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第18話【勇者、評判が下がる】

王国の酒場。


「おい、聞いたか。例の話」


「デヴァン伯爵の話か? 魔王に襲撃されたんだろ?」


「魔王ってもう王都に来てるってことだよな。俺たちどうなるんだろうな……」


「皆殺しにされるんだろうな。はぁ……」


「勇者はなにやってんだよ。まだ王城にいるんだろ?」


「でも伯爵襲撃はざまあみろだよな。小麦の買い占めで馬鹿みたいに値上がりしてたし」


「どうせ私腹肥やしてたんだろ。魔王サマサマだ」


そこへ女性が話に加わる。


「なんかデルロイ公爵も襲撃されたって聞いたわよ。使用人が大量に解雇されたんだって」


「マジかよ。黒い噂しかなかったからな……人身売買とか」


「おいっ、やめとけ」


「魔王って案外いいヤツだったりして。どうせならデュバル男爵も襲ってくれないかな。知り合いが屋敷で働いてるんだけど、ひどい暴力を振るわれてるって」


「おいおい、お前も物騒なことを言うな」


「どうせ死ぬんだ。聞かれたって構うもんか」


 * * *


王国の公園。


「ねえ、今朝夫から聞いたんだけど……勇者の話」


「あ、私も聞いた聞いた。戦場で自分だけ助かろうとしたって」


「相当ひどかったんでしょ? 水が汚染されて、飲んだ人みんな死んじゃったみたいだし」


「新聞にも書いてたわよ。自分の分だけたくさん確保してたのを見た人がいるって」


「ひどい……隣の家のローラさんの旦那さん、いい人だったのに亡くなって、私もショックだったもん。ローラさんすっかり憔悴しちゃって……お子さんもまだ小さいのに」


「どうなっちゃうんだろうね……魔族ってもう王都にいるんでしょ?」


「魔王がデヴァン伯爵家を襲撃したって新聞に書いてたわ」


「王都から地方に逃れる人、増えてるみたいよ。でも……うちなんて子どもが3人もいるからとても……」


「勇者はなにしてるのよ」


「王城にいるんでしょ、ほらレイラ王女と」


「しっ、聞かれたら連れて行かれるわよ」


「でも王女様はお若いから勇者に騙されてるんじゃないの?」


「そうだよ。人のことなんか気にしない冷血漢なんでしょ」


「今夜、夫と真剣に相談しようかな……」


 * * *


王国の兵舎。


「おい、お前ら何を話してるんだ」


「勇者のことですよ」


「なんか噂になってるでしょ、偽者じゃないかって」


「そんなわけないだろ」


「でも聖剣失ったって聞きましたよ」


「マジか……偽者説ってそれか」


「そんな奴、戦力になるのか?」


「なんかレイラ王女に取り入ってるって噂もあるし」


「おい、さすがにそれ以上は許さんぞ。……ほら、魔王がいつ襲撃してくるかもわからないんだ。仕事に戻るぞ」


 * * *


王国某所。


5人がテーブルを囲んでいた。


一人の男が口髭を撫でながら座っている。落ち着き払った眼差しで周囲を見渡すその男は、王都有数の商会を率いる実力者――バルガスだった。


「皆、よく集まってくれた」


「どうしたんだ、緊急の会合って」


「デヴァン伯爵の件かしら?」


美しい容姿と鋭い目つきが印象的な女が足を組んで口を開く。王都の食品を扱う大商会の主――イリヤ。


「正直助かったよな。買い占めで潰れた商会も多かったし」


「おい、なんてことを……」


「事実じゃない? うちも大損したから、せいせいしたわ」イリヤが笑う。


「さて、今日集まってもらったのは最近の王都の動向についてだ。デルロイ伯爵も襲撃されたのは事実のようだ」 バルガスが切り出す。


「まだ生きてるんでしょ? ついでに殺してくれればよかったのに。あんなクズ」 イリヤが言い捨てる。


「それは私も同意ね」


「魔王はどちらも金だけ奪ったようで、その後の動きがない」 バルガスが続ける。


「軍は警戒してバタバタしてるよな」


「魔王は勇者を警戒してるとか?」


「勇者といえば、戦場で酷いことやってたとか言われてるな」


「あとレイラ王女を操って王に取り入ってるとか」


「……実はその噂が今日の本題だ。気になって調べてみたんだ」 バルガスが身を乗り出す。


「調べた?」


「王家絡みのことを新聞に書くなんてリスクが高すぎると思わないか?」


「確かにね。それで?」 イリヤも興味深そうに聞く。


「調べてみたらボスコのところだけじゃなく、他の新聞社もほぼ全部掲載してたんだ」


「は? ありえないだろ」


「さすがにおかしいと思って出入りしてる奴から聞き出したら、情報屋に金まで渡して情報を広めているらしい」


「ボスコにそんな金ないでしょ」


「そうなんだ。他にも二、三社から聞き出したら同様だった」


「どこからそんな金が……」


しばらく沈黙が続く。


「魔王」


「イリヤもそう思うか?」


「貴族襲撃のタイミングを考えると、その可能性が高いでしょ」


「魔王が新聞社を買収してるってこと? 魔王なのに?」


「これはあくまで予想だが、魔王は勇者を追い出そうとしているのではないか?」 バルガスが腕を組む。


「戦わずに?」


「随分姑息な魔王だね」


「勇者を追い出してから王国を滅ぼすと」


「どうだろうね。いくら勇者がいるからって、滅ぼす気なら地方のフーシアなんかはすでに廃墟になってそうじゃない? そんな話ないよね?」


イリヤは天井を見上げながら続ける。


「ありがとう。情報が整理できた。これからボスコのところに行って問い詰めてこようと思ってるんだ。魔王とやりとりをしているのかどうか」 バルガスが言った。


「そんなこと探ってどうするんだ」


「馬鹿だねぇ。そんな調子だから商会が大きくならないんじゃない?」 イリヤが鼻で笑う。


「なんだと!」


「バルガスは魔王の思惑を知りたいんでしょ。あわよくば取引できるかもって」


「魔王と?」


「どうせ滅ぼす気なら私ら全員あの世行きなんだ。違うなら魔族と取引できるじゃない」


「確かに……」


「バルガス、私も行くわ。そういうのはアンタより私の方が得意だし」


「わかった、行こう」



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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