第19話【勇者、逆襲する】
王都カレスタ王城、執務室。
ライエル王・カシウス王子・ギレル王子、そしてジーナスの四人が集まっていた。
「ジーナス、報告を頼む」ライエル王が口を開く。
「はっ。王都内の主要な新聞社がいずれも該当の記事を掲載しておりました。社の代表を呼び出して取り調べましたが、誰一人として口を開きません。手荒な方法もございますが……いかがいたしますか」
「拷問すれば嫌でも吐くだろ。なんなら見せしめに一人処刑すればいいんじゃないか」
ギレルが冷たく言い放つ。
「ギレル、そのようなやり方はダメだ。民の反発を招く」
カシウスが即座に制止する。
「投獄も仄めかしてみたのですが、なぜか“好きにしろ”と言わんばかりの態度で……不可解な点が多いです」 ジーナスが言葉を濁す。
「……少し考えたい。民に広がっている噂の方は?」 ライエル王が問う。
「はい。デヴァン伯爵・デルロイ公爵への襲撃で、すでに魔族が王都に入り込んでいると戦々恐々としております。また、両家から正式な抗議文も届いております」
「スラン殿の噂の方は?」
ジーナスが言い淀む。
「……聞かせてくれ」
「はい。スラン殿への疑惑の声も日に日に高まっています。その……レイラ様との関係についても……」
ライエル王は深くため息をついた。
「レイラは?」
「一昨日、体調を崩されてから私室で療養されております」
「だから言ったんです! あんな奴はさっさと追い出すべきだと!」 ギレルが声を荒げる。
「恐れながらギレル様、噂は事実無根で……」
「事実無根か? 実際に誑かされてるじゃないか」
「魔王が迫っている現状ではスラン殿は必要だろう」 ライエル王がたしなめる。
「しかしながら父上、このままでは王家の権威は失墜します。スラン殿には、城ではなく街に滞在してもらうようにすべきでは?」 カシウスが進言する。
「……この件も少し考えたい。ジーナスだけ残ってくれ」
王子二人が立ち上がり、部屋を出ていく。
「今代の魔王は……本当に手段を選ばないな」
「やはりそう思われますか」 ジーナスが応じる。
「スラン殿を追い出せば、王国は魔王に蹂躙されるだろう」
「しかし先日、陛下がスラン殿に問い質されましたが……聖剣を失ったのは事実です。実際に魔王に勝てるのかどうか……」
しばらくの間、ライエル王は黙って窓の外を見つめていた。
「……私なりに最大限努力したつもりだが、貴族達の横暴を許し、近年は人身売買まで……潮時かもしれないな」
「そのようなことは……!」
「私の首を差し出せば、魔王は民を生かしてくれるだろうか」
「陛下……」
* * *
1週間後。
王都郊外、街道。
一騎の馬が土煙を上げて駆けていた。その背に乗るのは──勇者スラン。
その後ろを、千の兵が黙々と進軍していた。
(……城を追い出される形になったが元々そのつもりだった。レイラ様にもこれ以上迷惑はかけられない)
(ライエル王は聖剣奪還のために軍を預けてくれた。まだ俺を信頼してくれている証だ)
(すべての元凶はヤツだ……魔王め。必ず倒してやる!)
* * *
魔王城 会議室。
「以上が現在の拠点構築の状況です」
ガイアの報告に山田が頷く。
「素晴らしいな。この短期間でここまで」
そのとき、扉が勢いよく開かれ兵士が駆け込んできた。
「魔王様! 偵察部隊から緊急のご報告です! 勇者と1軍がバルト要塞に向けて進軍中とのこと! 以上です!」
会議室に緊張が走る。
(は?)
「数は?」
「およそ千とのことです!」
会議室がざわつく。
「勇者め……懲りずにまた来たか」 ガイアが低く唸る。「魔王様、いかがされますか?!」
「静かに!」
サイリスの声が響き、室内が静まり返る。
山田は黙ったまま立っている。
(……想定はしてたけど最悪だな。王国から追い出されてどっか行けば良かったのに。実質単騎でヤケクソの特攻か)
(いや、バルト要塞ってことは──目的は聖剣か。仕方ない。ロックフォールの初の実戦投入が勇者ってのは皮肉なもんだ)
山田は顔を上げて皆に告げる。
「勇者を迎撃する。ネイ、第3軍全軍でバルト要塞に急行しろ」
「承知しました!」 ネイが立ち上がる。
「ギギ、ダリス。練ってあった対勇者の作戦通りに進めろ」
「はっ!」
「ガイア。勇者が囮の可能性もある。他の要塞の警戒を強めろ」
「了解しました!」
「サイリス。残念ながら俺は後方待機だ。前線の指揮は任せたぞ」
「はっ!」
(なんとか仕留めたいなぁ。本当にしつこい野郎だ)
山田は大きくため息をついた。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】