第3話 混乱
地球標準時間 西暦2280年 6月 地球連邦史上において後世、激動の時代と言われる時代は、この時に始まったと言っても過言ではない。
第36中継ワープステーションにワープしてきた謎の艦隊、この謎の艦隊は多くが傷つき、正しく満身創痍といえた。
その対処、初動に携わった者の心情はいかほどか、推し量ることはできない。
その時、第36中継ワープステーション管制室は混乱の中にあった。
「正体不明艦隊、接近した第10警備隊に対し砲塔のようなものを指向する動きを観測!」
「全周波数帯で呼びかけを続けろ!警備艦隊は!?」
主任オペレーターの声が管制室に響く、管制室に詰めている10人ほどのオペレーター達が次々と入る情報を処理しつつ、周辺の連邦所属船舶などに被害がないように対処していく。
「現在、当ワープステーション所属第44警戒群第272、及び275警備艦隊が展開中!管区司令部に増援を要請中です!」
「まどろっこしいな、対応中の部隊の通信をすべてスピーカーに流せ!残りの警備艦隊に関しては不測の事態に備え第276警備艦隊を残し全艦出動!周辺部隊の状況はどうなっている!」
オペレーターの一人がレーダーなどが並ぶコンソールを確認し報告する。
「確認しました、警戒ポイントC4エリアに第12救難群並びに第8管区第6防衛艦隊からワープアウトの通達!まもなくワープアウトします!続いて第7居住惑星管区第34中継ワープステーションより、第7管区にて演習に参加していた第3救難群がワープゲートの使用許可を申請中!長距離ワープを受理しますか!?」
その報告に、主任オペレーターと、管制室にて関係各所との調整を行っていたステーションの所長は一瞬だが喜色を顔ににじませるが、すぐに本の表情に戻り仕事に集中する。
「申請を受理!ワープゲートを起動し第34中継ワープステーションに接続!」
「了解」
オペレーターが機器を操作すると、ステーションの、リング状になっている構造物の中央付近の空間が歪みはじめ、ほどなくして複数の艦艇が出現する。
連邦宇宙軍第3救難群、最新鋭の大型救難艦を有する部隊であり、偶然にも第34中継ワープステーションの付近にて演習に参加するために航行中だったことが幸いし、急行することができた。
そして、現場では、管制室以上に混乱していた。
「司令!不明艦隊の砲塔がこちらを向いています!」
「通信への応答はありません、相手が受信できているかも不明です!」
「撃たれたら終わりだぞこんな小さな船・・・」
第10警備隊司令は報告を聞きながら頭の中で自分を相手の指揮官に置き換えて情報を整理する。
そしてある結論に達し、すぐに指示を出す。
「全艦、砲塔を旋回、不明艦隊とは逆側にすべての砲を旋回させ、絶対に砲を不明艦隊へ向けないように注意しながらゆっくりと接近しろ、各艦艇と向かってきている友軍部隊にも同じようにするよう通達、何なら何人かに艦外に出させて手を振らせろ!敵意がないことを伝えるんだ!」
その指示を受けすぐに周辺に展開していたパトロール艇は指示通りに砲塔を旋回させる。そして、応援に駆け付けた艦隊も通達に従い同じように旋回させ、注意深く正体不明艦隊を監察する。
正体不明艦隊・・・コーネリアの艦隊も地球軍と同様に、いや、それ以上に混乱していた。
緊急時であったため、ワープ航路の計算をせずに長距離ワープをしてしまったのである。不幸中の幸いなのは、データリンクによってすべての艦、輸送船が同じ宙域にワープできたことであった。
だが、その幸運も、彼らの心の支柱であった旗艦、プリンセス・コーネリアの惨状と、自分たちの目の前にいる所属不明勢力を前にしては意味をなさない。
ワープ直前に直撃弾を受けた旗艦、プリンセス・コーネリアは、どうにかワープすることはできたものの、ワープの負荷に耐えられずに大破し、もはや爆発も時間の問題であった。
