第40話【レイラ】
「アイラさん、お世話になりました」
「こちらこそ。王国に戻っても頑張ってくださいね」
「はい、またお会いできるのを楽しみにしてます」
(アイラさんには感謝しかない。ひとりだと孤独に耐えられなかったと思う)
「こんにちは、ジーンさん。今日はお別れのご挨拶を・・・」
「あ! レイラさん! 王国に戻っちゃうんだって? 子どもたちも残念がってたわ」
「私も寂しいです。また魔王国に来る機会があれば必ず来ますね」
「約束よ。王国でも頑張ってね!」
「ありがとうございます」
(みんなとお別れするのは本当に寂しい。でもジーンさんから教わったことを王国でも実践しないと)
「レイラ、ここからはバルガスの馬車で王都に向かってくれ」
「わかりました。あの・・・」
「どうした?」
「本当に私にできるでしょうか・・・?」
「なんだ、この前の勢いはどこにいったんだ」
「いざとなると少し不安になってきて」
「最初からなにもかもうまくいくわけないからな? 失敗してもなんとかしてやる」
「そう、ですか・・・ありがとうございます」
「じゃ、またブルーネ行くときにな」
「はい」
(結局不安を打ち明けてしまった・・・でも少し気が楽になった)
「あれ、イリヤさん?」
「来たね。ちょうど魔王国への納品の帰りだったんだけど、魔王様から王都までの同行を頼まれてね」
「そうだったんですね。わざわざすみません」
「ちゃんと報酬はもらってるから気を使わなくていいよ」
(あの人は適当に見えて常にこういう配慮をしてくれる・・・人質になっていた間もずっとそうだった・・・)
「しかし、この道路はすごいね。よくまぁ次から次へと思いつくもんだ。悪巧みも次々思いつくからタチが悪いけど」
「私も側で見ていましたが、なにか物の見方が違うというか」
「あの魔王様のやり方を真似したらレイラも金の亡者になりそうだね」
(王国に戻れと言われたときは安堵もあったけど、それ以上に・・・もっとあの人のやり方を見たかったのかも・・・自分でも意外)
「久々の王都はどうだい?」
「ホッとしました。でも沿道に人が多いですね。手を振ってくれる人も多いし」
「実は新聞なんかでレイラの事がいっぱい書かれてるんだ」
「え?」
「魔王に王国民の窮状を訴えて自ら王都に戻ってきたって。そうなのかい?」
「え・・・」
「その様子だとまたあの魔王サマの画策だろうね。ま、期待されてるんだろ」
(不本意だけど、王女の地位ではなく働きに期待されるのは初めて・・・頑張ろう)
「お父様! お久しぶりです」
「おぉ! レイラ! 待っていたぞ!」
「前線に行かれていたと聞きましたが、戻られたのですね」
「レイラが戻ってくると聞いて慌てて昨日王都に戻ったのだ」
「大丈夫なのですか?」
「心配ない。デルロイ公爵が降伏したのでフーシアも平和になる」
「それは良かったです。ジーナスも元気そうで」
「はい、ありがとうございます。失礼ながらレイラ様は以前と雰囲気が変わられましたね」
「そうでしょうか?」
「山田殿のところで鍛えてもらったのだろう? 話は聞いている。楽しみにしているぞ」
「はい、お父様」
(久しぶりに会ってホッとしたけど、お父様は随分若返ったような・・・もっと私の心配をして落ち込んでいるのかと思ってたのに、ちょっと複雑・・・)
「レイラ様、お着替えの支度を」
「自分で着替えるから必要ないわ」
「え・・・でも・・・」
「もっと動きやすい服装にしたいの」
「しょ、承知しました。ではこちらのドレスなどは?」
「ドレスはいらないわ。でもいい服が少ないし・・・そうだ、ライラ商会に連絡してもらえるかしら?」
(ちょっと強く出過ぎたかな。イリヤさんみたい。でももうお飾りの王女になりたくないからしっかりしないと)
「ジーナス、少しいいですか?」
「はい、レイラ様」
「先ほど議題になっていた件で私にも資料を見せて欲しいのですが」
「あ、その・・・あのような実務をレイラ様がなさらなくても。我々の方で進めますので」
「それは私にはできないということでしょうか?」
「いえ! 決してそのようなことは!」
「経験不足は自覚していますが、魔王様からあなたと一緒に進めるように指示されているのです。蚊帳の外にされては困ります」
「承知しました! すぐに資料をお持ちします」
「お願いします」
(ついあの人の名前を出してしまった・・・でもジーナス以外の官僚も明らかに私のことを煙たがっているし、使えるものは使わないと)
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】