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第10話【魔王山田、決意する】

山田の身体が空中でバランスを失い、ゆっくりと落下していく。


視界が真っ赤に染まり、音が遠のく。


(今……なにが……)


山田の意識が、黒い闇に飲み込まれていく。


(だめだ……回復を……)


必死に、もう片方の手を動かす。


(魔法……《ヒール》……)


その瞬間、視界が一気にクリアになった。


地面が近づく中、ギリギリで空中姿勢を立て直し、着地する。


そこへサイリスが走ってきた。


「魔王様!ご無事ですか!」


「あぁ、なんとか……」


スランの方に目を向けると、彼は暴れるグリモアスに腕を向け、光の矢を放っていた。


轟音と共に、最後の一頭が倒れる。


要塞の上空から、親衛隊が何名か飛来してくる。


それに気づいたスランが再び光の矢を放つ。


矢は一人に直撃し、地面に落下していく。


「なんだ、あれは……」


(さっき間違いなく倒しただろ。なんで立ち上がって、殺戮マシーンみたいになってるんだ。別の何かがあるのか?)


向かってくる者がいなくなると、スランはふらつく足取りで、呆けたように空を見上げた後、連合軍の陣地に向かって歩き出した。


「なんだ……?」


「逃がすか!!」


サイリスが叫び、魔法を発動する。


「やめろ、サイリス!」


山田の制止が間に合わず、スランは振り返り、再び腕を上げる。


鋭い光の矢が放たれ、サイリスの身体を貫いた。


地に倒れた彼女に駆け寄り、山田はすぐに《ヒール》をかける。


サイリスの目がうっすらと開き、ゆっくりと起き上がった。


「魔王様……」


「サイリス、要塞に戻って全軍に通達しろ。“勇者を攻撃するな”と。急げ」


「……了解しました」


親衛隊が駆けつけてくる。


「第3軍に伝えろ。勇者を絶対に見失うな。」


「はっ!」


「他の者は倒れてる軍団長を探して俺を呼べ。虫の息だろうから急げ」


命令を受け、親衛隊の面々がすぐに動き出す。


山田はその場に立ち尽くしながら、遠ざかっていくスランの背を見つめていた。


 * * *


「魔王様!こちらです!」


鋭い声に振り返ると、山田はすぐさま駆け寄った。視線の先にいたのは、地面に倒れ伏したネイだった。


服は裂け、体中に傷を負い、息も絶え絶えの状態だった。


山田はすぐさま膝をつき、ネイに《ヒール》をかける。光が身体を包み、傷口が次第にふさがっていく。


「……私は……」


「親衛隊から状況を聞いてすぐに第3軍の指揮を取れ」


「……はっ!」


再び背後から声が上がる。


「魔王様!」


山田は声の方へ向かい、ガイアの姿を見つける。即座に《ヒール》を施し、次いでギギ、ダリスも見つけて次々に治療を施していく。


「立てるな。まだ終わっていないぞ」


「はい!」


山田はそばにいたサイリスへ声をかけた。


「サイリス!一度要塞に戻るぞ!」


「承知しました」


二人は飛行魔法で空を駆け、要塞へと戻る。


そこは混乱の渦中にあった。倒れた兵士の叫び声、血にまみれた床、負傷者のうめきと悲鳴――。


「魔王様!」


何人もの兵士が山田に駆け寄る。


「騒ぐな!負傷者の治療を優先しろ!」


山田とサイリスは司令室へ入ると、兵士が近付いてくる。


「魔王様、急ぎご報告が!」


「なんだ?」


「勇者が敵本陣まで移動した後、突如倒れて運ばれていったとのことです!」


「……わかった。引き続き監視しろ。敵軍に動きがあればすぐに報告を」


「はっ!」


「魔王様、今こそ勇者にトドメを刺す好機では?」


サイリスが殺気立つ。


山田は黙って考え込む。


(あれが無敵っぽいなにかなら、攻撃したらまた再起動しかねない。倒せないと思って動いた方が良さそうだ)


「追撃はしない。立て直しを優先する」


「……承知しました」


(あんなわけのわからん光の矢なんて対策しようがない。決めたぞ……)



(俺は二度と勇者と戦わない)



そう決意すると、山田は立ち上がり、司令室を後にする。


そして要塞内を巡りながら、倒れている兵士たちに次々と《ヒール》をかけていった。



【Invocation Protocol: ARIA/Target:YAMADA】

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