11.家族
「お疲れ様です。センパイ」
珍しく綾真が普通に話しかけてきた。
「顔色は…うん、大丈夫そうで良かったです」
綾真は刹那が無理をするのをとても心配していた。
「俺もさっきカウンセリングだったんですよ。俺よりも年下の大学生だったんです。彼に聞いたら、やっぱり“お金が欲しかった”って。お金って怖いですよね〜。普通の大学生すらも犯罪者に変えてしまう。犯罪歴があるかないかで就職にも影響するっていうのに…」
綾真はなんとも思ってなさそうにへらへらと言った。
「…そうね。でも、本当に怖いのは、きっとこの世の中よ。情報があまり出回らない今の日本は、もっと変わるべきよ。いえ、何としてでも変えなきゃ」
刹那は藤木と約束した貧困のことを、政府に訴えようとしていた。
「そうですね。これ以上、不必要な犯罪者を増やしてはいけませんから。」
二人は互いに意見を交わしたあとで、デスクに戻った。
(三週間後、彼はまた、家族に会えるんだ)
少し寂しい気持ちになったが、罪は罪だ、と考えなおした。
三週間後、処刑日になった。
ガラス越しに藤木はいた。やはり怖がっているようで少し抵抗していた。
しかし、彼の首は縄にかけられて、天へと旅立った。
(さようなら、莉子、奏。どうか、幸せになってくれ)
少し、微笑んでいるように見えたのは、刹那の考えすぎかもしれない。
(さようなら、藤木さん。来世は、幸せな家庭を築いてください)
刹那はそっと涙を流し、処刑場を出た。
そして、刹那は藤木の家に向かった。
(勝手なことだってことは分かっている。でも、彼の気持ちを伝えたい。)
古いアパートだった。他に人は住んでいないだろう。
ベルを鳴らすと、莉子が出てきた。
「あなたが、十六夜さんなんですね…」
莉子は思い切り頭を下げた。
「死ぬまで夫を支えてくださり、ありがとうございました。彼がしたことは私たちが一生をもって償っていくつもりです。だからどうか、彼に休息を、与えてやって…」
莉子は泣いていた。とても綺麗な人だった。
「ええ。藤木さんは最後まで奥様とお嬢さんを愛していらっしゃいましたよ。」
刹那は優しく莉子に言った。
「お嬢さんは今お家にいらっしゃいますか?藤木さんから彼女に伝えたいことがあると伝言をいただきまして…」
莉子が奏を呼ぶと、奏は出てきた。
「こんにちは、奏ちゃん。私は十六夜刹那といいます。お父さんから伝言を預かってきたの。」
(15歳。年頃の女の子で、お洒落だってしたいはずだろうに…)
髪は伸び切って、服もよれていた。
「はじめまして。藤木奏といいます。この度は、父がお世話になりました。」
奏は礼儀正しく頭を下げた。
「奏ちゃん。お父さんがね、貴方には沢山勉強して、良い人と結婚して、誰よりも幸せになって欲しいって言っていたわ。だから、幸せになろうね。そのためにも、私も政府も、全力で協力するから。」
奏と刹那は指切りをした。
刹那が家を出る時、玄関に二枚の写真が飾ってあるのに気づいた。
一枚は藤木と莉子の学生時代のツーショット、もう一枚は、奏が生まれた時の写真だった。
その空間には、幸せがいっぱいに詰まっていた。
こんにちは、海月です。
更新が日々遅くなっていて申し訳ない限りです。
実は、高校のテスト期間に入ってしまいまして、しばらく更新できないと思っております。
続編を楽しみにしてくださっている方々、もう少しだけお待ちください。
これからも、『君にほんの少しの救済を』をお楽しみいただけると幸いです。