついつい友達みたいに話しちゃいますけど、恋愛感情はないので大丈夫ですよ」


「わかってるわ。私も山田様のそういうところに惹かれたんだから」


サイリスはカップを手に取り、窓の外を見る。その横顔をライラが少し眩しげに見つめる。


「サイリス様は本当に変わられましたね。私も応援しています」


「ありがとう、ライラ」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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