4.快晴
「お疲れ様です〜、センパイ」
カウンセリングが終わり、休憩室に向かうと、今年の新入社員であり、刹那の後輩で服役中の犯罪者専門カウンセラーである白鐘綾真が話しかけて来た。
「彼、どんな人でした?センパイでも手強い相手でした〜?」
カウンセリングは結構疲れるため、ヘラヘラとした態度で話されると地味に腹が立った。
「今回も、ちゃんと仕事はこなしたわ。それに、彼はまだ、“普通の人間”の心を持っていたわ。」
綾真が自販機でコーヒーを二本買い、そのうちの一本を刹那に渡した。
「俺もセンパイにカウンセリングしてもらいたいなぁ。お悩み相談、してもらいたいなぁ」
綾真はにこにこしながら刹那に話しかけるが、刹那はそっけなく返した。
「君がその腑抜けた態度を改めたらね。それから、社内の女性社員をナンパする癖やめなさい。この前もコンビニで事務の斉藤さんのことナンパしてたでしょう」
刹那が睨むと、綾真は気まずそうな顔をした。
「あ、はは…。で、でも、俺の本命はセンパイだけっていたたた!!」
刹那は綾真にデコピンを喰らわしたあと、休憩室を去った。
「あちゃー。俺もまだまだかな…」
綾真もコーヒーを飲み終え、カウンセリング室に向かった。
「おう、お疲れ。どうだった、彼は。」
望月はパソコンに向き合いながら刹那に言った。
「いつも通りでしたよ。彼、三週間後でしょう」
淡々とした口調で言ったが、なんとなく自分の担当した死刑囚のことだと思うと少し悲しい気持ちになる。
「十六夜、そろそろお前も慣れろ。死刑囚は死刑囚だ。死刑になるほどの重罪を犯している。そのどれもが、死んで償えるような罪ではない。」
望月は少し強めの口調で刹那に言った。
「分かっています。死んだ子供たちにも、彼らの親御さんにも、彼は償うべきですから」
ムッとした顔で刹那は言った。
「…ま、そうは言っても、お前はまた処刑を見るんだろう。自分から行くなんて、逆に辛くないのか」
刹那は知っていた。望月も、自分が担当した死刑囚の処刑は必ず見に行っていることを。
「自分が担当した死刑囚が無事に成仏しないと困りますから。」
刹那はそう言ったあと、自分のデスクに戻ってカウンセリングのレポートをまとめた。
三週間後、処刑の日が来た。外は雨だった。
「…お別れですね。上山さん」
処刑場に着き、ガラス窓の外から、絞首刑をそっと見守った。
彼は目隠しをされていたため、こちらは見えていない。
少し抵抗しながらも、首に縄をかけられ、人生最後の地面から、足を離した。
「さようなら、そして、また来世。安らかに眠ってくださいね」
刹那はその場を去った後、一粒の涙を流した。
外に出ると、雨は止み、雲一つない晴天が広がっていた。
本小学校教師編(終)