第32話【ライエル王、元気になる】
会議の翌朝。
訓練場に近衛兵長のロイドとジーナスが整列して立っていた。
ライエル王が現れると、二人は大きな声で挨拶した。
「おはようございます!」
「おはよう。ロイド、ジーナス」
「準備はできております。こちらを」
ロイドが木剣を差し出すと、ライエル王がそれを受け取る。
「ありがとう。早速頼めるか」
王とロイドが構え、訓練用の木剣が静かにぶつかり合う。激しい打ち合いはなく、呼吸と動きの感覚を確かめるような静かな稽古だった。
しばらくして、ライエル王が息を整えながら訓練場を歩いてくる。
「お疲れ様です! こちらを」
ジーナスがタオルを差し出す。
「ありがとう。やはり久々で体が言うことを聞かない……二十年ぶりぐらいか?」
「いえ、見事な剣捌きでした」
「はは……カシウスとギレルにももっとやらせるべきだったな」
「……あ、その……」
「あぁ、二人とも立派な大人なんだから今頃しっかりやっとるだろう。いい加減、親離れせんとな」
「え、えぇ……陛下、ガイア様の出迎えの準備は整っております」
「おぉ、そろそろ支度せねばな」
* * *
王城、謁見の間。
ライエル王とジーナスが静かに立っていると扉が開き、魔軍第1軍団長のガイアが入ってきた。
「ガイア殿、お待ちしておりました」
「お初にお目にかかる。ライエル王」
「さ、こちらへ」
ライエル王が玉座を勧める。
「申し訳ないが、私は一軍人。玉座に座る資格のある方は魔王様のみです」
「それは大変失礼した。それでは場所を変えましょう」
* * *
王城、執務室。
テーブルを囲み、改めて簡単な挨拶が交わされた。互いの健勝を喜び、王国の現状について形式的な言葉が続いた。
ガイアが腰から一つの封筒を取り出す。
「それでは早速だが、魔王様からお預かりした“協力金”の詳細がこちらだ」
ガイアが封筒をジーナスに渡す。
「この場で確認しても?」
ライエル王が問うと、ガイアは頷いた。
「もちろんです。意見があれば知らせて欲しいとのことです」
ジーナスが数枚の書状に目を通し、眉を寄せた。
「これは……」
「どうした?」
ライエル王が尋ねる。
「いえ……その……」
「責任は私が取るから、ガイア殿に」
「はい。……想像していたよりかなり少ないといいますか……」
「魔王様からの伝言をお伝えする。“最初は大目に見てやるから早く国を立て直して山ほど貢げるようにしろ”。以上だ」
「はは、山田殿らしい。我々も期待に応えねばな」
ガイアは再び腰から封筒を取り出し、今度はライエル王に手渡した。
「もうひとつ預かっているものがある。これはライエル王に」
「拝見しても?」
ガイアが頷くと、ライエル王は封を開けて中身に目を通した。
「おぉ……レイラは元気にやっておるようですな。山田殿ならきっと大事にして頂けると信じておりました」
「レイラ様が……」
ジーナスの声が弾む。
「しかし、これは本当に娘なのでしょうか? 別人のようにしっかりした内容ですが」
「レイラ殿は毎日、魔王様の側で懸命に働いて学んでおりますぞ」
「それは驚いた。山田殿は人を育てる才能もおありなのですな。……さて、ガイア殿。ひとまず部屋を用意しておりますので続きは後ほどいかがかな」
「承知した。兵士たちも連れてきておりますので落ち着いてからじっくり相談しましょう」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】