第14話【魔王山田、岩を落とす】
数日後、魔王城から離れた場所にある丘に幹部全員を含め、大勢の魔族が集められていた。
目の前には古びた廃墟が広がっている。
「魔王様、全員集まりました。このような場所で何を?」とガイアが問いかける。
「よし、各軍の隊長クラスも全員いるな?これから大事な実演をするから、よーく見ておけ。今後の魔軍の大きな方針転換だ」
「実演というのは?」とダリス。
「実際に見た方が早い。ああ、今から何が起こっても敵の攻撃じゃないから慌てるなよ。ネイ、頼む」
「承知しました」
ネイがその場を離れていく。
ざわめきが広がる中、山田は空を見上げた。
「風は大丈夫かな……お、そろそろ来るな」
突如として地鳴りのような音が響き、廃墟の一角にあった屋敷の屋根が砕けた。全員がどよめく。
続けて別の場所でも大きな音がし、次々と建物が砕けていく――10発、連続。
「何事ですか!?敵襲では!?」とガイアが叫び、集まった魔族たちも一斉に武器を構え始める。
「だから違うって。……ちょっとあの壊れた屋敷を見てこい」
ガイアを含めた数人が走って屋敷へ向かう。
その間にネイと部下たちが空からゆっくりと降りてくる。
「よくやった」
「ありがとうございます。いかがでしたか?」
「なかなかいい感じだったな」
「今日は風も穏やかでしたので。訓練を積んで、さらに精度を上げたいと思います」
近くで聞いていたギギが、驚いた表情で呟く。
「風……?まさか……」
そのとき、ガイアが戻ってきた。部下の兵士が半分に割れた大きめの岩を担いでいる。
「魔王様、このようなものしか見当たりませんでしたが……」
「ああ、それだ。それをネイに上から落としてもらったんだ」
そう言って山田が空を指差すと、再びどよめきが広がる。
「空から岩を……?それだけで先ほどのような威力が?」とギギが目を見開く。
「その通りだ」
「そりゃあ、空から岩を落とせば脅威ですが……あれほどには……」とダリス。
「ネイたちには事前にちょっと練習してもらって、可能な限り高く飛んでもらったんだ」
ダリスたちは首をかしげる。
(重力加速度……運動エネルギー……はい、省略)
「高ければ高いほど威力が上がるんだ」
「本当ですか……?」
「そんなことが……」
「私も訓練を見ていたから間違いないわ」サイリスが言った。
「こういうのは、実際に一度見てもらった方が早いと思ってな。じゃあ、城に戻るぞ」
* * *
魔王城 大広間。
「それでは先ほどの“ロックフォール”について会議を始める。なんとなく理解した、ではダメだ。完全に理解しろ。質問は?」
山田の言葉に、大広間の空気が一瞬張り詰めた。
「大きめの岩を持って、なるべく高くまで飛んで落とした、ということで合ってますか?」 ダリスが確認するように言う。
「その通りだ。ネイたちに先にテストしてもらってるが、いずれは第3軍の攻撃の要になる」
「フライなしで飛べる魔族も多くおりますが、重いものを持ち上げるのは難しいので、フライ習得者が主になるかと思います。ただ、長時間飛行は魔力切れのリスクもございます」とネイが補足する。
「そうだな。訓練で各人の魔力性能の把握と連携強化は進めてくれ」
「承知しました」
「魔王様、威力が高いのはわかりましたが、魔法でもいいのでは?」とダリスが疑問を呈する。
「いい質問だ。ダリス、さっきネイの姿を視認できたか?」
ダリスが考え込み、首を横に振る。
「つまり、いきなり岩が降ってくるんだ。そして当たれば必ず死ぬ。即死だ。魔法で即死はしないだろ?」
大広間がざわめいた。
ダリスが懸命に考える中、ギギが口を開く。
「見えない敵から一方的に攻撃されて、自分に当たれば死ぬという恐怖を常に抱えることになりますね……」
「そうだ。ただ、残念ながら風の影響で狙った目標にきっちり落とすのは難しいんだ。これも訓練である程度精度は上がると思うが」
ネイが肯定するように頷いた。
「魔王様は第3軍全体が交代し続けることで、落下を継続する構想をお持ちよ」とサイリス。
「岩がずっと降り続けるってことですか……」 ダリスが呟き、大広間がざわつく。
「障壁を展開されると手詰まりだけどな。ダリス、障壁を展開できない場合、敵はどうする?」
「隠れようと……森に移動、ですか? あ、待ち伏せできますね」
「そうだ。どれほど威力があろうと大軍を潰すほどの物量はない。障壁も想定されるから、歩兵も騎兵も魔法兵も必要なんだ」
「なるほど」
「……ところでガイア、ずっと考え込んでいて珍しく何も発言しないな」
ガイアがはっと顔を上げる。
「失礼しました」
「考えを聞かせてくれ」
「はい。戦い方が大きく変わると考えを巡らせておりました。平地においてはおっしゃる通りですが、これがあれば王都を直接攻撃できるのではないでしょうか?」
大広間が大きくざわめく。
(お、脳筋タイプかと思ったら、さすがは主軍のトップだな。そりゃそうだよな)
山田がニヤッと笑い、
「その通りだ。王都の上空から岩の雨を降らせば、城もボロボロになって街も廃墟だな」
再び大広間がどよめく。
「それでは準備が整い次第、王国を攻めるということですな?!」
「おいおい、誰もそんなことは言っていない」
山田の言葉にガイアが困惑する。
「いい機会だから皆に言っておく。王国を武力制圧はしない」
大広間がざわめく。
「これまで散々痛めつけられて徹底的に滅ぼしたいのはよくわかるが、ダメだ」
「どうしてですか!」とダリス。
「魔王様は魔族の将来を考えて、王国を滅ぼすのは得策ではないと考えておられるわ」とサイリスが静かに告げる。
「王国を滅ぼせば、人類は文字通り総力を挙げて潰しに来るだろう。民がロクに食えていない有様なのに更に数を減らしたいのか」
全員が静まりかえる。
「いずれ雪辱の機会は与える。ダリス、どうだ?」
「……わかりました」
少し間が空いて、キンバリが手を挙げる。
「魔王様。先ほどのお話ですが、大量の岩を調達できたとして飛行兵の魔力を考慮すると前線付近まで持ち運ぶ必要があるかと存じます。いかがでしょうか」
「さすがだな、キンバリ。このまま続けてもいいがすぐには終わらないから一旦休憩しよう。腹が減ってきたし」
山田は立ち上がると「みんな、食堂いくぞー。ほら、アイラたちも」と後ろに控えていたアイラたちに声をかける
「はい!でも魔王様……皆様が食堂にいくと、大変な騒ぎになるのでは……」
「そうか?」
そう言って、山田たちは部屋を後にした。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】