8.再会
(今日はあのテロリストのカウンセリングか…)
久々のカウンセリング、相手は自分たちを人質にとっていたテロリスト。
もう事件からはだいぶ経っていたが、やはり自分も被害者の一人なので、危害を加えられることがなくても少し不安だった。
「おはようございます、センパイ。これからですか?」
出社すると、綾真がコーヒーを飲んでいた。
「ええ。…ちょっと緊張する」
普段自分の気持ちをあまり言わない刹那が、珍しく気持ちを吐露したので、綾真は驚いていた。
「だっ大丈夫ですよセンパイ!俺もついてますから!ね!」
かなり驚いてテンパっている綾真の様子を見て、刹那はふっと吹き出した。
「わ、笑わないでくださいよぉ。…いや、笑った顔の方が100倍可愛い…」
「馬鹿なこといわないの」
そんなことを言う綾真のおでこを軽く突いて、デスクに資料を取りに行った。
「十六夜、今日の奴のリストだ。時間まで、楽にしとけ」
望月がリストを渡してくれた。
『名前:藤木 侑、性別:男性、年齢:32歳、配偶者:あり、罪状:人質殺害罪(刑法第4条)、判決:死刑』
「こいつ、過去にも犯罪歴があるらしい。奥さん、子供もいる。…はぁ、どうしたもんかね」
望月はため息をつくと、少し悲しそうな顔をした。
「お前も色々辛いだろうが、奴に会うことはもうない。気張らず頑張れよ」
精一杯の励ましとともに、限定シュガーサンドをくれた。
「ありがとうございます。無理はしませんから」
軽くお辞儀をしたあと、化粧を直しにお手洗いに向かった。
「失礼します、十六夜です」
時間になり、部屋の前まで来た。
ドアが開きカウンセリング室に入ると、ガラス越しに男が座っていた。
その顔をみて、思わず寒気がした。
ショッピングモールで見た、殺人犯の顔。
「っ!…こんにちは、藤木さん」
最初言葉に詰まったが、平常心を取り戻し、笑顔を作って挨拶をした。
「私は十六夜刹那と申します。今日はよろしくお願いしますね」
刹那が言うと、嘲るように藤木が鼻を鳴らした。
「警察の奴らは仏様気取りか。さっさと殺さず最後のお説教ったぁ、いいご身分だな、クソが」
全く反省していないようで心が痛んだが、笑顔で話を切り出した。
「安心してください。私は貴方のカウンセラー、お説教なんてするつもりはありません。楽しい話でもしましょうよ」
自分でも顔が引き攣っているのが分かった。
全然綺麗に笑えない。相手がやはり怖くて、許せなかった。
「楽しい話だぁ?舐めてんのかテメェ!」
拘束していた椅子がガタンと揺れた。
「落ち着いてください。私も貴方も、30分間はこの部屋から出られないんですから、退屈しないように会話をするだけです。」
深呼吸をして、改めて藤木に向き直った。
「さて、今日は何をお話ししましょうか」