7.誇り
「十六夜、大丈夫か」
あの事件にあってから、ぼーっとする時間が増えた気がする。
「はい。大丈夫です…なんとか…」
かなり疲れていた。というか、思い詰めていた。
(死刑囚のカウンセラーなんて、周りから良い目で見られているはずがない。あのとき死んだ人々、そしてその親族は、どんなに苦しいだろう。)
刹那はいつのまにか、このカウンセラーという仕事が怖くなっていた。
(駄目、こんなことでめげていたら…仕事は仕事。これは私にしかできないこと…)
「…イ…センパイ?…センパイ!」
綾真が横のデスクに座っていた。
「顔色、良くないですよ。」
「…綾真。私は大丈夫」
刹那は精一杯強がって見せたが、視界がぼやけ、綾真の方に倒れてしまった。
「大丈夫?貴女、朝からずっと寝てたのよ」
目を覚ますと、オフィスの医務室だった。
「ここまでは白鐘君が運んでくれたの。貴女、過度な寝不足ね。」
頭が痛い、体も怠い。
「この前のこともあったものね。大方、自分の仕事に疑問を持ったとか、そんなところかしら。」
見事に言い当てられてしまった。
「他人の心を救う側ほど、他人からの救いを知らないのよ。もっと他人を頼りなさい。」
先生に頭を撫でられて、涙が溢れてきた。
「貴女も自分の仕事に誇りを持って良いのよ。もちろん、貴女の仕事を好かない人もいる。被害者の身内は特にね。でもね、死刑囚にも思いやりを持ち、相手ができることは、誰にでもできることじゃないわ。」
先生が刹那の涙を拭いながら続けた。
「貴女のカウンセリングは素晴らしいわ。人間の、カウンセラーの鑑よ。そして、被害者のことを思って悩める心も、全てが優しいのよ。」
涙がおさまってくると、眠くなってきた。
「今日はゆっくり休みなさい。今帰るのは辛いだろうから、夕方になったら呼びにくるわね。」
先生はカーテンの外に出ていった。
あの日以来、久しぶりに深い眠りにつけた気がした。
「あ、センパイ!体調は大丈夫ですか?」
次の日、出社すると綾真が駆け寄ってきた。
「ええ、心配かけてごめんなさい。もうすっかり元気だから安心して」
綾真は安心したように息を吐いた。
「十六夜、調子は」
望月もこちらに寄ってきた。
「先輩、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。私はもう大丈夫ですので、来週のカウンセリングも問題ありません。」
ショッピングモールのテロリストは、死刑となった。
「くれぐれも無理するなよ。なんかあったら、俺か白鐘を頼れ。先輩後輩は、こういう時のためにいんだから。」
「望月センパイ…カッコつけてません?」
綾真がムッとした表情で望月に物申した。
刹那はそんなやりとりを見て、気持ちが和らいだ。
「センパイ、俺たちも同業者です。センパイ一人が気負う必要とか、全然ないですからね」
二人に元気付けられて、一日前向きな気持ちで仕事ができた。
(カウンセリングは来週。準備を始めよう)