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地球連邦戦記  作者: かたな
第一章 接触、迫る危機編
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第6話 目覚め・迫りくる脅威



 地球連邦宇宙軍 第3救難群 救難艦イナヅマ 

 その病室にて一人の少女がベットに横たわっている。

 心音を示す電子音が静かな病室に一定のリズムで、その少女が確かに生きているという証を刻んでいる。


 少女はやがてゆっくりと目を開ける。


 「こ・・・ここは・・・」


 少女、コーネリア公国公女フィルは困惑した。


 目を開け、ぼやけていた視界が鮮明になるとその視界に移ったのは見たことのない天井と、明らかにコーネリアの物とは異なる意匠の機械類達、フィルは自身が意識を失う前の記憶を思い出そうとし、そして少しの間をおいて段々と記憶がはっきりとしてきたところで、病室にノック音がし、複数の人物が入ってくる。


 「意識が戻られたようですね、私は地球連邦宇宙軍第3救難群所属の医官、ジェームス・イトウ少佐です。貴女の治療を担当しました。気分の悪いところや違和感のあるところはありますか?」


 医官のイトウの言葉に、フィルは首を横に振り、そして体を起こそうとするが、イトウに静止される。


 「貴女はかなりの重症でした。まだ動かない方がいい、明日にはもう少し設備が整っているちゃんとした医療機関に移送できるので、それまではゆっくり休んでください」


 イトウが優しいまなざしでそう伝えると、フィルも頷き、おとなしく従うことにした。


 ふと、イトウの後ろにいる数人の人物に目が留まる。


 そのうち2名は見たことのない軍服を着ており、フィルに若干の好奇心が芽生えるが、次に視界に入った人物を見て固まってしまう。


 いたるところに包帯やガーゼが巻いてあるのが見え、腕はギブスで方から吊り下げられている。


 その人物には見覚えがあり、フィルの乗っていた戦艦、プリンセス・コーネリアの乗員だった。


 「姫様、御無事で・・・うう、よかった・・・ドーム大佐が亡くなったと聞いて、まさか姫様までと、我ら一同心配で・・・うぅぅ」


 その兵士はフィルの無事な姿を見ると感極まった様子で泣き崩れてしまい、病室の前で念のため待機していた看護師に付き添われ病室を後にする。


 病室を後にした兵士がその前に言った言葉、ドーム大佐の死にフィルは医官のイトウに視線を向け、イトウはその視線に耐えることができず、悔し気に眉間にしわを寄せ視線を逸らす。


 見ると、こぶしを握り締めていることが分かる。


 その姿を見てフィルは理解した。


 自分を補佐し、支えてくれていた老将がもうこの世にいないことを。


 幼いころに亡くした母、戦場に散った兄、自身と一部の民を逃がすために囮となった父に次いで親しい者を失ったことに、フィルの心は悲鳴を上げるが、慟哭したい気持ちを、まだ少女という年齢にもかかわらず気丈にも持ち前の責任感と理性で抑え込み、その内心を悟らせまいと表情を引き締め、少女は周囲の状況を見渡す。


 すると、イトウの後ろに控えていた軍人が声をかけてきた。


 「お嬢さん、いや、公女殿下と読んだ方がよろしいか・・・辛いときに申し訳ないのだが・・・ああ、私は地球連邦宇宙軍第3救難群司令のロイ・ランスター准将、隣にいるのがこの艦の艦長カズヨシ・サガワ大佐、君たちコーネリア公国のことについてはある程度生存者から話は聞いているのだが・・・軍本部の指示でね、君たちが戦ったという敵について、君たちの持つ情報、戦闘記録などのデータを提供してほしいのだ。君たちの艦隊の指揮官クラスに聞いても、最高指揮官たる君の許可なくして無断で提供することはできないと言われてしまってね・・・許可してもらえるだろうか?」


 ランスター准将の問いに、フィルは少しだけ考える。


 もし、あの敵がまた攻めてきたらどうなるか。


 自分たちを曲がりなりにも救助してくれたこの人たちには恩がある。


 恩があるのに、敵の情報を渡さず、万が一あの敵がここに攻めてきたとき、情報を渡していなかったために彼らが不利になるのではないか。


 ならば自分たちが持つ限りの情報を彼らに渡した方が、少しでもこの恩に報いることができるのではないか。


 そこまで考え、フィルはランスター准将の目を真っ直ぐ見つめ、静かに頷いた。


 「私たちの持つ情報を全部提供する・・・どうか役立ててほしい」


 フィルのその言葉にランスター准将とサガワ大佐は深く頭を下げ、病室を後にする。


 

