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第41話【レイラ王女、懸命に働く】

王城・会議室。


ジーナスが会議の参加者に向けて言った。


「次の議題ですが、レイラ様からご提案のあった王国の特産品の拡充についてです」


ジーナスがレイラを見ると、レイラが説明を始める。


「ライエル王国は昔から豊かな土地で育てた農産物で他国と貿易してきましたが、今後は特産品に加えて単価の高い嗜好品の生産も増やしていきたいと考えています」


官僚の一人が声を上げた。


「それは富裕層向けに、ということでしょうか? その……国内は貴族が粛清されてからそういったものを買える層は減っているかと思うのですが」


「はい。ですので、主に他国への輸出を考えています」


「それがこの資料にあるワインやチーズ、蜂蜜といったものでしょうか。失礼ですが、これらの根拠は?」


「イリヤ商会の商会長をはじめ、商人ギルド加盟の商会と相談して、他国で人気のものをまとめてもらいました」


「なるほど。それでしたら安心ですね」


「ファーレン王国では高級ワインが非常に人気だそうです。また、魔王国では蜂蜜がとても人気で需要があります」


室内がざわつく。


別の官僚がレイラにおそるおそる尋ねる。


「それは……魔王国に納める、ということでしょうか?」


「違います。あくまで商会を通じての取引です」


「その……魔王様はそれをご存知で?」


「はい。ご存知のように認可を受けた王国の商会がすでに魔族領で様々な商品を卸していますので問題ありません」


「なるほど……」


ジーナスが仕切り直す。


「それでは一旦休憩にして、後ほど具体的に詰めていきましょう」


会議が中断すると、数人の官僚たちがレイラに近づいてきた。


「レイラ様、すでに主要な商会ともやりとりされていたとのことで驚きました」


「私も半信半疑だったんですが、魔王様と直接交渉をされているというのも本当なんですね。凄いです」


ジーナスも感心した様子で声をかける。


「私も正直驚きました。他にもいくつかアイデアをお持ちとのことで楽しみにしております」


「はい。近々提案できるかと思います」


 * * *


王城・別室。


イリヤが机で書類をまとめているとレイラが静かに扉を開けて入ってくる。


「イリヤさん、お待たせしました」


「うまくいったのかい?」


「はい、おかげさまで。協力して頂いてありがとうございました。他の商会長の方々にもお礼を伝えて頂けますか」


「伝えておくよ。あんまり私ばかり儲けてると魔王様に怒られそうだからね。他の商会にも声をかけて正解だったよ」


「ありがとうございます。ブルーネにはイリヤさんも同行されるんですよね?」


「あぁ、来週出発って聞いてるよ」


レイラが少し考えてから口を開く。


「山田様がうまく属国にされるでしょうけど、ブルーネとも貿易を活発にしたいですね」


イリヤが呆れた様子で言った。


「レイラはだんだんアイツに似てきたね。なにかやりたいことがあるのかい?」


「はい。王国もまだまだ貧富の差が激しく苦しんでいる人達が多いので、なんとかしたいんです。それに……」


イリヤが椅子に深く座り直す。


「なんだい?」


「以前、その話をしたら格差是正は治安向上につながるって山田様が」


「その通りだと思うけど、アイツが言うと良い話がことごとく打算になるね」


「そうですね」


レイラが笑みを浮かべる。


「私も孤児院を運営してるけど、王都全体なんてとても網羅できないからレイラに頑張ってもらうしかないね」


「はい、頑張ります!」


 * * *


王城・レイラの私室。


レイラが椅子に座り、窓際にはドレスが並べられている。ライラともう1人の女性が部屋に入ってきた。


「ライラさん、わざわざ王城まで来て頂いてすみません。私が伺うべきでした」


ライラはすでに目を輝かせて部屋を見回している。


「とんでもないです! レイラ様の私室に入れて頂いて感激です。あちらのドレスを拝見しても?」


返事を待つ間もなく、ライラはドレスの前に駆け寄り生地や装飾を熱心に観察する。


もう一人の女性が慌てる。


「商会長、自重してください! レイラ王女殿下、私はライラ商会で工房長を務めておりますマチルダと申します。商会長が大変失礼を……」


「レイラでいいですよ。ライラさんとは何度もお会いしていてもう慣れていますので」


「そ、そうですか……それでは本日のご相談をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「あちらのテーブルでよろしいですか?」


「もちろんです。商会長! 早く来てください!」


ライラが渋々ドレスから離れ、椅子に座る。


「実は公私共に装いを新しくしたいのです。ドレスも最小限だけ残して処分したいなと」


ライラは目を丸くしてレイラを見た。


「それはまた思い切ったご相談ですね。具体的にどういった感じに?」


「魔王国ではずっと職員の制服を着ていたのですが、動きやすかったんです。こちらに戻ってから窮屈に感じるようになってしまって」


「なるほど。でも……よろしいのですか? 王家の伝統といいますか、王女様の習慣といいますか」


レイラは少しだけ息を吐く。


「それがもう嫌なんです」


ライラが驚いて目を見開く。レイラは意を決したように続ける。


「もう綺麗なドレスを着て箱入りだと噂されるのは嫌なんです。マチルダさんもそういう評判をずっと聞いてきたでしょう?」


「い、いえ! そんなことは!」


マチルダがうろたえる。レイラは自嘲気味に笑う。


「いいんです。これまではずっとそうでしたから。でもこれからは……」


ライラが真剣な目でレイラを見つめる。


「な、なにか?」


「素晴らしいです! そういうお話でしたらライラ商会が全力でお手伝いします」 ライラが笑顔で言った。


「ありがとうございます。それで1つ急ぎでお願いがあるんです」


「なんでしょうか?」


「来週、父の代理としてブルーネを訪問する魔王様に同行する予定なんです。それでそのときの……」


「なるほど。マチルダ!」


呼ばれたマチルダが大きなノートを広げて慌ててペンを走らせる。


「外交特使としての服装ということですね?」


「はい。その……説明が難しいのですが……」


「サイリス様のようなイメージですか? 力強さと洗練さを併せ持った――」


「はい! そうです! ただサイリス様のように軍服というわけにも……」


「マチルダ。できた?」


マチルダがライラに手渡す。ライラはそれを見ると、手早く直してからレイラに差し出す。


「おおまかですがこのような感じでいかがですか? 実際には何着かご用意しますけど」


「凄い! イメージ通りです。ライラさんに相談して良かったです」


「ありがとうございます。それでは更に詳しく聞かせてください」


三人は相談を続けた。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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