3.過去
(初めての担任…。学年は六年生か)
25歳、初めての担任だった。
(これからが楽しみだ。去年はほとんど子供たちと関わらなかったけど、担任になれば子供たちと関われる。絶対に、良い未来に導いてやらないと…!)
上山は喜びが収まらなかった。
やっと担任ができる、大好きな子供たちと関われる、そう思って、教室に入った。
「はじめまして。これから君たちの担任になる、上山慶です。俺も初めての担任で、最高学年である君たちを持てて光栄だよ。1年間よろしく!」
笑顔で明るく切り出した。上手くいっているだろうか。子供たちは自分に親しみを持ってくれているだろうか。
あっという間に1日がすぎ、満足な気持ちで学校を出た。
(これから毎日あの子たちに会える。彼らと共に、俺も成長していこう。)
希望に満ち溢れた1日が終わり、また朝を迎えた。
「上山先生、資料お願いします」
そう言われて、大量の資料を渡された。
「これ、僕一人でやるんですか?」
あまりの量の多さに驚いてしまった。
「はい。担任の仕事ですから、明日までにお願いします」
上山は唖然としたが、それでも子供たちのためと思い、残業しながら必死に終わらせた。
(担任は大変だ。でも、これからもっと大変になってくるだろう。慣れなければ)
大変だったが、苦ではなかった。
「上山先生、今までありがとうございました。卒業しても、自分たちの道に精一杯進んでいきます。」
あっという間に月日は流れ、上山が持っていた子供たちは卒業してしまった。
上山は涙を流して彼らの卒業を祝った。
上山はとっくに担任生活には慣れ、この小学校で七年間担任を持ち続けた。
そして、初めて異動指示が出された。
(この学校ともお別れか…。次の学校でも、心機一転頑張るか…!)
異動先の学校は、言ってはいけないかもしれないがドがつくほどの田舎だった。
校舎には落書き、机はまともに並んでおらず、変な匂いもした。
「ここがこれからの勤務先か…。」
前の学校は決して都会ではなかったが、これほど荒れた学校には少し気が引けた。
「上山先生、三年生担任です」
同僚の先生はぶっきらぼうだった。
(この学校、上手くやっていけるだろうか…。いや、なんとしても子供たちをきちんと育て上げるんだ。怖気付いてる場合か)
上山はポジティブに考え、担当の教室に入った。
「っ!」
上山は絶句した。
新学期で綺麗なはずの教室が、既に泥や土で汚れ、おまけに教卓の床はびしょ濡れだった。
「どういうことだ、これは…」
上山が呟くと、一人の児童が叫んだ。
「前のババアがいなくなったと思ったら、弱そうな奴が来たぞー!」
少年がそう言うと、周りの児童もギャハハと笑った。
「君、口の利き方をわきまえなさい。もう三年生だろう。」
注意すると、どこかから石が投げられた。
「っ!誰だ!」
思わず怒鳴ってしまった。
「っ…すまない。はじめまして、今日から君たちの担任になる、上山慶だ。一年間よろしくな」
上山は必死に笑顔を保った。
しかし、上山の言うことを聞こうとする児童は全くおらず、とにかく荒れていた。
一週間が終わり、どっと疲れが出て来た。
(学校によってこんなに違うのか…。子供に蹴られるのは日常茶飯事、いじめも多い…。俺はどうしたら…)
上山は頭を抱えた。
それから一年が過ぎた。
上山のストレスは限界を迎え、いつの日か、児童を手にかけるようになっていた。
上山自身が、この学校の生活に慣れてしまったのだ。
「舐めてんじゃねぇぞクソガキ」
子供を呼び出しては怒鳴り散らし、殴っていた。
子供は泣き、逆に上山はスッキリしていた。
そしてついに、上山は二人の子供を学校の後ろの森に連れ出し、殺害した。
上山は児童虐待及び殺害で逮捕された。
「…ガキは嫌いだ。弱いくせに生意気で」
裁判でそれを言い残し、死刑判決が下された。
判決が下された二週間後、カウンセリングをすると言われ、部屋に呼び出された。
「こんにちは、上山さん。私は貴方の心理カウンセラー、十六夜刹那です。」
(ああ、この女は、きっと良い教育を受けて、エリートの大学を出て、ここまで来たんだろう。)
ふと、上山はそう思った。
「死んでしまった子供たちは、きっと貴方を恨んではいませんよ。もちろん親御様は貴方を殺したい気持ちでいっぱいでしょうけど。でも、貴方がかつて愛した彼らは、空の楽園で、安らかに眠っています。」
女に、そう言われ、自然と涙が出た。
取り戻したのだ。自分は本当は子供が大好きで、愛していたという気持ちを。
憎たらしくて仕方なかった子供達も、まだ未熟なだけで、これから良い大人に育っていたかもしれない。
悔しさで涙が止まらない。
(向こう側で、彼らは俺に何と言うだろうか)
死刑は三週間後だ。