第42話【レイラ王女、業務提携する】
王城・レイラの私室。
ライラがマチルダに指示を出す。
「それでは急ぎで仕上げますね。マチルダ、先に戻って取り掛かってね」
マチルダは頷いて頭を下げ、静かに部屋を出ていく。
「ありがとうございます。無理なお願いを聞いて頂いて」
「いえいえ、魔王様もブルーネの商人もレイラ様のオーラで圧倒しちゃいましょう」
「頑張ります。それでお支払いに関してご相談がありまして」
「はい、なんでしょうか?」
レイラは少し言い淀みながら口を開く。
「あの……私の名前はその……商品に使えますか?」
ライラがきょとんとした表情になる。
「商品ですか?」
「えっと……ライラさんの商会で……魔王カバンみたいに……」
「もしかして魔王カバンのようにレイラ様仕様で販売ということですか?」
「はい。その……山田様のように私も王女の名前を使えないかなって。やっぱり難しいですよね」
ライラが勢いよく立ち上がり、レイラが驚く。
「ど、どうされたんですか?」
「できます! できるに決まってます!……ちなみにそのお話は魔王様から?」
「いえ、魔王国にいるときにペンダントやカバンの話を聞いていたので、私なりに……」
「素晴らしいです!……この話、他の人にもすでに相談されました?」
「ライラさんが初めてです。今回の件は公費として言いづらいので自分で代金をどうにか捻出しようと」
「もちろん無料でいいです!……ちなみに商品の販売だけでなく、商会の新作を着て宣伝して頂くなんてことも可能ですか?」
「え、着るんですか? それぐらいなら……」
「少しだけお時間頂いていいですか?」
「はい」
ライラは部屋を歩き回りながら考えを巡らせる。
(レイラ様は現在イメージ急上昇中の時の人。ペンダントはフリオに先を越されたけど今回は完全に私。魔王様にはお金さえ渡せば問題なし。ギルドにはしばらくしてから話を通す。これで王国の服飾は私の天下……いける!)
「あ、あの……?」
「失礼しました。それではカバンと同じように認可料と利益の一部を王家にお支払いするという形でいかがでしょうか。もちろん宣伝して頂いた際には都度お支払いします」
「本当ですか? 私でもできそうでしょうか?」
「もちろんです! 魔王カバンより絶対売れます!」
「あ、でもイリヤさんとかバルガスさんにも話を……」
「レイラ様! 待ってください! ギルドにはいずれ私から話しますので、まずはライラ商会で試しにやってみるという形でいかがですか? 評判が良ければ認可料も上乗せできると思いますよ?」
「でも……しばらく認可はライラさんだけにしますので話すだけでも駄目でしょうか? 皆さんと良好な関係を続けたいので」
ライラは一瞬だけ考えると笑顔で言った。
「もちろん大丈夫ですよ。厚かましいお願いをしてしまってすみません」
「いえ、ライラさんにはお世話になっていますので。山田様と父にも説明しますね」
「ありがとうございます。ちなみにドレスを処分される予定でしたら、今回のお話が軌道に乗ればレイラ様のドレスということで富裕層に高く売れると思います。いかがですか?」
「そう……ですね。お任せしてもいいですか?」
「もちろんです。それでは最初にご相談頂いた普段の服装などもご希望をお聞きしますね」
二人は楽しそうに相談を続けた。
* * *
王城・大広間。
山田、サイリス、ライエル王、ジーナス、ガイアが揃っている。
レイラが静かに入ってくる。
「お父様、参りました。……山田様?」
「レイラ、山田殿が大事な話があるそうだ。掛けなさい」
レイラが席につくと山田が説明を始める。
「ブルーネ行きを前倒しで来たわけじゃない。ちょっと話があってな。実はフーシアでデルロイ公爵を尋問していたら、ギレル王子を匿っていたことがわかったんだ」
ライエル王とレイラ、ジーナスが驚きの声を上げる。
「それは真ですか?」 ライエル王が尋ねる。
「あぁ。ガイア、説明を頼む」
ガイアが進み出る。
「はっ。デルロイ公爵を尋問していたところ、ギレル王子を匿っていたと証言しました。王都で公爵のところに逃げ込んできた王子を保護し、フーシアに移したそうです」
「それでギレルは今どこに?」
「魔軍と王国軍が迫っていると聞いて、フーシアから他国に逃げ出したとのことです。公爵も最初は交渉材料にしようと思って匿ったようですが、材料になり得ないとわかり逃亡を手助けしたと」
山田が続けて補足する。
「アリアン神聖国かファーレン王国あたりだと思うけど、あの性格だからあることないこと吹聴するだろうし、いずれ戦争になるかもしれない」
「そんな……」 レイラが顔を曇らせる。
ライエル王も苦しげに呻く。
「あの馬鹿者が……山田殿、申し訳ない」
「いや、デルロイ公爵といい中途半端に見逃した俺の責任だ。ギレル王子の行き先は俺が調べるから統治に専念してくれ」
「承知しました」
山田が続ける。
「それで反省してカシウス王子も探したんだ。そしたら王都の教会に匿われてたんだ」
室内がざわつく。
「市中で酷い目に遭っていたようで、瀕死のところを助けたと言ってる」
「それでも生きていて安心しました。しかし厄介ですな。王国はアリアン正教を国教にはしておりませんが、王国内でも信者が多いです」
「そうなんだ。引き渡せと勧告したんだが、死ぬ覚悟で拒否しているみたいだ」
「それでしたら私が」 ライエル王が身を乗り出す。
「強行したらせっかく安定してきたのにまた火種が増えるからしばらく放置でいい。神聖国に口実を与えるしな」
ガイアが静かに提案する。
「恐れながら……いっそ神聖国と全面戦争に踏み切っては?」
室内に緊張が走る。
「そりゃ勝てるけど世界中の信者が敵になるんだぞ? あっちから攻めてきたら叩き潰すけどな」
「確かに。失礼しました」
「教会は監視するが、カシウスは現状維持だ。直接伝えておこうと思ってな」
「お心遣い感謝いたします」
山田が出ていこうとすると、レイラが呼び止める。
「山田様、少しお話が」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】