第29話【魔王山田、家庭訪問する】
山田が赤ちゃんを抱いている。
「おー、めちゃくちゃ泣いてるな。元気な証拠だ」
「きっと魔王様に抱いてもらって感激してるに違いないですな」
ガイアがにこやかに笑う。山田は赤ちゃんを母親のファムに返した。
「ありがとうございます。きっとこの子も魔王様のように強い子に育ちますわ」
「楽しみだな」
「魔王様、本当にありがとうございます!」 父親のヴァンが深く頭を下げる。
「またいつでも呼んでくれ」
山田がガイアに目を向ける。
「ガイア、ちょっといいか?」
「はい」
二人は席につく。
「今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました」
「なかなか来られなくてすまなかったな。準備はできたのか?」
「はい。明日には出立予定です」
「家族には?」
「あちらにいる妻と娘たちには伝えました。妻はここで娘たちと一緒に暮らすことになりましたので」
「そうか。それは安心だな。恐らくかなり長期任務になる。今のところ隣国のファーレン王国とアリアン神聖国は静観してるが、いずれ動いてくるだろうから頼んだぞ」
「お任せください!」
「それじゃ、ダリスのところに行ってくるよ」
* * *
家の前にダリスと女性、そして子ども三人が立っている。
山田が手を振ると、子どもたちが叫びながら山田に駆け寄ってきた。
「魔王様だ!」
「マントかっこいい!」
「魔王様、一緒に遊ぼう!」
「お前ら! 離れろ! あれだけ言ったのに……すいません、魔王様」
ダリスが慌てて詫びる。
「魔王様! 申し訳ございません!」 妻のジーンも大慌てで走ってくる。
「いいっていいって。元気だな。よし、ちょっと遊んでやる。なにする?」
「魔王様ごっこ!」
「俺が魔王様!」
「私も!」
「魔王様、勇者やって!」
「俺が勇者か。よし、かかってこい。一瞬で倒されてやる」
子どもたちと遊んでいるうちに、周囲に人が集まり始める。
「魔王様だ!」と声が上がる。
「すいません、なんかみんな集まっちゃって……中に入ってください」
ダリスが申し訳なさそうに促す。
「じゃあお邪魔するよ」
護衛のミリトンとリューシーが外に立ち、山田は家の中へ。
「すまない。騒ぎにしてしまって」
「いえ、わざわざ来て頂いてありがとうございます。紹介が遅れましたが妻のジーンです」
「お初にお目にかかります、魔王様。本日はありがとうございます。食事を用意しておりますので、ぜひ召し上がっていってください。」
やがて食事が運ばれてきて、卓を囲む。
「美味しい!」
「お口に合って良かったです。小麦を練って味をつけているんです」
「なるほどね、絶品だ」
談笑が続く中、棚に並んでいる何冊もの魔法書が山田の目に入る。
「あの魔法書って? ダリスじゃないよな?」
「……あれは妻の本です。元々第2軍で中隊長でしたので」
(中隊長……子ども生まれたからかぁ……優秀な人材が……うーん) 山田が考え込む。
「魔王様が降臨されてから、どの軍も強大になったと聞いております」 ジーンが話しかける。
「うーん」
「魔王様?」
「軍には戻せないしなぁ……」
「どうされましたか?」 ジーンが心配そうに聞く。
「みんなお金ほしいよね?」
「は? 金ですか?」 ダリスがきょとんとする。
「うーん……あ! そうだ!」 山田が勢いよく顔を上げる。
「ジーンさん、働きたい?」
「え?あの、私は子どもが……」
「魔王城の近くに託児所作るから所長やらない? 子どもも見られるし」
「え? わ、私がですか?」
「突然なにを……」
ダリスが困惑する中、山田が詳しく説明する。
「というわけで魔法教育もできるし、もちろん定時帰りだ。あとジーンさんと似たような境遇の人を探してほしいんだ。今はとにかく人材不足でね。どう?」
ジーンが真剣に考え込む。
「ジ、ジーン?」 ダリスが慌てる。
「できる!ジーンさんなら!」
「……わかりました。魔王様のお願いですし、私にできることなら」
「よし! おーい、ミリトン。悪いけど急いでキンバリ呼んできてくれ」
山田が外に出て指示をする。
「魔王様は不思議な方ね」
「……あぁ。いつもあんな感じだけど、凄い人だぞ」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】