表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君にほんの少しの救済を  作者: 海月
元小学校教師編
4/11

3.過去

(初めての担任…。学年は六年生か)


25歳、初めての担任だった。


(これからが楽しみだ。去年はほとんど子供たちと関わらなかったけど、担任になれば子供たちと関われる。絶対に、良い未来に導いてやらないと…!)


上山は喜びが収まらなかった。


やっと担任ができる、大好きな子供たちと関われる、そう思って、教室に入った。


「はじめまして。これから君たちの担任になる、上山慶です。俺も初めての担任で、最高学年である君たちを持てて光栄だよ。1年間よろしく!」


笑顔で明るく切り出した。上手くいっているだろうか。子供たちは自分に親しみを持ってくれているだろうか。


あっという間に1日がすぎ、満足な気持ちで学校を出た。


(これから毎日あの子たちに会える。彼らと共に、俺も成長していこう。)


希望に満ち溢れた1日が終わり、また朝を迎えた。


「上山先生、資料お願いします」


そう言われて、大量の資料を渡された。


「これ、僕一人でやるんですか?」


あまりの量の多さに驚いてしまった。


「はい。担任の仕事ですから、明日までにお願いします」


上山は唖然としたが、それでも子供たちのためと思い、残業しながら必死に終わらせた。


(担任は大変だ。でも、これからもっと大変になってくるだろう。慣れなければ)


大変だったが、苦ではなかった。


「上山先生、今までありがとうございました。卒業しても、自分たちの道に精一杯進んでいきます。」


あっという間に月日は流れ、上山が持っていた子供たちは卒業してしまった。


上山は涙を流して彼らの卒業を祝った。


上山はとっくに担任生活には慣れ、この小学校で七年間担任を持ち続けた。


そして、初めて異動指示が出された。


(この学校ともお別れか…。次の学校でも、心機一転頑張るか…!)


異動先の学校は、言ってはいけないかもしれないがドがつくほどの田舎だった。


校舎には落書き、机はまともに並んでおらず、変な匂いもした。


「ここがこれからの勤務先か…。」


前の学校は決して都会ではなかったが、これほど荒れた学校には少し気が引けた。


「上山先生、三年生担任です」


同僚の先生はぶっきらぼうだった。


(この学校、上手くやっていけるだろうか…。いや、なんとしても子供たちをきちんと育て上げるんだ。怖気付いてる場合か)


上山はポジティブに考え、担当の教室に入った。


「っ!」


上山は絶句した。


新学期で綺麗なはずの教室が、既に泥や土で汚れ、おまけに教卓の床はびしょ濡れだった。


「どういうことだ、これは…」


上山が呟くと、一人の児童が叫んだ。


「前のババアがいなくなったと思ったら、弱そうな奴が来たぞー!」


少年がそう言うと、周りの児童もギャハハと笑った。


「君、口の利き方をわきまえなさい。もう三年生だろう。」


注意すると、どこかから石が投げられた。


「っ!誰だ!」


思わず怒鳴ってしまった。


「っ…すまない。はじめまして、今日から君たちの担任になる、上山慶だ。一年間よろしくな」


上山は必死に笑顔を保った。


しかし、上山の言うことを聞こうとする児童は全くおらず、とにかく荒れていた。


一週間が終わり、どっと疲れが出て来た。


(学校によってこんなに違うのか…。子供に蹴られるのは日常茶飯事、いじめも多い…。俺はどうしたら…)


上山は頭を抱えた。


それから一年が過ぎた。


上山のストレスは限界を迎え、いつの日か、児童を手にかけるようになっていた。


上山自身が、この学校の生活に慣れてしまったのだ。


「舐めてんじゃねぇぞクソガキ」


子供を呼び出しては怒鳴り散らし、殴っていた。


子供は泣き、逆に上山はスッキリしていた。


そしてついに、上山は二人の子供を学校の後ろの森に連れ出し、殺害した。


上山は児童虐待及び殺害で逮捕された。


「…ガキは嫌いだ。弱いくせに生意気で」


裁判でそれを言い残し、死刑判決が下された。


判決が下された二週間後、カウンセリングをすると言われ、部屋に呼び出された。


「こんにちは、上山さん。私は貴方の心理カウンセラー、十六夜刹那です。」


(ああ、この女は、きっと良い教育を受けて、エリートの大学を出て、ここまで来たんだろう。)


ふと、上山はそう思った。


「死んでしまった子供たちは、きっと貴方を恨んではいませんよ。もちろん親御様は貴方を殺したい気持ちでいっぱいでしょうけど。でも、貴方がかつて愛した彼らは、空の楽園で、安らかに眠っています。」


女に、そう言われ、自然と涙が出た。


取り戻したのだ。自分は本当は子供が大好きで、愛していたという気持ちを。


憎たらしくて仕方なかった子供達も、まだ未熟なだけで、これから良い大人に育っていたかもしれない。


悔しさで涙が止まらない。


(向こう側で、彼らは俺に何と言うだろうか)


死刑は三週間後だ。


























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読ませて貰いました!話作るの上手いし、めちゃくちゃいい話で泣きそうになっちゃった。人殺しはダメ。だけど、事情を聞くと同情しちゃう部分もあって、なかなか難しいなって思いました。これからも更新待ってます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