第24話【魔王山田、商人ギルドと接触する】
王都郊外。
山田たちが地上に降り立つと、すぐに諜報部隊を束ねるワーグが側に寄ってくる。
「ワーグ、完了だ」
「お疲れ様です。ギルドから指定のあった場所は把握しておりますが、どうされますか?」
「案内を頼む。あと王女を連れてきた。舌を噛んだりしないように見張ってくれ」
「承知しました。案内はこの者が」
ワーグの指示で兵士が一人、前に出る。
そこへアイラが駆けてくる。
「お姫様はどうだ?」
「飛び始めてからは静かになりました」
「そうか。明日も頼みたいからアイラは今日は休んでくれ」
「了解しました!」
* * *
王都某所。
「ミリトンとリューシーは外を見張ってくれ」
山田の一言に護衛の二人は頷き、すぐに周囲の警戒に入った。
サイリスが先導して中へ入っていくとバルガスが立っており、丁寧に頭を下げた。
「魔王様、サイリス様。大変お忙しい中、わざわざお越し頂きありがとうございます。こちらへどうぞ」
案内された部屋に足を踏み入れると、きらびやかな内装の空間に男女四人が跪いていた。
(さすが商人ギルド、便利な箱持ってるなぁ)
「こちらにお掛けください」
バルガスに促され、山田は席につく。
「改めて、本日はお時間を頂きありがとうございます。イリヤは先日お会いになられたかと存じますが、他の三名が是非とも魔王様にお会いしたいとのことで連れてまいりました」
「簡単に自己紹介してくれ。簡単にな」
長身の男性が進み出て口を開く。
「魔王様、お初にお目にかかります。フリオと申します。私の商会では宝飾品を取り扱っております」
続いて、もう一人の男性が前へ出る。
「魔王様、ゲオルグと申します。お目にかかれて光栄です。鉄を取り扱っております」
次に、ひときわ目を引く服装をした女性がゆったりと進み出た。
「ライラと申します。魔王様。服飾品を専門にしております」
「ありがとう。イリヤは今日はおとなしいな」
山田が静かに聞いているイリヤを見て声を掛ける。
「バルガスにうるさく言われていますので」
「はは、なるほどな。さて、魔王城に来てもらう話だが、5人も来るとなにかと面倒なことになるから3人で頼みたい」
「なら私は決まりだね」
「イリヤ! 何を勝手に」 バルガスがイリヤを責める。
「この前の話だと食品が最優先なんだろ?」
「そうだな……イリヤは来てくれ」
「魔王様、私も是非! あらゆる商売に流通は必須ですので」
慌てた様子でバルガスが胸に手を当てアピールする。
「アンタこそ必死に売り込んでるじゃないか」
「ぐっ……」
「魔王様! 我が商会の宝飾品は王都イチ……いえ、大陸イチです! 是非!」フリオが進み出る。
「宝飾品よりまずは鉄です、魔王様!」 負けじとゲオルグが声を上げる。
(こいつらさっきまでと別人だな。完全に営業モードじゃないか)
すると、ライラが山田の近くに歩み寄ってくる。
「魔王様。このようにお美しい女性を連れていらっしゃるのですから服飾品こそ最優先です。もちろん魔王様ご自身も」
「お、おう?」
「本日のお二人のお姿も素晴らしいですが、実はイリヤに話を聞いて魔王様とサイリス様に試して頂きたいものを持ってきております。香水もございますよ。魔王様、サイリス様をお借りしても?」 ライラがまくしたてる。
「私はそのようなもの……」 サイリスが顔をしかめる。
「せっかくだから行ってきたらどうだ?」
「ま、魔王様? しかし魔王様の護衛を……」
山田の提案にサイリスが慌てるが、ライラはすぐさま勢いよく声を上げた。
「別室にございますので! 是非!」
満面の笑みを浮かべている。
「俺は大丈夫だから。ほら、サイリス」
何度も振り返りながら、サイリスはライラに連れられて部屋を出ていく。
「ライラは一度ああなると止まらないから諦めたほうがいいよ。今日の私らの服装もすべてライラが用意したんだ」
(商人ギルドって変人の集まりなのか?)
「魔王様。もしよろしければ食事も用意しておりますのでいかがでしょうか」 バルガスが山田に聞く。
「そうだな。せっかくだからご馳走になろうかな」
「それではこちらに。サイリス様がいらっしゃるまでお寛ぎください」
* * *
山田達が話していると、サイリスが部屋に戻ってきた。その姿に、一同が息を呑む。
サイリスは淡い青のロングドレスに身を包んでいた。
普段の凛とした軍服とはまるで異なり、表情まで柔らかく見える。
(凄いな……)
「魔王様……その……」
サイリスが顔を伏せるようにして言う。
「綺麗だぞ、サイリス。めちゃくちゃ似合ってる」
「ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして俯くサイリスの横で、ライラは満足そうに微笑んでいた。
「魔王様もいかがですか?」
「バルガスが食事を用意してくれてるから、また今度な」
山田が椅子を引き、サイリスが静かに腰を下ろす。そのタイミングを見計らったように、温かい香りと共に食事が運ばれてきた。
* * *
全員が食事を進める中、山田が口を開く。
「今回はバルガス、イリヤ、ライラの三人で頼む。フリオとゲオルグはまた後日機会を設ける。それでいいか?」
「ありがとうございます。魔王様」
ライラが丁寧に頭を下げる。
「もちろんです。お声がかかればすぐに行けるように準備しておきます」
「機会を頂けるとのことで感謝いたします」
フリオが朗らかに笑うとゲオルグも力強く言う。
「魔王様。王都での用事は済んだのかい?」
イリヤがフォークを動かしながら聞く。
「この三人は聞かせていいのか?」
「ああ。ちょっとでも情報を漏らしたら煮るなり焼くなりしていいよ。そうだよね?」
「もちろんです」
ライラが即答し、他の商人たちもそれぞれ強く頷いた。
「ま、近々王国の全員が知ることになるからいいんだけどな。ライエル王とは話がついた。もう王国は俺の支配下だ」
一瞬、場の空気が静まり返る。緊張が走る中、イリヤが乾いた笑いを漏らす。
「魔王様は本当に仕事が早いね。うちの商会も負けるよ」
「この前も伝えた通り、王家もそのままだ。王子たちは王城から放り出したけどな」
「えげつないことをするね。3日と持たないんじゃないかい?」
「必要なのはトップだけだ。金食い虫はいらん」
「魔王様には我が商会の相談役になって頂きたいぐらいです」ゲオルグが言った。
「こんな話をしているのはもちろん安定した取引を期待しているからだ。それはわかってるよな?」
「もちろんです。魔族領という新たな市場で優先的に商売ができると我々全員心が踊っております」バルガスが胸を叩く。
「魔族への反感が強いと取引どころじゃないしなぁ」
「庶民は誰が支配してようが、仕事があって飯が食えればすぐ慣れると思うけどね」
「そうだろうな。そう願うよ」
「魔王様、そろそろ……」
サイリスが静かに声をかける。
「お、そうだな。ご馳走様。美味しかった。伝えていた通り三人ともすぐに出られるか?」
「もちろんです」
バルガスが即答する。
「私もすぐに着替えてまいります」
サイリスが立ち上がると、ライラも立ち上がった。
「ドレスは私が持っていきますね。魔王様の分も」
(……一応もらっておくか)
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】