表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/75

第45話【魔王山田、四大ギルドと交渉する】

ブルーネ・首都ブルーネア。


ギルド会館の大広間に各ギルドの代表者が集まっている。山田、サイリス、アイラ、レイラ、イリヤの五人が入っていくと、四人の男女が待ち構えていた。会場に緊張が走る。


一人の男が進み出る。


「赤ギルドのギルド長、ライオネルと申します。魔王山田殿」


「魔王山田だ。今日はよろしく頼む」


山田が椅子に腰かけると、他の四人も続いて着席する。


「黒ギルド統括のフェーネンだ」


「青ギルドの代表をしておりますザックスと申します」


「黄ギルドを統括しておりますオーウェンと申します」


「ご丁寧にどうも。早速だけど本題に入っていいか?」


「はい。本日はどのようなご用件でしょうか?」 赤ギルド長のライオネルが応じる。


「俺の支配下に入れ」


代表四人がそれぞれに苦しい表情を浮かべる。


「そっちの軍は降伏したし、将軍は捕虜になった。海に逃げ出されたら困るから港も封鎖した」


「それでしたら我々に選択肢はない……ですね」


「そうだな。お前たちが代表なんだろ? 早く受け入れて周知してほしいんだが」


「私たちは……どうなるのでしょうか」


黄ギルド長のオーウェンが震えながら問う。


「何もしない。イリヤから聞いた話じゃ普通に商売してるんだろ。奴隷貿易やってたら全員処刑するけどな」


「そのようなことは!」


青ギルド長のザックスが慌てる。


「具体的な条件を教えてほしい。なにもかも今まで通りってわけにはいかないんだろ?」


黒ギルド長のフェーネンが食い下がる。


「そうだな。まず一つ、軍権は俺が握る。二つ、ギルドはそのまま商売をしろ。三つ、しばらく商船以外の民間運航は禁止。最後に、協力金はもらう」


「ふん、やはりそういうことじゃないか。私らは文無しで商売かい」


「アイラ、四人に資料を配ってくれ」


アイラが資料を配ると、四人は食い入るように目を通す。


「これは……この程度でよろしいのですか?」


ライオネルが驚いたように言う。


「裏があるに決まってる」


フェーネンが山田を睨む。


「裏はないが、実は船が大量に欲しいんだ」


「船を魔王様に献上せよと?」 ザックスが尋ねる。


「くれるなら遠慮なくもらうけど、欲しいのは造船技術だ。こっちにある造船の商会を傘下にする形なんかを考えてる」


「大量に船を集めてどうなさるのです?」


「なんだその質問は。制海権を握るために決まってるだろ。ボルドア大陸を攻めやすくなるし、交易路を押さえたらボロ儲けじゃないか」


「ボロ儲け……? 貿易をされたいのですか……?」


「というかなんなんだい。私らは殺される覚悟でここにいるのに金の話ばかり。本当に魔王なのかい?」 フェーネンが投げやりに言う。


「フェーネン!」


ライオネルが慌てる。


(この婆さん、まーた変人枠か。ほら、案の定サイリスが今にも絞め殺しそうな顔してるし)


「サイリス、深呼吸するんだ。ほら、レイラのように冷静に」


「えっ……はい……」


山田がレイラを見る。


(あれ、なんかレイラも怒ってる?)


「魔王様! フェーネンが大変失礼なことを! 早く謝罪するんだ!」


オーウェンが声を上げるが、フェーネンは意地になって黙り込む。


山田がイリヤに尋ねる。


「イリヤ、この婆さんだよな? 前に言ってたのって」


「そうだよ。相変わらず命知らずの偏屈だね」


(お前が言うな)


「フェーネン、言っただろ。今代の魔王様は平和的な支配者なのさ」


「にわかに信じられなかったけど、さっきの話で納得がいったよ」


「今後が不安だろうから、俺の支配下で楽しくやってるライエル王国から王の代理でレイラ王女に来てもらったんだ。俺は観光に行ってくるから、王国がどんな状況か聞いてくれ」


