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第2話【魔王山田、設定を確認する】

「しばらくひとりにしてほしい」


そう言った山田は、広間の玉座のような席に腰掛け、水とパンを黙々と食べていた。


パンは一つだけ。水はペットボトルのような容器が出てこなかったため、部屋にあった古びたカップを使うことに。


(……満タン)


そう念じると、水はカップの縁までぴったり注がれた。


(言葉は通じてたよな。たぶん転生補正ってやつか?)


(にしてもこのカップ……古くてザラザラしてる。病気になったりしないよな)


そして、ふと思う。


(……俺のスペック、全然わかってないんだよな)


「魔法……魔法」


再び頭の中に魔法リストを呼び出すと、そこには4つの項目が浮かび上がった。


《ファイア》 《アイス》 《サンダー》 《ヒール》


(少なっ。なんかスペース余ってるから、あとで増えるのか?)


とりあえず、確認がてら窓の外に向かって腕を伸ばし、《アイス》を選ぶ。


すると、鋭く尖った氷塊が空気を切り裂き、山肌に突き刺さった。


直後、数人の魔族が勢いよく広間に飛び込んでくる。


「どうかなさいましたか!?」


「……あー、身体を慣らしてるんだ。しばらくうるさくするから、よろしく頼む」


「承知しました!いつでもお呼びください!」


魔族たちは再び深々と頭を下げて退出する。


山田は再び窓に向かい、《サンダー》を選んで放った。


激しい音が空気を震わせ、雷光が地を走る。


次に《ヒール》を自分にかけてみるが、何も起きなかった。


(……そもそも“超魔力”って総量が見えないんだよな。一回使い切ってみるか?でも回復しなかったら困るな)


「おーい!誰か!」


呼びかけると、すぐに魔族のひとりが部屋に入ってくる。


「御用でしょうか?」


「確認したいんだが、お前たちって魔力はどうやって回復してるんだ?」


「我々は……休んで回復しております。それが普通かと」


「いや、助かった。ただお前たちのやり方が聞きたかっただけだ」


魔族が一礼して退出する。


(自然回復か……じゃあちょっと試すか)


山田は窓に向かい、再び《サンダー》を放つ。


そしてもう一発、さらにもう一発。


雷鳴が何度も轟き、広間の壁が震える。


すると――体に軽い倦怠感が走った。


(……お、こうなるのか。完全に使い切るのは怖いな。とりあえず今日はこれでいいか)


 * * *


山田は椅子から立ち上がり、大きな声で呼びかけた。


「おーい! アイラ! 来てくれー!」


呼ばれた女性が走って近づいてくる。


「はい、魔王様」


「いろいろ聞きたいんだ。アイラ、役職は?」


「私は……魔王近衛兵でございます」


「魔王近衛兵? 俺来たばかりだけど?」


「……それが、魔王様が長らく空位だったため、形だけの存在で……」


「なるほど。それならちょうどよかった。しばらく俺についてくれ」


「わ、私がですか?!」


「嫌か?」


「いえ!光栄です!全力で務めさせていただきます!」


「とりあえず、会議を開きたい。各部門の責任者を集めてくれ」


「はい!」


アイラは敬礼し、その場を勢いよく駆け出していった。


 * * *


会議室。


部屋には複数の魔族たちが集まり、静かに椅子に腰掛けていた。


「よく集まってくれた。山田だ。よろしく頼む。……まずは、自己紹介してもらっていいか」


最初に立ち上がったのは、筋骨隆々とした大柄な魔族の男だった。


「魔軍第1軍団長のガイアと申します!」


続いて立ち上がったのは、美しい容姿の銀髪の魔族の女性だった。


「魔軍第2軍を預かっております、サイリスと申します」


さらに、一歩前に出たのは、小柄な体格の魔族の男だった。


「魔軍第3軍団長のネイと申します」


その隣に座っていたのは、鋭い目つきと、野性味あふれる魔族の男だった。


コートを無造作に羽織り、厚い腕を組んだまま、あからさまに不機嫌そうに沈黙している。


山田が小さく首をかしげると、ガイアが声を上げる。


「ダリス!魔王様にご挨拶は!」


「うるせぇ!急に現れて魔王だと?こんな奴が?」


「貴様……!」


(テンプレがいる……仕方ない)


山田は静かに腕を窓の外へ向け、《ファイア》を発動する。


近くの山に業火が走り、轟音と共に爆発が起こった。


その場にいた全員が凍りついたように沈黙する。


(あー……シミュレーション世界ってことは資源大事だよな。山、削るのやめよ)


「……魔軍第4軍団長、ダリスです」


ようやく立ち上がったダリスは、どこか不満げに眉をひそめながらも、渋々といった様子で頭を下げた。


沈黙を破るように、痩身の魔族の男が立ち上がり、整った所作で一礼する。


「キンバリと申します。財務を統括しております」


最後の魔族の女性が、おずおずと立ち上がった。手元の魔導書をぎゅっと抱え、丁寧に一礼する。


「魔法の統括管理を任されております、セラと申します……」


(……魔法の統括管理?そんなポストあるんだ)


「軍関係が多いようだが、他の内政担当は?」


「内政……は、呼んでおりませんが……」とネイが小声で答える。


(軍事特化かぁ……)


「……では、現在の情勢を教えてくれ」


ガイアが即座に立ち上がる。


「五十年前の大戦で、先代魔王様が勇者に斃されて以降、魔族はじわじわと後退させられ、現在はこのヘラン地方を防衛するのがやっとの状況です」


(……勇者?勇者がいるのか)


「しかし!」


ガイアが拳を握りしめる。


「魔王様が再臨された今!反撃に向けて、軍備を整えたいと考えております!」


その場の全員が一斉に頷いた。


 * * *


山田は軽く一息つくと、周囲に視線を巡らせて言った。


「自己紹介ありがとう。これから一人ずつ、もう少し詳しく話を聞きたい。時間を決めるから、その時間になったらまた来てくれ」


その言葉に一同がうなずき、静かに席を立っていく。広間にはガイアだけが残された。


「まずはガイア、君から頼む」


「はっ」


山田は椅子に座り直し、少し真面目な表情を見せた。


「細かく把握したいから、質問が多くなると思う」


「なんなりと」


「まず、第1軍の総数は?」


「およそ五万です」


「構成と役割は?」


「第1軍は陸軍で、騎兵と歩兵を主力としています。第2軍は魔法兵中心、第3軍は飛行兵で構成されています」


(飛行兵……?)


「大型の兵器は?」


「“魔砲”がございます。ですが、第2軍が主に運用しています」


「なるほど。大型の魔獣とかは?」


「“グリモアス”が4体、第1軍で運用しております」


その時、広間の扉が勢いよく開き、ひとりの魔族が駆け込んできた。


「ガイア様!会議中に申し訳ありません!」


「どうした?」


「アボラ要塞に、連合軍の軍勢が押し寄せているとの報です!」


「なにっ!?」


「ダリス様がすでに急行されました!」


ガイアの顔が引き締まる。


「このタイミング……まさか、魔王様のことがバレたのか……?」


(おいおいおいおい……いきなり来るのかよ……)


「魔王様、どうなさいますか!?」


(前線には出たくないなぁ……けど、ここで逃げたら立場が崩れるよな。くそ、仕方ないな)


「……俺も出る。連れて行け」


「ははっ!承知しました!」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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