第11話【魔王山田、トップに立つ】
ライエル王国王都カレスタ――
王城の執務室。重厚な調度品に囲まれたその空間で、ライエル王、参謀長のジーナス、そして第二王子ギレルの三人が対面していた。
「ジーナス、スラン殿の様子はどうか?」
「はっ、未だ昏睡状態です」
「レイラは……またスラン殿の元に?」
「はい。連日、看病を欠かさずに」
「……あれではレイラまで倒れてしまいかねん。あとで私からも話しておこう」
そのとき、ギレルが不機嫌そうに声を上げた。
「あんな奴、さっさと送り返せばいいんだ」
「ギレル」
「あれだけ盛大に送り出したというのに、魔王も倒せず、ノコノコ帰ってくるとは何事だ」
「だが、一人で魔軍を半壊に追い込んだとも聞いているぞ」
「はい、報告ではそのように」
「あいつが魔王の奇襲を防げていれば、こんな事態には……兄上だって……」
ギレルの言葉が途中で止まり、沈黙が訪れる。
「……カシウスは?」
「かろうじて命は取り留めましたが、衰弱が著しく、治療師たちが手を尽くしております」
ライエル王は、眉間に深いしわを寄せ、重く息を吐いた。
「軍の再建は……どうだ?」
ジーナスは無言のまま首を横に振る。
「スラン殿も戦えぬ今、魔王が動けば……」
言葉の先を誰も続けられず、執務室には再び、重く沈んだ沈黙が落ちた。
* * *
戦いから2週間後。魔王城会議室。
山田の呼びかけで、幹部たちが一堂に会していた。
「皆、今回の戦いは本当によくやってくれた」
山田の言葉に、全員が一斉に頭を下げる。
「ネイからの報告によれば、王国に援軍の動きは見られない。しばらく侵攻はないと見ていいだろう。ただし、要塞の防備は怠るな」
「魔王様、よろしいでしょうか」
ガイアが手を挙げた。
「なんだ?」
「王国を攻める好機ではございますが……第1軍の損耗が激しく……」
「ああ、王国への反攻はしない。勇者もまだいるだろうしな」
「……失礼いたしました!」
「あれだけ総掛かりでダメだったんだ。今後は別の方法で排除するつもりだ」
山田は軽く息を吐くと、皆に視線を向けた。
「さて、今後の方針を決めたいが……その前にひとつ聞いておきたい」
全員が姿勢を正す。
「この国のトップって、誰なんだ?」
一瞬、場に沈黙が落ちた。
(ん?なんかまずいこと聞いたか?どさくさで俺が指揮してたけど、トップはどこにいるんだ?)
「魔王様です」
サイリスが口を開いた。
「ん? だから代表は」
「魔王様です」
「いや、俺が来る前」
「……おりません」
「は?」
また沈黙。
「いない?」
「先代魔王様が亡くなられてから、ずっと王の席は空位でございます。他の者が座るなど、ありえません」
(わけがわからない)
「どうやって決めてたんだ?軍とか税とか」
「軍は私たちが。税はキンバリや他の担当の者が合議で……」
(だいぶひどいな)
「しかし、魔王様が降臨されましたので、今後は皆、魔王様に従います」
ガイアが言い切るように頭を垂れ、続いてギギが一歩前へ出る。
「ご命令を」
(よく滅びなかったな。まぁ、これはこれでいいか)
「……わかった。それでは今後の方針を伝える」
全員が顔を上げ、耳を傾ける。
「まず国を豊かにする。領土を広げる。さらに豊かにする――この繰り返しだ」
「ダリス、うまいものは好きか?」
「え、そりゃあまぁ」
「ガイア、守ってばかりも嫌だろ?」
「もちろんです」
「軍の再建と同時に、国も立て直す。……俺についてこい」
「ははっ!」
全員の声が重なった。
【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】




