第23話【魔王山田、交渉する】
大きなテーブルを挟んで、山田とライエル王が向かい合って座っていた。後ろにはサイリスとアイラが控えている。
扉が開く。
「魔王様、4人が参りました」
ミリトンの報告に山田が頷く。
「入ってもらえ」
入ってきたのは、カシウス王子、ギレル王子、レイラ王女、そしてジーナスだった。
「貴様が魔王! よくものこのこと!」
ギレル王子が怒鳴った瞬間、サイリスが素早く近づき、ギレルの首を締め上げた。
「がっ……ぐぅっ……!」
ギレルが激しく悶える。
「サイリス、放してやれ」
山田の声に従いサイリスが手を離すと、ギレルは激しく咳き込んだ。
「お前達、こちらに座りなさい」
ライエル王の指示で、三人は席に着く。
「ジーナス、悪いけど話が長くなるから茶を持ってきてもらっていいか?」
「っ?! 私のことを……」
「ジーナス、頼む」
ライエル王が言うと、ジーナスは頷いて退室した。
「いきなり押しかけて勝手に茶まで頼んですまないな」
「構わない。一度貴殿とはじっくり話をしたいと思っていたのだ」
「茶が来るまで世間話でもしようか。ライエル王は何代目なんだ?」
「33代目だ。先代の父王から引き継いでもう40年になる」
「33か、すごいなぁ。ところで、あの肖像画は?」
「私の妻だ。5年前に流行り病でな」
「そうか。絵の雰囲気だと優しい人だったんだろうな」
「私の太陽だった。国にとっても……」
ジーナスが戻ってきて、皆の前に茶を並べていく。
「毒は入っていないと思うが、私から飲もう」
ライエル王が口をつけ、山田もそれに倣って飲む。
隣に座っているカシウスが震え始め、顔が真っ青になる。
「さて、魔王山田殿。ご来訪の目的を伺おう」
「本日を以て、ライエル王国を魔族の支配下に置く」
「断った場合は?」
「王国を地図から消す」
ライエル王が目を閉じ、深く息を吸った。
「我がライエル王国は降伏する」
ギレルが苦々しい表情で歯を食いしばる。
「山田殿、ひとつ頼みがある」
「なんだ?」
「私はどうなっても構わない。民に慈悲を与えて欲しい。この通りだ」
ライエル王が深く頭を下げた。
「父上! そのような!」
ギレルが立ち上がる。サイリスが歩いていくと無言で彼の頭を掴み、テーブルに叩きつけた。
「いくつか条件がある」
「私にできることならば」
「まず最初に、貴族は粛清する。統治に必要だったんだろうが俺には必要ない。財産はすべて没収する。そして人身売買に関わっていた奴は全員処刑する」
部屋の空気が凍りつく。
「承知した。他には?」
「ここにいる三人の処遇を俺が決める」
ライエル王が苦渋の表情を浮かべる。
「どうか、命だけは……」
カシウスがガタガタ震える。
「処刑などしない。カシウス王子は王城への立ち入りを禁止する。市井で一市民として暮らせ」
「え……?」
カシウスが呆然とする。
「なんだ? 窓から突き落として欲しいか?」
「山田殿の意向に従う!」
ライエル王が叫ぶ。
「ギレル王子も同様だ。仕事探し頑張れよ」
「な……ふざけるな!」
「金渡して甘やかすなよ。そういうのは自立を妨げるからな」
「承った」
「レイラ王女は魔王城に連れて行く」
「なっ?!」 ライエル王が驚愕する。
レイラが顔面蒼白になる。
「それは……あまりにも……」
「心配だろうから定期的に手紙ぐらいは書かせるよ」
「ぐぅっ……」
「最後の条件だ。ライエル王、引き続き王として王国を治めろ」
「な……なにを……?」
「言った通りだ。ただし、軍権は俺が握る。近々別の者に来させる。ジーナス」
「は、はい!」
「切れ者と聞いてるぞ。俺が言った内容はわかるな?」
「はい! 理解いたしました!」
「では今日はこれで帰る。アイラ、頼む」
アイラがレイラ王女を抱える。
「いやああっ! お父様っ! 助けて!」
「じゃあな」
* * *
ライエル王たち四人が残されている。
兵士が駆け込んでくる。
「陛下! どうなさいましたか?! 姫様になにか?!」
「下がれ」
ライエル王が低い声で命令する。
「し、しかし……」
「陛下のご命令だ! 下がれ!」
ジーナスの一喝に、兵士たちは慌てて部屋を退出する。
「父上、先ほどのは冗談ですよね? とりあえず口裏を合わせて──」
「ジーナス、二人を王城の外へ。数日分の生活費を持たせるように。それぐらいは山田殿も許してくれるだろう」
「そんな馬鹿な! 父上は俺を見捨てるんですか!」 ギレルが詰め寄る。
「ち、父上……」カシウスも縋るような顔で見る。
「カシウス、ギレル。以後、王城への立ち入りを禁止する」
ライエル王は苦渋の表情で告げる。
「ふたりとも……生き抜いてくれ……」
「そんな……」
「連れて行け」
「はっ」
ジーナスが頭を下げる。
「こんな馬鹿なことがあるか! ジーナス! 俺は王子だぞ!」
兵士が入ってきて二人を連れ出す。
「陛下。今すぐでなくても良かったのでは……」
「ジーナス、魔王はお前の名を知っていた。すでに城内に監視の目が入っている可能性が高い。迷っていると取り返しがつかなくなる」
ジーナスがはっと目を見開く。
「確かに……」
沈黙が流れる。
「しかし、正直に申し上げて少しイメージが違いました。言動が軽いといいますか……」
「いや、あやつは確かに魔王だ。言動の端々に、冷徹さと徹底した合理性が滲んでいた。甘く見てはならない」
「そうですね……しかし、レイラ様は……」
「手荒な真似をするような感じではなかったが……こればかりは祈るしかないな……」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】