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君にほんの少しの救済を  作者: 海月
テロリスト編
11/13

10.愛と殺し

「なぁ藤木、タバコ吸いに行こーぜー」


中学でろくに勉強しなかった藤木は、俗に言うヤンキー高校に入学した。


周りの生徒はお世辞にも育ちが良いとは言えなかった。


「あぁ、いいぜ」


女子も男子も荒れていて、いじめも多かった。


真面目な生徒がほとんどいなかったため、少しでも真面目にしている生徒や静かな生徒はいじめの的だった。


「ねーねー、天城さーん。放課後いつものとこ来てよ」


唯一少し真面目そうな女子がいた。またカーストトップの女子に絡まれている。


天城莉子。藤木の横の席だ。


彼女の体には至るところにあざがあり、同級生や両親に虐げられた痕跡があった。


藤木は友達と話しながらも、莉子のことをじっと見ていた。


一瞬、目が合った気がしたが、藤木は気まずくなって目を逸らした。


「藤木、どうしたんだよ。早くいこーぜ」


屋上までタバコを吸いに行った。


その後の授業はサボったが、荷物を取りに教室に戻ると、長く綺麗だった髪は雑に切られ、虚な顔をした莉子が一人席に座っていた。


「…おい、髪どうしたんだよ」


聞いておきながら、莉子に何が起こったのかは想像できた。


「藤木くん…帰らないの」


莉子は藤木に聞いた。というか呟いたと言ったほうが正しいかもしれない。


「今から帰んだよ。お前こそ、帰んねぇのかよ。門しまっちまうぞ」


荒っぽく藤木が言った。


「…うん。帰るよ」


その声はとても暗かった。帰りたくないのだろう。


「…なぁ、この後、時間あるか」


藤木は莉子に言った。


「…うん。あるよ。」


少しだけ莉子が微笑んだ。


「ねぇ、藤木くん。私をどこかに連れ去ってよ。私、家に帰りたくないんだ」


綺麗な瞳が藤木を捉えた。全てを吸い込んでしまいそうな、澄んだあどけない瞳だった。


藤木は完全に莉子の瞳の虜だった。


「…あぁ、任せとけよ。」


藤木は莉子の手を引き、夜の街に連れ去った。


しかし、莉子の幸せな時間は長くは続かなかった。


深夜をまわり、莉子は自宅に戻った。


家はごみだらけ。不機嫌な母が怒鳴り散らしていた。


「莉子!どこに行っていたの!夜遊びなんて…っ!」


母親は莉子の頬を殴った。


「アンタもお父さんと一緒ね。どうせ男でも誑かしに行ってたんでしょ!?」


莉子の父親は不倫していた。離婚はしていないものの、家には滅多に帰ってこない。


「お父さんとも結婚なんてしなきゃよかった。アンタができたから…私がこんなに不幸になったのは、全部アンタのせいよ、莉子。」


「アンタなんか、産まなきゃ良かったのよ」


母親はそう言い残して寝室に戻って行った。


(…そうね。私なんて、生まれてくるべきじゃなかった)


莉子は着替えて布団にくるまった。


一睡もできずに朝を迎えると、母親は家にいなかった。


学校に行くと、いつも通り席に椅子は無く、机は落書きで汚されていた。


(…今日、死んじゃおうかな)


放課後、体育倉庫にあったロープを学校の裏の木に吊り下げ、首にかけた。


(さよなら、この世。さよなら、藤木くん)


その時だった。


「莉子!何やってんだ馬鹿野郎!」 


藤木が駆けつけてきた。


「何馬鹿なことしてんだよ!お前が死んだら俺が許さねぇ」


藤木は莉子をそっと下ろし、抱きしめた。


「なぁ、家出しようぜ」


藤木は莉子に言った。


「今日、家に誰もいねぇんだ。というか、いつも親父は帰ってこねぇ。」


二人は藤木の家に帰った。


しかし、二人はここで誤ちを犯した。


「クソっ!…これも、俺のせいかよ…」


莉子が妊娠したのだ。二人は17歳だった。


二人は親に見放され、高校も退学させられ途方に暮れてしまった。


そして、二人の間には娘が産まれた。


「こいつ、どうする」


二人には、子供一人育てるお金なんてあるはずがなかった。


「…私が死んでも、この子は育てたい。せっかく産んだ子供だもの。」


藤木は悩んだ。最愛の莉子を失いたくなかったのだ。


「…分かった。育てよう。名前は…」


「奏、奏がいい。可愛くて素敵な名前でしょう?」


莉子か言った。


「そうか。…奏、これから、おまえは俺たちの家族だ。」


二人には再びひとときの幸せな時間が蘇った。


しかし、高校中退では会社には入社できず、フリーターとして働くしかなかったため、充分なお金は無かった。


そのうち、藤木は万引きをするようになっていた。


藤木は捕まった。


そして、二度目。


藤木は裏組織と手を組み、ショッピングモールでテロを起こした。


「俺が死んでも、あいつらには幸せになって欲しかった。」


「貴方が愛したご家族は、貴方が注いだ分と同じくらい、貴方を愛していますよ。」


その言葉を聞き、少し救われた気がしたのだ。


(莉子、奏。愛してる。どうか、幸せになってくれ)


三週間後、また家族に会えるな、と、藤木は思ったのだった。




























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