「か、観光ですか……?」


ライオネルが目を丸くする。


「魚が食いたかったんだ。魔王国にも輸入したいし。じゃあ戻ってくるまで話し合ってくれ」


そう言って山田はサイリスとアイラを連れて会場を出ていった。


 * * *


街中は静まり返っている。


「まったく……どいつもこいつも勝手に仕事サボって家で遊び呆けてるとは。けしからん国だな」


「魔王様、さすがにそれは……」 サイリスが苦笑する。


「どこも店閉まってるし、のんびり港の方にいくか」


三人で歩いていくと、屋台が一つだけ開いているのが見える。


「お、屋台やってる奴いるじゃないか。イカ焼きだ!」


山田達が屋台に行くと店主が声をかける。


「いらっしゃい……え、魔族……い、いらっしゃいませ!」


店主が頭を下げる。


「イカ焼き5つもらえる?」


山田が金を渡す。


「え……多すぎますが……」


「ちょっとお願いがあるんだ。あっちのテーブルに持ってきてくれ」


山田が椅子に座る。


「ほら、サイリスとアイラも座って食べよう」


店主がイカ焼きを持ってくると山田が一口食べる。


「美味い! あー最高。やっぱり海鮮は港町で食うに限るなぁ」


「美味しいです!」 アイラが嬉しそうに頷く。


「サイリスは黙々と食べてるけどイマイチだった?」


「いえ、このようなものは初めて食べましたので。とても美味しいです」


「良かった。アイラ、周囲警戒してるミリトン達を交代で呼んでくれ」


店主がそわそわと山田を見る。


「あの、それでお願いとは……?」


「悪い悪い。俺、魔王なんだけど、もう戦争終わったからさっさと働けってみんなに言ってほしいんだ」


「ま、魔王?!」


店主の顔が真っ青になる。


「そう、魔王。店主もこれから魔族の客が増えるだろうから早めに慣れた方がいいぞ」


「ま、魔王様! 店も金もお渡ししますので命だけは……私には家族が……」


店主はガタガタ震えて頭を下げる。


「はぁ……なにもしないって。さて、ミリトン達も食べ終わったら上から海でも眺めるか」


 * * *


ギルド会館・大広間。


山田たちが去ったあと重苦しい空気が和らいだ。


オーウェンが大きく息を吐く。


「助かりましたね」 ライオネルが呟く。


「ええ、私はまだ手の震えが止まりませんが……」


オーウェンが情けない声を出す。


「アンタも長いこと生きてるのに肝っ玉が小さいね」


フェーネンが呆れたように言う。


「いい加減にしてください、フェーネン。あれで殺されていたら死んだ後も呪い続けますよ」


「魔王様は無闇に殺生はされません」


レイラが静かに口を開くと4人がレイラに向き直る。


「失礼しました。レイラ王女殿下……」


オーウェンが謝罪する。


「魔王様がおっしゃった通り、父・ライエル王の代理として参りました。お聞きになりたいことがあれば何でもおっしゃってください」


「それでは……私達も王国の状況は水面下で調べていたのですが、本当に民に危害は加えられていないのでしょうか?」


ライオネルが真剣な目で問う。


「はい。魔王様は治安を重視されますので犯罪行為に対しては厳しいですが、無闇に襲わせたりはしません」


「失礼ながら、レイラ様は人質として魔王城に連れて行かれたとお聞きしました。その……お聞きできる範囲で……」 オーウェンが言い淀む。


「構いません。魔王城では皆様にとても親切にして頂きました……毎日働き詰めでしたが」


「働かされたのですか? それはその、配慮が至らず申し訳ございません」


「いえ。魔王様のお側で仕事を手伝っていましたので」


「なんだって?」


フェーネンが目を見開く。


「本当だよ。私も何度も魔王国にいったんだけど、いつも魔王様の近くで忙しくしてたよ」 イリヤが補足する。


「わけがわからないね。魔王ってのは玉座でふんぞり返ってるものじゃないのかい?」


「フェーネンギルド長、謹んでください。普段の会合ではないのですよ……レイラ様、フェーネンの失言をお許しください」


ザックスが深く頭を下げる。


「はい。フェーネン様もなるべくそのような発言はお控えください。魔王様はとても寛容な方ですが、忠誠を誓っている魔族の方々は別ですので。正直なところ――私も少し不愉快です」


空気が張り詰める。


レイラが正面からフェーネンを見据える。やがてフェーネンが観念したように頭を下げる。


「申し訳なかった。この通り謝罪するよ」


「繰り返しになりますが、皆様も治安を乱すようなことをされなければブルーネは王国と同様に更に発展すると思います」


レイラが微笑む。


気まずくなった空気を破るようにイリヤがレイラに声をかける。


「私の商会も魔王様と王女様のおかげで大盛況だよ。例の話も宣伝しておいたらどうだい?」


「そうですね。実は今度ライラ商会で――」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