 病室を出たランスター准将とサガワ大佐は、廊下を歩きながら沈痛な面持ちでどちらかともなく話始める。


 「辛いものだな、あのような少女にあんな顔をさせてしまうとは・・・そうは思わんかね、大佐」


 「ええ、私もそう思います。つい、思い出してしまいました。30年前のあの事件・・・コロニー2機が崩壊、その時緊急出動して救助にあたりましたが・・・当時の救難艦の性能では崩壊したコロニーの残骸へ接弦するすべがなく、目の前に生存者の反応があるのに救う手だてがない、そんな中で、どうにか救い出せた子供が、妹以外の家族全員を失った子供が、あの少女と同じような目をしてました。無理をして自分の気持ちを押さえつけて我慢する・・・あんな顔は二度と見たくはなかったのに・・・」


 そう言って大佐は肩を落とす・・・


 「大佐、私も同じ思いさ」


 ランスター准将はそんな大佐の肩を叩くと、自分の仕事のため気持ちを切り替えるよう促し、本部へ報告するべく、通信室へと足を向けるのだった。



 数日後


 地球連邦 大統領官邸会議室


 そこには、地球連邦の国家の防衛政策を担う国防委員会のメンバーが集まっていた。


 メンバーは以下の通り


 地球連邦大統領 アルベルト・ハーリング


 国防大臣 アレス・フォン・ルーデル


 科学省大臣 ヒロユキ・サナダ


 財務大臣 マリア・ソコロフ


 管区行政大臣 ホセ・メルカード

 

 経済産業大臣 シホ・サワグチ


 農林水産大臣 マイヤー・アレクサンドル


 内務大臣 オリバー・オーヴェン


 太陽系外深宇宙探査局局長 カイ・キンドル


 中央情報庁長官 ベン・クロード


 地球連邦統合軍司令長官 ジャック・ラングレー


 宇宙軍司令長官 ピーター・ランハルト


 海兵隊司令 クロウ・スルー


 上記13名が集まり、今後について報告と、対応の検討を行っていた。ちなみに宇宙軍司令長官と海兵隊司令は臨時に呼び出されてるだけである。


 「では、ルーデル大臣、現在の地球の防衛体制でへ不足というのは確かなのかね?」


 「はい大統領、これを見てください」


 そう言って準備されたプロジェクターには、地球連邦が統治する各居住惑星管区、中継ワープステーション、軍の部隊、基地の配置が細かく表示されていた。


 それを示しながら大臣は話を進める。


 「保護したコーネリア人の話では、コーネリアには第8居住惑星管区が最も近い、しかし、第8居住惑星管区の防衛戦力は各管区の中で最も低いのが現状です。さらに、我が地球連邦軍はその性質上戦力が分散しており、有事の際は増援が間に合わない可能性もあります、詳しくは統合司令長官が後程説明します」


 「分かりました。サナダ大臣、科学省からは何か報告はありますか?」


 やせたメガネをかけた男性が立ち上がり淡々と報告を始める


 「はい、コーネリア人の血液、DNA解析と、言語解析、そして提供された不明勢力の解析の結果、いくつか判明したので報告します。


 ①コーネリア人のDNAは極めて特殊で、人類に分類される生物であれば高い確率で交配が可能であること。


 ②言語体系の法則は地球の言語体系とは異なるものの、近しいものであり、翻訳機が翻訳に成功したのはこのためである。


 ③血液、DNA解析の結果、地球上にあるキノコ系はどのキノコでもある種興奮剤のような作用があることが判明、ただし、その効果は個体差があり、健康には害はないとのこと


 ④不明勢力について、極めて高い科学力と物量、極めて攻撃的な思想と推定、言語解析は完了し、翻訳システムの全アップデートも完了済み


 「以上が判明した事柄です」


 「ありがとう、メルカード大臣、各管区への注意喚起は?」


 小太りの男性が立ち上がり報告する。


 「はい、すでに情報を各管区に伝達し警戒を促しております」


 「分かりました。軍の情報については・・・」


 そこまで話をしたところで大統領の言葉はさえぎられる。


 大統領から見て左側に座っていた女性大臣のシホ・サワグチが何かに気づいたようにいまだに軍の部隊の配置を表示つづけるプロジェクターの映像を指さし声を発したためである。


 「ねえ、今、表示されてた219護衛隊っていう表示がいきなり消えたんだけど…」


 その言葉に、会議室にいた全員の時が留まった。


 そして同時に会議室の内戦がけたたましくなり、近くに座っていた宇宙軍司令長官が受話器を取ると、みるみる青ざめていく…


 いくつかやり取りをした後向き直り、彼は震える口で報告する。


 「第219護衛隊及び219深宇宙探査船団がSOSを発信後に消息を絶ちました。第38中継ワープステーションが周辺部隊に集結と警戒配備を指令、第8居住惑星管区から捜索のため増援の派遣要請です」


 この日、地球連邦の長い平和は終わりを告げた。

 

 

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― 新着の感想 ―
かたなさん、こんにちは。 「第6話 目覚め・迫りくる脅威」拝読致しました。  フィルの、愛する者たちの死に耐えながら、公女としての自覚が芽生えていく成長の過程がイイですねぇ。  組織者としての群像劇…
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