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魔王山田、誠実に異世界を征服する  作者: nexustide400
第二部《転生者VS転生者》編
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第154話【女神に見捨てられし異世界 CASE01】

「アリア様、準備が整いました」


「はぁ……これって誰からもらったの?」


「中級のアレシア様ですよ。ほら、いつもアリア様みたいに呼び出されてる変わり者です」


「あぁ~……管理局の再研修で何度か一緒に……って一緒にしないで!」


「でも下級落ちレースの有力なライバルですよね」


「レースってなによ。あれ、ちょっと待って。不良案件引き取ったらあっちに有利になるんじゃ」


「そうですね。返しますか?」


「ぐっ……やるわよ! 私に渡したことを後悔させてやる!」



 * * *



見渡す限り、ひび割れ、荒れ果てた大地。



空は重苦しい暗雲に覆い尽くされ、生命の気配はとうの昔に途絶えている。



そんな死にゆく世界の片隅で、人類はただ息を潜めるようにして生き延びていた。



 * * *


「おかえり、エレナ。外はどうだった?」


居住カプセルに戻ってきたエレナが重い防毒マスクを外すと、同居人の少年ルイが声を掛けた。


「最悪。東のシールドがまたイカレてたわ。悪いけど、修理頼める?」


「了解。すぐ行ってくる」


ルイが自分のマスクを被り、使い込まれたツールボックスを背負ってハッチに向かおうとした、その時――。



虚空から突如としてまばゆい光が溢れ、天使のような翼を広げた美しい存在が姿を現した。



「うおっ!? なんだお前!」


「ルイ、下がって! 新種かも!」


『誰が新種よ! 私は女神よ! 女神!!』


光の中から響いた甲高い声に、二人はすぐさま距離を取り、武器に手をかけて油断なく睨みつける。


「……女神?」


「気をつけろ、エレナ。光学迷彩か、新手の精神干渉系かもしれない」


『だーかーらー! 私は神聖な女神なの! 化け物扱いするな!』


しばらくの間、自称・女神アリアは必死になって自分が高次なる存在であることを二人に説明し続けた。


やがて、エレナが呆れたようにため息をつく。


「へえ、女神様ね。で、こんな掃き溜めに何の用?」


「まさか動力炉の行商か? 悪いけど、神様価格じゃ俺たちには手が出ないよ」


『あのね……女神をセールスみたいに扱うのやめてくれる? はぁ、せっかくの神々しい登場が台無しじゃない……』


アリアはぶつぶつと文句を言いながらも、咳払いをして気を取り直す。


そして、慈愛に満ちた(と本人は思っている)微笑みを浮かべた。



『私は、あなた方を救いに来ました』



「……救い?」


二人の声が一気に低くなり、その表情から感情が抜け落ちる。アリアはきょとんと首を傾げた。


『ええ、救済に。……どうかしましたか?』


ルイの口から、乾いた笑いが漏れた。


「ははっ……救い、だってさ。どれだけ俺たちから奪えば気が済むんだよ。ふざけるな」


『えっ?』


エレナが、氷のように冷たい瞳でアリアを射抜く。


「まだ殺し足りないの? 今度こそ、人間を完全に絶滅させに来たってわけ?」


『ちょ、ちょっと……』


「エレナ、上に報告だ。シールドの修理も急ぐぞ」


二人は困惑するアリアにそれ以上見向きもせず、強い警戒を解かないまま足早にカプセルから出ていった。


 * * *



「うぅぅぅ……ラファ、どういうこと?」


「調べましたが、アレシア様が救世主として転生者を送り込んだもののワクチン合成に失敗したみたいですね」


「……もうやだ」


「譲ってもらった他の案件に比べてかなりマシですよ。ほら、一緒に考えましょう」


「はぁ……。頑張れ、私」



 * * *


ドーム東側。


ルイ率いる修理チームは、鳴り響く警報の中で必死にシールドの補修作業に当たっていた。


「クソッ! エネルギー出力が足りない! そっちの回路はどうだ!?」


「こっちも限界です! もう持ちません! ルイ、後退しましょう!」


「貴重な農地区画が……ここを放棄したらもう……」


絶望的な状況に、ルイの顔が苦痛に歪む。その時だった。



『使いなさい!』



虚空から突如として現れたアリアとエネルギータンクに、パニック状態だったチームの面々が悲鳴を上げる。


「な、なんだ!? 敵か!? シールドが破られたのか!?」


「全員下がれ! 汚染物質が入ってくるぞ!」


「お前ら、ちょっと落ち着け! ……って、あんたもしつこいな!」


ルイが怒鳴り声を上げる。


『女神に向かって汚染とか言うな! いいから、早くこれを繋ぎなさい!』


ポン、という軽い音と共に、ルイの足元に追加のエネルギータンクがいくつも出現する。


「これは……」


『早く!』


アリアの鋭い声に押され、ルイは一瞬の迷いを振り切ると、即座にタンクをシステムのポートへと接続していった。


数秒後、レッドゾーンに張り付いていたゲージが急上昇し、消えかけていたシールドの光が力強く息を吹き返す。


やがて危機が去り、疲れ果てたチームの面々がその場にへたり込んだ。


ルイはふらつく足で立ち上がると、アリアに向き直る。


「……本当に助かったよ。ここを突破されたら、また大勢死んでた」


その素直な感謝に、アリアが誇らしげな『女神の微笑み』を浮かべていた――その直後。


