第16話【魔王山田、岩を運ばせる】
魔王城・大広間。
再び幹部たちが一堂に会し、重々しい空気のなか山田が立ち上がった。
「さて、再開するぞ。まずはキンバリが懸念していた岩の調達だ。まず調達方法についてアイデアを出してくれ」
数瞬の沈黙の後、ひとりの魔族の女性が手を挙げる。
眼鏡をかけたその女性は、知性と几帳面さを感じさせる風貌で、キンバリの指名で財務を預かっているシシリアだった。
「シシリア」
山田が指名する。
「魔王様、採石場は2箇所ございますが、北方に運搬されるのでしたらモルテル採石場が最適かと存じます」
「ありがとう。他にアイデアは?」
キンバリが声を挙げる。
「私もシシリアと同意見です。今後、大量に必要になるのでしたら大幅に増員すべきかと」
「わかった。それではモルテル採石場を増員することにする。次に、各地に岩の集積場を作るつもりだ」
「なるほど、あらかじめ岩を要塞などに集積しておくわけですね」 ネイが頷く。
「あぁ。今後は領土を拡大しつつ、集積拠点も増やすことになる。採石場もな」
「魔王様、運搬については第1軍で引き受けます」
ガイアが胸を叩いて応える。
「了解だ。必要に応じて各軍で連携してくれ」
「承知しました!」
山田は椅子から立ち上がり、場を見渡す。
「さて、やる気を出してもらうためにこれから大事なことを伝える」
その言葉に、幹部たちの表情が一斉に引き締まる。
「現在、勇者を排除すべく動いているが、岩の集積と勇者に対する牽制でメドが立った段階で――グランデ平野に侵攻する。いよいよ領土拡大だ」
一瞬の静寂の後、大広間が大きくどよめく。
「いよいよですね……!」
ダリスが嬉しそうに叫び、
「このときをどれほど待ったか!」
ガイアが拳を強く握りしめる。
「本日はこれで終了だ。皆、頼んだぞ」
「はいっ!!」
大広間に魔族たちの声が力強く響き渡った。
* * *
会議の後、セラとべリアムが熱心に話し込んでいた。
それに気づいた山田が声をかける。
「二人とも、どうかしたか?」
セラがやや戸惑いながら口を開く。
「魔王様、その……」
べリアムが続けた。
「魔王様がおっしゃっていた方法で、少し魔法で改良ができるんじゃないかと話していたんです」
「聞かせてくれ」
セラが真剣な表情で説明を始める。
「先ほど風でずれるというお話をされていましたが、《インパクト》で撃ち出せば風の影響を減らせるのでは、と思いまして」
(おー、いつもビクビクしてるけどやっぱりめちゃくちゃ優秀なんだな)
「俺は覚えてないんだが、セラは使えるのか?」
「はい」
「うーん……あ、そうだ。じゃあ俺が上空まで連れて行くから、セラがやってみせてくれ」
「えっ?!」
「セラ様、頑張ってください!」
べリアムが元気よく励ますと、セラはさらに慌てる。
「ええっ?!」
* * *
山田が振り返り、声をかける。
「サイリス、下での観測頼むぞ」
「承知しました。お気を付けて」
セラを抱えた山田と、岩を持ったネイが空へと舞い上がる。
「おーい、顔が真っ青だぞ」
セラが震える声で答えた。
「た、高いところは少し……その……」
「よし、このへんでいいか。ネイ、頼む」
ネイが無言で頷き、岩を構える。
「真下に撃つなら、セラを逆さにぶら下げたほうが良いか?」
「ひいっ……このままで大丈夫ですっ!」
セラが岩の上に手をかざし、声を張り上げた。
「《インパクト》!」
岩が真下に向かって、猛スピードで落下していく。
「さて、見に行くか」
山田とネイはセラを抱えたまま、地上へと降下する。
やがてサイリスの姿が見えてくる。
「なんだありゃ……」
よく見ると、古びた家屋が粉々になっていた。
(すっげーな……これ、もう勇者に当てることもできるんじゃ?)
「これは、余裕のある者には習得させるべきですね」
ネイが静かに提案する。
「俺も覚えようかな。魔力強すぎて岩壊れそうだけど、出力抑える練習するか」
山田はセラを見て、にやりと笑った。
「セラ、よくやった。お前は天才だ。人類の明日はお前が終わらせた」
「えっ?えっ?」
* * *
魔王城・第1軍司令部。
「それでは、実際の拠点についておおまかに決めておきたいと思う」
ガイアが資料を掲げながら言った。
「承知しました」
ギギが静かに頷く。
「ネイには後で私から伝えておく。……おい、ダリス、聞いているのか?」
ダリスがハッとして顔を上げた。
「あ、すいません!ボーっとしてしまって……」
「これからというときにしっかりしてもらわないと困るぞ」
「いや、なんか最近、実感が追いついてなくて……」
ガイアがやれやれと肩をすくめた。
「軍団のトップがそんなことでどうする」
「私もわかりますわ」
ギギがやさしく微笑む。
「魔王様が降臨されてから、なにもかも急激に変わっていますので」
「確かにそうだな。魔族存亡の危機だったのが、今では領土拡大の相談だ。魔王様には感謝してもしきれない。偉大なお方だ」
「……普通に昼食に誘われたりするから、ちょっと調子が狂いますけどね」
ダリスが苦笑いを浮かべると、ギギがにっこりと頷いた。
「それが魔王様の器の大きさよ。上から命令するだけではなく、常に寄り添って下さる。これほど慈悲深い方に導いて頂けて魔族は幸せだわ」
「そうだな。自分たちも全力で期待に応えようではないか」
そう言って3人は静かに資料を広げ、今後の拠点構築についての相談を再開した。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】