第27話【魔王山田、王女を働かせる】
「おはよう、サイリス」
城の回廊に響く山田の声に、サイリスがすぐさま応じた。
「おはようございます、魔王様。これからどちらに行かれますか?」
「王女のところだ」
山田は軽く肩を回しながら歩き出す。サイリスは一瞬迷ってから問いかける。
「ひとつお聞きしても?」
「うん?」
「なぜレイラ王女なのですか? 魔王様はその……」
「変な想像をするな。次の王候補はカシウス王子でも良かったんだけど、なんか気が小さそうだったしな。もう一人は論外だ」
「そう、でしたか……」
「何人もいると萎縮しそうだから俺ひとりで話してくる。って、何もしないから妙な想像はするなよ」
サイリスは見透かされたように下を向いた。
山田はレイラの部屋の前で足を止め、扉をノックしてから中に入った。
「おはよう。よく眠れたか? それなりに広い部屋を用意したんだが」
部屋の奥に座るレイラ王女は顔を背けたまま、黙っている。
「勝手に連れてこられて怒ってるんだろうけど、今日も忙しいんだ」
「お好きになさればいいではないですか……わ、私を辱めたいのでしょう……?」
小さくなるレイラ王女を見て山田が困った顔になる。
「うーん、見込み違いかなぁ。王都に帰るか?」
レイラは驚いたようにハッと顔を上げた。その表情には希望が浮かんでいた。
「あぁ、王城には立ち入り禁止だぞ」
「え……」
レイラの顔から血の気が引いた。
「カシウス探さないとなぁ。まだ生きてるかな」
レイラの肩がわずかに震え始める。
「なぜこんなひどいことを……」
「うん? 責任者に責任を取らせるのは当たり前だろ? 国民にはなにもしてないし」
「そんな……私は……」
「王家の指示で散々魔族殺したんだろ?」
レイラは絶句したまま、何も言えなかった。
「で、どうする? 帰るか早く決めてくれ」
レイラの目に涙が浮かび、やがて大粒の涙が頬を伝う。
「私は……」
「決めないなら王都に突き返す。仕事探して頑張れよ」
「従います! あなたに従います!」
レイラが泣き叫ぶ。
「お、そうか。じゃあ着替えてくれ」
「き、着替え……?」
* * *
大部屋の中を大勢が慌ただしく行き交っている。
山田、サイリス、食糧大臣のダリオ、財務大臣のキンバリ、料理長のポンス、そして王国からやってきたイリヤが机を囲んでいた。
「お、来たか」
山田が声を上げると、魔族の制服に着替えたレイラが立っていた。やや怯えながらも、姿勢は崩していない。
「魔王様、着替えさせました」
護衛のアイラが敬礼する。
「ありがとう。レイラ、こっちだ。あ、今後はレイラって呼ぶからな」
「……はい」
レイラが小さく頷き、山田の横に立つ。
「お前らも思うところはあるだろうけど、今日からレイラを働かせるからそのつもりで。さて、話の続きだが、イリヤが提示してくれた内容はどうだ? ダリオ」
「食糧事情は段々改善してますが、正直すべて買い取りたいぐらいですな」
「じゃあそうしよう」
「えっ?! よろしいんで?」
「今せっせと貴族からカネを巻き上げてるからな。しばらくは大丈夫だよな? キンバリ」
「はい、問題ございません」
キンバリが手元の手帳を確認しながら答える。
「本当にいいのかい? 私は助かるけど」
「イリヤこそ、カネ欲しさに王国内の販売分まで全部こっちに売ろうとしてないだろうな? 王国民が飢え死にしたらさすがに困るぞ」
「そんなことしないよ」
「ちなみにリストで全部なのか? 他にあれば検討するぞ」
「すぐ出せるのはさっきので全部だけど、必要なら買い付けるよ」
「魔王様、もしよろしければ保存肉などを……」
ポンスが遠慮がちに口を挟む。
「それだ! さっきリストに肉はなかったよな。どうだ?」
「高く付くけど、いいのかい?」
「魔王様、次のご予定が」
サイリスがそっと囁く。
「お、そうか。じゃあダリオ達と相談してくれ。キンバリ、金のことは任せた」
「承知しました」
山田はサイリス、アイラ、そしてレイラと共に歩き出す。
「レイラ、王国でなんか安くて美味いものないか?」
「え……その……」
「思いついたら教えてくれ。肉といえばこの前のステーキ美味かったよな、サイリス」
「はい、とても」
「アイラは留守番頼んだから今度機会があったら連れて行くよ」
「楽しみにしてます!」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】