第17話【魔王山田、ネガキャンを始める】
グランデ平野、某所。
金貨と宝石が山のように積まれている。
(うひょー……こんなの元の世界で見たことないな)
「ワーグ、よくやった。素晴らしいぞ」
「ありがとうございます」
「しかし貴族サマは随分溜め込んでるんだな。二箇所襲撃だけでこんなにあったのか」
「搬出もございますので、現在の人員では二箇所が限界でした。申し訳ございません」
「なんで謝る。これだけあれば十分だ。……貴族はどうした?」
「少し痛めつけたら大人しく従いました。ご指示通り、魔王様の名前も出しておりますので今後使えるかと」
「そうか。ただ、これで俺たちが動いてるのは他の貴族にも知られただろう。王家にも。……同じ手は使えないな」
「勇者、ですね」隣に控えていたサイリスが言った。
「……あぁ。警戒してすっ飛んでくるだろうな。さて、ワーグ。新聞社の方は?」
「数日前に到着して、別の建物で待機させております」
「早速行くか」
山田たちは建物を出て、別の建物へと入っていく。
「魔王様、私は隣室で……」
ワーグが頭を下げて隣室に入る。
「アイラもそれ重いだろうけど、一緒に入ってくれ」
「はいっ!」
部屋に入ると、10人の人間たちが跪いていた。
山田が静かに歩いて、用意された椅子に座る。サイリスとアイラが背後に立つ。
そのまま何も言わず黙っていると、数人の体が小さく震えた。
「顔を上げろ」
全員が顔を上げる。
「お前たちに頼みがあって来てもらった」
「ま、魔王様、なんなりと……!」
「お前、名は?」
「ボスコと申します」
「ボスコ、知っての通りここにいる者は新聞社の責任者たちだ。よく聞け」
ボスコが真剣な表情になる。
「勇者を徹底的に叩いて、王国にいられないぐらい信用を失墜させろ」
ボスコ達がざわつく。
「ゆ、勇者ですか……?」
「あぁ」
「しかし勇者スランは王国内でも人気が高く、私どもの力では……」
「それに記事を出せば王家から睨まれて、最悪投獄も……」
「貴様らは魔王様の命令を断ると?」
サイリスが殺気を放つ。
「サイリス」
山田が軽く制止すると、サイリスは一歩下がる。
「まぁ聞け。まずは、“魔軍に撃退されてみんな不安だ、いつ攻めてくるかわからない。勇者は大丈夫なのか”と、やんわり始めるんだ」
ボスコ達がメモを取り出す。
「次に、“貴族が襲撃されたらしい。魔王は侵略の準備をしているに違いない。勇者はなにをしていたんだ?レイラ王女と遊んでいたのか”と」
「……襲撃は事実で……?」
「あぁ事実だ。他には、“魔王に敗れて聖剣を失ったらしい”というのもな。これも事実だ」
室内がざわつく。
「さらに、“戦場で他の兵士たちは水が汚染されて死んだのに、勇者は他の兵士から浄化水を奪って生き延びたんだと”──証人も適当にでっち上げろ」
皆が必死にメモを取る。
「そして、“レイラ王女に取り入って、王国を乗っ取るつもりじゃないのか”と書き立てろ」
ボスコ達が次々に小声で会話する。
「静粛に」
サイリスの一声で静まり返る。
「理解したか?」
「ご依頼は理解しました。しかし……新聞の力だけでは……」
「お前たちは情報屋の類をたくさん抱えてるんだろ?」
「え、えぇまぁ……」
「アイラ。渡してくれ」
山田に促されてアイラが金貨が詰まった袋をボスコの前に置く。ボスコが目を見開く。
「それを使って王国のあらゆる場所に噂を流せ。酒場でも、ギルドでも、広場でも、な」
アイラが順番に袋を置いていく。
「足りないか?」
「い、いえ! 十分でございます! 余った分も必ずお返しいたします!」
「返却の必要はない。ただ、働かずに懐に入れたら……また夜に枕元でナイフを突きつけるからな」
数人の肩がブルッと震える。
「決してそのようなことは! 命を賭けてご依頼を全ういたします!」
「私も誓います!」
山田が立ち上がる。
「最後に言っておく。いずれ王国は俺が支配する。投獄されても出してやるから安心しろ」
そう言って、山田たちは部屋を後にした。
* * *
建物を出ると、ワーグが隣に来る。
「……あいつらの監視は続けてくれ。今後も役に立つだろうから」
「承知しました」
「……あぁワーグ、あっちの建物に部下を呼んでくれ」
ワーグが頷くと離れていく。
「アイラはワーグに会うのは初めてだったよな?」
「はい。サイリス様から極秘任務と伺いましたので、選んで頂き光栄です!」
「……俺に幻滅したか?」
「いえ、決してそのようなことは! むしろこのような工作活動まで魔王様自身が進められていて、身が引き締まる思いです!」
「そうよ、アイラ。魔王様は魔族のために心血を注いでくださっているの。私たち親衛隊はそれを全身全霊でお支えしなければいけないわ」
「はいっ!」
「頼もしいな。……アイラ、ポンスの包みを持ってきてくれるか?」
そう言って建物に入っていく。
しばらくして、ワーグが部下たちを連れてくる。
「連れてまいりました、魔王様」
「お、来たか。これぐらいしか用意できなかったが、今回の任務の労いとして受け取ってくれ」
山田がアイラから包みを受け取り、差し出す。
「ほら、順番に」
魔族達がワーグの顔を見る。ワーグが頷くと、山田から包みを受け取っていく。
「料理長に頼んだ“魔キノコと麦の香草包み”だ」
「魔王様! ありがとうございます!」
魔族達が口々に言いながら受け取っていく。
「ほら、ワーグも」
「はっ、頂戴します」
「来られなかった者にも感謝を伝えておいてくれ。……ここだと気を使うだろうから、持ち場でじっくり食べてくれ。美味いぞ」
ワーグ達が退室すると山田達も包みを開ける。
「……俺たちも食べるか。さーて、勇者は出ていってくれるかなぁ」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】