「ルイ! 無事!? 応援を連れてきたわよ! ……って、お前っ!」


遠くから駆けつけてきたエレナが、アリアの姿を認めるなり、鋭い声と共に武器を構えた。


慌てて止めに入るルイの背後で、アリアは今日何度目かわからない深いため息をついた。


 * * *



「なんとか続行できそうですね」


「もちろん。リーダーからも感謝されたし、私だってやればできるのよ」


「さすがアリア様」


「なによ、その棒読みは。さて、問題は全世界に蔓延しているウイルスね」


「浄化できれば長期的に安定供給も見込めるかと……では解析を……うわっ……」


「どうしたの?」



 * * *


「……祈り?」


『そう、祈りです』


エレナが、心底理解できないといった怪訝な表情を浮かべる。


「なんでワクチンの開発に祈りなんてものが必要なのよ?」


『あなた方の祈りが、この世界を救うのです』


アリアが大真面目に宣言すると、狭い居住カプセルにひしめき合っていた人間たちから、一斉に深いため息と呆れ声が漏れた。


神頼みなどという非科学的な言葉は、この過酷な世界を生き抜いてきた彼らにとって最も縁遠いものだった。


「女神様、そりゃ冗談キツイよ。祈ってどうにかなるなら、俺たちはこんな苦労してないって」


ルイが皮肉めいた笑みを浮かべて吐き捨てる。その険悪になりかけた空気を、重々しい声が遮った。


「待て。このままでは遠からず我々は絶滅する。……女神様、ひとつご相談が」


口を開いたのは、このコミュニティを束ねるリーダーの男だった。


『なんでしょう?』


「いきなり祈れと言われても皆が納得しません。小さなことで構いません。我々に奇跡を見せて頂けませんか」


リーダーは冷徹な目を向け、神の力に対する明確な『証明』を要求した。


 * * *



「むむむ……なるべくポイントを使わずに奇跡を……神々しく光ってみるとか?」


「全く意味ないですね」


「歌はどう? 結構自信あるし」


「そんなものより即物的な方がいいと思いますよ」


「そんなものって言うな! うーん、ポイントがかからず供給できるもの……」


「水はどうですか?」


「それだ!」



 * * *


ドームの中央広場は、かつてないほどの熱気と狂騒に包まれていた。


枯渇しきっていたはずのこの世界に、突如として澄み切った水が大量に湧き出したのだ。


「エレナ、信じらんねぇ! まともな水だ! 飲んでみろよ!」


「ちょっと、はしゃぎすぎよ! 早くタンクに回さないと……」


「今日くらい良いだろ! 底なしに湧いて出てんだぜ!? ほらっ!」


ルイがすくい上げた水を、エレナの頭から容赦なく浴びせる。普段ならありえない暴挙だが、今は二人の間に無邪気な笑い声が弾けていた。


その狂騒から少し離れた場所で、リーダーの男が静かにアリアへと向き直る。


「……女神様。礼を言う。この地獄で、皆があんな顔で笑うのを見たのは初めてだ」


『お役に立てて何よりです』


「ああ。これだけの奇跡を見せられたらみんな喜んであんたに祈ると思う」


男がそう口にした直後だった。


空間が不自然に歪み、彼の目の前に見上げるほど巨大な女神像が突如として物質化した。


その存在感に引き寄せられるように、騒いでいた人々が水を飲む手を止め、次々と像の周囲へ集まってくる。


『この像に向かって祈りを捧げてください。あなたたちの祈りが、世界を救う力になります』


アリアの透き通るような声が、ドーム内に響き渡る。


それを合図とするように、あれほど水に群がって狂騒していた生存者たちは一斉にその場に膝をつき――深く祈りを捧げ始めた。


 * * *



「順調にポイントが貯まってますよ。これならウイルス解析ツールもレンタルできそうです」


「よし! それにしても、あんな訳のわからないウイルス自然発生しないわよね」


「アレシア様が作ったんでしょう」


「さすが問題児。下級落ちも当然ね、私と違って」


「……」


「なんで黙ってるのよ」



 * * *


固唾を呑んで見守る生存者たちの前で、リーダーの男が分厚いハッチを抜け、ゆっくりとドームの外へと足を踏み出した。


息の詰まるような数秒の静寂――やがて、男は天を仰ぎ、獣のような雄叫びと共に両腕を高く突き上げた。


「やったぞ! 外の空気が吸える!」


「生き延びた……私たち、本当に生き延びたんだ!」


ドーム内に歓喜が爆発する。ルイとエレナも我を忘れて強く抱き合った。


エレナが満面の笑みで叫ぶ。


「女神様! 本当にありがとう!」


『ええ、無事にワクチンができて良かったです』


アリアが満足げに微笑むと、ルイも興奮冷めやらぬ様子で声を張り上げた。


「最初現れた時は、マジで胡散臭い奴だと思ったけどな! 今は心の底から感謝してるよ!」


『……えっ? ちょっと、それどういう……?』


暗雲が晴れゆく空へ向けて、人類の絶え間ない歓声がいつまでも響き続けていた。


 * * *



「おはよう、ラファ。さてさて、一晩経ってポイントはどう? びっくりするぐらい貯まった?」


「えっと……1人1人は確かに多いですが……」


「どうしたの。ちょっと見せて―――あれ?」


「生存者の数が少ないので仕方ないですね」


「嘘でしょ……これじゃ全然足りないじゃない……うぅ……久々にうまくいったのに……」


「少しずつ積み上げるしかないですよ。この調子で他の案件も頑張りましょう」

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