その艦橋で、コーネリア公国公女のフィルは目を覚ました。
「う・・・ここは・・・」
よろよろと立ち上がった彼女は、浮遊感に襲われる。立った際に反動で体が浮いたのである。
そしてその状況に彼女の頭脳はすぐに覚醒し、状況を理解する。
「重力制御が切れてる!?」
覚醒し、それを自覚した彼女は周囲を急いで見回す。
幸いにも空気漏れなどは見られないことを確認し、再度よく室内を見回す。
そして艦橋内の惨状が彼女の目に映る。
オペレーター達は誰一人として動く者はなく、皆血だらけで浮遊していた。
視線をずらすと、そこには操舵手が操縦桿に足が引っ掛かった状態で浮き上がっており、首があらぬ方向を向きこと切れている。
艦長の姿がないのに気づくのにそれほど時間はかからなかったが、気づいてすぐに背中に違和感を覚える。
振り向くと艦長が、覆いかぶさるような姿勢で背中に何かの部品が突き刺さった状態でいるのを見つける。
「ドーム艦長!?」
思わず叫ぶと、腹部に痛みが走るが、それでもフィルは艦長に声をかけ続ける。
数回、いやもっとか、声をかけ続けると、反応があった。
「う・・・でん・・・か、ご無事で・・・」
顔を苦痛におゆがませながら苦しそうに言葉を発する艦長に、フィルは泣きそうになるのを堪えながら返答する。
「うん、無事、艦長のおかげ・・・ありがとう」
「も・・・たいなき・・・おことば・・・ぐぅっ」
再び艦長の顔が苦痛にゆがむ。
フィルが思わずドーム艦長に手を伸ばそうとするが彼はそれを制し、艦橋の窓を指さす。
つられてそちらに視線を向けると、見たこともない艦艇が近づいてくる姿と、近くにいる味方がそちらに砲を向ける姿が見えた。
「え・・・」
一瞬理解が遅れた彼女に、ドーム艦長が、絞り出すように話しかける。
「で・・・んか、よく見て・・・ください、砲塔を・・・あちらに敵意は・・・ない」
「あ・・・だ、だめ」
何かに気が付いた彼女は、近くに浮遊していた残骸を蹴って通信機のところへ向かう。
そして、味方に通信がつながることを願いながら、スイッチを入れ必死に言葉を発する。
コーネリア艦隊の宇宙巡洋艦サーラ 臨時に艦隊の指揮を引き継いだこの艦は、すぐに、自艦隊に向かってくる正体不明の艦艇に気が付き、大破漂流するプリンセス・コーネリアと輸送船団を守るたに、その艦艇へ砲を向け臨戦態勢を取る。
半ば混乱状態にあり、冷静さを失っていたこの艦の艦長は、その向かってきている艦艇が、砲を自分たちからそらすようにしているところまで気が付いていなかった。
そして、これ以上近づいてきたら撃とう、そう彼が決意したとき、突如通信が入る。
≪撃っては・・・ダメ・・・おねが・・・こえ・・・向こうに敵意・・・ない・・・おねが・・・ザザ・・ブッ≫
「殿下!?御無事で・・・敵意・・・あ、こ、攻撃中止!全艦救助に!殿下が生きておられる!は、早く!」
すぐに命令に従い戦闘態勢が解除される。
だが、問題は、大破した艦艇の乗員を救助するすべがコーネリア艦隊には無いということであった。
接近に成功した第10警備隊のパトロール艇P339の艇長兼パトロール隊指揮官は、大破しているコーネリアの艦艇を見て絶句した。
「ようやく敵意がないと伝わったか・・・・・ただ・・・こりゃあ、救難艦じゃないと無理だ・・・いや、救難艦でもやばいんじゃ・・・全艇、救助活動に入る、できることを使用、P340とP341号はあの大破してる大型艦の消化活動を!生存者がいるかもしれん!救難艦が来るまで爆発だけはさせないように持たせろ!残りはどうにかできそうな艦艇の救助だ」
指示を出し、息をつく、そして冷静に正体不明の艦隊を監察した司令官はこわばった表情でつぶやく。
「一体、こいつらに何があったっていうんだ・・・?」
地球連邦に取って、激動の時代が幕を開ける。