第12話【魔王山田、内政ターンを始める】
魔王城 玉座の間――
山田は玉座に腰かけながら、心の中で呟いた。
(さて、そろそろ本格的に全部進めていこうかな。まず、この部屋だな)
そこへサイリス、キンバリ、セラの三人が入ってくる。
「魔王様、二人を連れて参りました」
「ありがとう」
三人が玉座の前で跪く。
「……うーん、やっぱりダメだな」
キンバリが不安げに顔を上げる。
「魔王様、私が何か失礼を?」
「ああ、すまない。俺が玉座にいて、みんなが跪いてたら相談しづらいだろ?この部屋は謁見専用にしよう。財布の事情は厳しいだろうけど、この部屋だけは小綺麗にしてくれ」
「承知しました。魔王様に相応しい内装にいたします」
「いや、今は普通に整えるだけでいい。頼んだ」
キンバリがうなずく。
「というわけで、移動しよう」
一行は玉座の間を出て、会議室へと入る。
「さて、早速だがキンバリ。しばらく俺について回ってほしいんだ。重要な内容が目白押しだから、あちこち同行して全体を把握してほしい」
「かしこまりました。ただ、兼任は難しいので実務は他の者に任せる形でもよろしいでしょうか?」
「誰か適任はいるか?」
「はい、シシリアという者がおりますので、しばらく彼女に任せることにします。優秀ですのでご安心ください」
「わかった。やり方は任せる。次の議題だが、セラ」
セラがビクッとして声を上げる。
「は、はいっ!魔王様!」
「いい加減慣れてくれないか?そんなに俺が恐ろしいのか?」
サイリスが無言でセラを睨む。セラが再びビクッとして縮こまる。
「サイリス、やめるんだ」
「……失礼しました」
「セラには軍へのフライ習得から始まって山ほど頼んでるし、これからも頼みたい。だからキンバリとは逆で仕事に専念してほしい。その代わり、魔法に詳しい者を親衛隊に入れてほしいんだ」
「それでしたら……べリアムが適任です。魔法の知識量がずば抜けております」
「わかった。連絡はきっちり取り合ってくれ」
「承知しました」
「セラ、すぐにべリアムを呼んできてくれ。……それじゃ、早速重要な話し合いに行くか」
サイリスとキンバリが、不思議そうに首を傾げた。
* * *
会議室を出ると、廊下に跪く三人の姿があった。中央にはアイラ、左右には親衛隊のミリトンとリューシー。
「魔王様、少しだけよろしいでしょうか」
サイリスが声をかけてくる。
「なんだ?」
「この三人を、魔王様の護衛としてつけたいと考えております」
「アイラはわかるけど……ミリトンとリューシーも?」
「はい。魔王様のお力は疑いようもございませんが、親衛隊長として、どうかお願い申し上げます。私も常にお側にいることは難しいので……」
サイリスは申し訳なさそうに目を伏せた。
(最近ずっとついてきてるよな)
「……わかった。三人とも、よろしく頼む」
「はっ!」
三人が一斉に返事をし、アイラがすっと立ち上がる。
「今後は私が先導しますので、行き先をお命じください」
「じゃあ、ダリオのところへ」
* * *
大部屋の前に差しかかると、一人の青年が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「魔王様!べリアムと申します!」
その場に跪きながら、息を切らし、早口でまくしたてる。
「セラ様から指示を頂いて、すぐに飛んできました!親衛隊に入れって……!」
山田が手を軽く上げて制した。
「おいおい、落ち着け。ちょうど良かった。一緒に来てくれ」
ミリトンとリューシーが扉の左右に立ち、山田たちは部屋の中へと入った。
中では魔族たちが忙しなく働いていたが、「魔王様!」という一声で動きが止まり、場が静まり返る。
「あー、仕事を続けてくれ。ダリオはいるか?」
すると奥から初老の魔族が小走りで姿を現す。
「魔王様、いやぁびっくりしました!何かご用で?呼んでもらったらすぐ行きましたのに」
「貴様、魔王様に向かって──」
サイリスが声を荒げかけると、山田がクスッと笑う。
(あ、思わず笑ってしまった。どの世界にもいるんだな、こういうおっさん)
「……すまない。俺は気にしてないから。ダリオ、大事な話があるんだ」
ダリオがテーブルへ案内し、アイラ以外の一同が腰を下ろす。
「それで、大事な話とは?」
「魔族の食糧問題についてだ。この前、城下町を見に行ったが、どこもかしこも寂れていて、みんな表情が死んでたからまずは食い物をどうにかしないと、と思ってな」
「おっしゃる通りです。ご自身で視察までされていたとは。魔王様は少し変わった方だと噂では聞いておりましたが……本当のようですなぁ」
「貴様!」
サイリスが立ち上がろうとするが、山田が手を振って制する。
「サイリス、いいから。ダリオも、言い方には気をつけてくれ」
「失礼しました。それで、具体的にはどのようなご相談を?」
「大陸の端に追いやられたといってもそこそこ土地はあるのに、なんでこんなに飢えてるんだ?」
ダリオは一瞬視線を泳がせ、サイリスに目をやる。
「正直に言ってくれ。今後のためだ」
「……軍の徴収が重く、民は常に食糧難です。もちろん、軍の維持は魔族の存続に直結しますので、やむを得ぬ面もあります」
しばし沈黙が流れる。
「よし、キンバリ、予算配分を見直してくれ」
「しかしながら、それでは防衛が──」
「軍については、ひとつ考えていることがあるから大丈夫だ」
「……承知しました」
山田はダリオからべリアムへ視線を移す。
「べリアム。聞きたいんだが、農業に使える魔法ってないのか? 土壌を豊かにするとかそういう感じの」
「はいっ!農業で使えそうな魔法でしたら、例えば《ソイルコール》があります。作物が育ちやすい土地がうっすらわかる魔法です。ただ……非常にマイナーで、ほとんど使われていません」
(は・・・?)
「なんでそんな便利なものが広まってない?」
「魔王様、魔法の素養が高い者は軍に徴用されます。また、役割に応じて習得する兵士と違い、民の大半は生活に便利な《ファイア》を習得します。そのような魔法は私も知りませんでした」
サイリスが応える。
(まぁ火が便利なのはわかるけどさぁ……)
「なるほど……他には?」
「《リーフフィクス》という、植物専用の回復魔法もあります。病気の葉などを治せますが、これもまた誰も使いません」
「その二つ、難易度は?」
「やや難しいですが、占有は微々たるものです」
「《リーフフィクス》……初耳ですな。勉強になります」
感心した様子でダリオが頷く。
「よし、決めた。べリアム、農業で使えそうな魔法はすべてダリオに教えろ」
「了解です!」
「ダリオは農民たちに周知しろ。習得者には補助金も出す」
「キンバリ、余裕はないが予算を回してくれ。いずれ必ず見返りがある」
「承知しました」
「さてダリオ、今この場で食糧大臣に任命する。今後は幹部会議にも参加してくれ」
「えっ! 私が?」
「魔王様の命令に──」
サイリスが語気を強めると、ダリオは慌てて頭を下げた。
「はいっ、謹んでお受けいたします!」
「それと、俺がみんなにどう言われてるか教えてくれ」
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




