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第13話【魔王山田、画策を始める】

魔王城の大食堂。


山田、サイリス、ギギ、ダリス、べリアムがひとつの長テーブルを囲んで座っていた。


広い食堂に緊張が張りつめ、他の魔族たちは静まり返って食事の手を止めている。


「……あの、魔王様。誘ってもらったのは嬉しいんですが、皆緊張で食事どころじゃなくなってるんですが……」


ダリスが遠慮がちに言う。


「自分も……その……場違い感が半端じゃないです……魔王様と軍団長の皆様とか……」


べリアムも小さくなる。


「食堂でメシ食って何が悪いんだ。べリアムもこの程度で緊張してるようじゃ困るぞ」


「いつものように部屋に運ばせますか?」サイリスが提案するも、山田は首を横に振る。


「いいよ。こっちの方が落ち着くし」


「魔王様は、いつも私たちの目線に合わせてくださっているのですね。感謝いたします」 ギギがしみじみと述べた。


(なんか盛大に勘違いしてるな。転生前も社員食堂だったし、こっちの方が手軽ってだけで)


ダリスが立ち上がって、周囲の魔族たちに向かって叫んだ。


「お前ら!魔王様が“普段通りにしろ”とおっしゃってるんだ!普通に食事しろ!」


困惑した空気が漂うが、やがて少しずつざわめきが戻っていく。


テーブルに食事が運ばれ、山田が手をつけるとそれに倣うように皆も食べ始めた。


「仕方ないけど……食堂のメニュー、少ないなぁ。ダリオに頑張ってもらわないと」


「相応しい食事をご用意できず、申し訳ございません」 サイリスが頭を下げる。


「いいっていいって。……べリアム、作物の品種増やす魔法とかないのか?」


「残念ながら……でも、もし魔王様が欲しいものがあればダリオ様に伝えておきます!」


「寿司かな」


「スシ……?なんですか、それは……?」


「いや、こっちの話だから気にするな。いずれ海沿いまで開拓したら、実現できるかなぁ」


「素晴らしいですわ、魔王様」とギギが感嘆する。


「そういえばギギ、聖剣の進捗は?」


「はい。ご指示通りに進めております」


「自分も試しましたが、やはり勇者以外には触れることすらできないようで」とダリス。


「勇者に取り戻されても厄介だからな」


「触れないなら周囲の土を魔法で操作して移動させる、魔王様の素晴らしいアイデアですわ」とサイリス。


「森の方へ移動させて、可能な限り深くまで埋めております」


「女神の名を冠した聖剣アリアンデ、そんなものは永遠に埋めておけばいいんだ」


「魔王様は女神がお嫌いなのですね」


サイリスが冗談めかして言う。


「あんな露出狂を好きになる奴がいるのか?」



――――ザザッ――――



(ん?)


「露出……?まさか女神とお会いに……?」


「いや、冗談だよ」


(……気のせいか?まぁいいか)


 * * *


魔王城の一室。


山田とサイリス、そして一人の魔族が部屋にいた。目の奥に鋭い光を宿すその魔族――名はワーグ。工作部隊を統率する、寡黙かつ忠実な諜報のエキスパートだ。


「ワーグ、王都への潜入任務ご苦労だった。早速聞かせてくれ」


「はい。ご指示通り夜間に空から複数名で潜入し、人間を何人か締め上げて必要な情報を聞き出しました」


「勇者は?」とサイリスが問いかける。


「王国に留まっているようです。真偽は定かではありませんが、“レイラ王女と親しい”という話は、王国内では皆知っていると言っておりました」


(お、それは使えるな)


「頼んでいた件は?」


「はい。まず王都にいる主要な大貴族については、聞き出せました」


「警備の状況を調べて、いつでも襲撃できるように準備してくれ。もっとも、寝込みを襲う形だが」


「承知しました」


「で、新聞社は?」


「小規模ですが複数ございました」


(よしよし、いいぞ)


「そうか。そちらも、いつでも襲撃できるように把握しておいてくれ」


「はっ」


「ワーグ、言うまでもないが、これは極秘任務だ。これから汚れ仕事も増えるだろうが、お前達の働きが魔族を繁栄させる。期待してるぞ」


「ご期待に沿えるよう、命を賭して任務を遂行いたします」


山田が頷くと、ワーグは深々と一礼して部屋を後にした。


「魔王様、少しよろしいでしょうか?」とサイリスが口を開く。


「なんだ?」


「勇者を排除する方針は理解しておりますが、その後、王国は滅ぼすのでしょうか?」


「いや、滅ぼさないよ?ガイアもそうだが、みんな血の気が多すぎるな」


「それでは、魔王様が支配されるのでしょうか?」


「支配はするけど、恐怖による支配はしない」


サイリスが困惑した表情を浮かべる。


「サイリス、俺達の目的はなんだ?」


「魔族の繁栄です」


「そうだ。王国を滅ぼしたら何も残らないだろう?廃墟は何も生み出さず、魔族も繁栄しない。土地は増えるけど、魔族も急に人口が増えるわけじゃないから持て余す。どうせなら人間に働いてもらって、それを俺達が吸い上げて魔族を繁栄させようというわけだ」


「魔王様が支配して人間を奴隷にして働かせると?」


「サイリス。強制的に働かせたら、長い目で見て効率が悪いんだよ。反乱も起きるしね。ほどほどに幸せにして働かせた方が生産性が上がるんだ」


サイリスはしばし黙考した後、静かに口を開いた。


「……そう、ですね。申し訳ございません。お許しください」


「いいよ、どんどん聞いてもらって。その方が俺も精度上がるしね」


山田が笑うと、サイリスも頬を緩めた。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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