第28話【魔王山田、街を歩く】
首都マギア。
王国から来たバルガスとライラを見つけた山田達が近付いていく。
「待たせたな」
「とんでもございません。イリヤはいかがでしたか?」
「早速契約成立だ。王都からの輸送はバルガスと交渉でいいか?」
「もちろんです」
「バルガスは親衛隊に案内させるから街と郊外を見てもらって、王都からの輸送方法を提案してほしい。さすがに全部は見せられないけどな」
「ご配慮頂きありがとうございます。期待以上のご提案ができるように尽力いたします」
「さて、ライラ。希望していた主要な服飾店にいこうか。話は通してあるが騒ぎにならないように俺も行く」
「ありがとうございます」
* * *
ミリア服飾店。
山田たちが店に入ると、店主のミリアが出迎えた。
「魔王様、お待ちしておりました」
「話を引き受けてくれて感謝する。早速だが、お願いできるか?」
「もちろんです。ライラ様、こちらへ」
ミリアとライラが歩きながら話し出す。
そこへひとりの少年が歩いてくる。
「いらっしゃいませ、魔王様。ベックと申します。こちらへどうぞ」
ベックに案内され、山田はテーブルに座る。
「ほら、二人も座っていいぞ」
サイリスとレイラも席につく。
「お茶をお持ちしました。店主から魔王様のお話の相手をするようにと」
「若いのに随分しっかりしているな。ここに勤めているのか?」
「いえ、店主は私の母です」
「店を手伝ってるのか。偉いな」
「ありがとうございます! 魔王様に褒めてもらえて感激です!」
(こんな子どもも働いてるんだよなぁ。マギアには学校がないし。大昔はあったらしいけど。孤児も多いし、早めにやっていかないと)
「最近商売はどうだ?」
「はい、お客さんも少しずつ増えています。魔王様のおかげです」
「それはベックが頑張ってるからだろう」
「いえ、魔王様が降臨されてからみんな元気になっていますので」
「そうか。じゃあ俺もベックに負けないように頑張るよ」
「あの……魔王様」
「なんだ?」
「親衛隊に入るにはどうしたらいいんでしょうか? 友達もみんな入るんだって」
山田はサイリスと顔を見合わせる。
「魔王様のために努力を続ければ、いずれ必ず入れるわ」サイリスが優しく語りかける。
「本当ですか! 頑張ります!」
そこへミリアとライラが戻ってくる。
「魔王様、ベックは失礼はなかったでしょうか?」
「あの年でしっかりしていて驚いたよ。親の教育の賜物だな」
「とんでもございません。ありがとうございます」
「ライラは見学は終わったのか?」
ライラが頷く。
「じゃあ、行くか」
* * *
「よし、店は全部回ったな」
「……あのー、魔王様」 ライラが遠慮がちに口を開く。
「どうした?」
「実は工房を見せてもらえることになりまして。是非見てみたいなーと」
「そうか。じゃあ人をつけるから、終わったらそのまま宿に戻ってくれ」
「ありがとうございます!」
ライラと別れ、山田達はそのまま魔王城に戻る。
廊下の先からアイラが駆けてくる。
「魔王様、お呼びでしょうか?」
「あぁ、ちょっと大事な話があってな。レイラはここで待っていてくれ」
山田はサイリスとアイラを連れて部屋へ入る。
「実はレイラと相部屋になってほしいんだ」
「相部屋、ですか?」
「あぁ。レイラは単なる人質ではなく、いずれ王国の中心に据えるつもりだ」
アイラが真剣に耳を傾ける。
「ただ、ひとりで部屋に閉じ込めるとホームシックでいつ余計なことをするかわからない。だから一緒にいて目を光らせてほしい」
「親衛隊長として、あなたが適任だと魔王様に推薦したわ」 サイリスが補足する。
「ありがとうございます! 全力で務めさせて頂きます!」
「アイラも複雑だと思うが、今後ずっとではないから頼めるか?」
「もちろんです」
* * *
翌日。
「この度は貴重な機会を頂き、ありがとうございました」 バルガスが深く礼をする。
「帰りは第3軍に空路で送らせる。次は品物と一緒に馬車で来てくれ」
「はい。またお会いできる日を楽しみにしております」
「イリヤ、ちゃんと持ってきてくれよ」
「任せな。すぐに持ってくるよ」
「私も今度来るときは魔王様専用の服を最低10着はお持ちしますね!」
「お、おう……半分でいいぞ」
三人が離れていく。
山田とサイリスは城に向かって歩いていった。
「サイリス。魔族はこれからきっと豊かになる」
「はい」
二人は静かに歩く。
「いつもありがとな、いずれ……」
「え?」
「いや、いい」
サイリスが不思議そうな顔をする。
「さーて、また明日から仕事頑張ろうか」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】