第10話 動き出す連邦
挿絵はyocky6109さんに提供していただきました。イラストの著作権もyocky6109さんに帰属してます。
第10話 動き出す連邦
地球標準時間西暦2280年 8月15日 地球連邦首都 ニューヨーク かつて国際連合本部として、国際会議の議場であったその跡地に建設された地球連邦議会議事堂にてこの日、とある決議が採択された。
あの、第219深宇宙探査船団と同、第219空間護衛隊がエベロラ帝国を名乗る武装勢力と遭遇し第219空間護衛隊が壊滅、519名の兵士の命が失われた事件から約2か月、この2か月もの間、議会では様々な議論が行われ、論戦がなされた結果、この日を迎えることとなる。
議場に、連邦議会議長の声が響く。
『全会一致により、地球連邦憲法第9条第4項の修正第1章に定めた権限により、大統領府から発議された全連邦領域への準有事警戒令及び、連邦全軍への議会権限による承認権を大統領府へ、憲法に定められた範囲の期間において委任することを承認する‼』
その宣言を受けた大統領は、議会に向け深く一礼する。
そして、その後いくつかの関係する法案や権限の確認、いくつかの質疑が議会にて行われ、そのまま夜20時になって議会が閉会後も大統領は休むことなく、閣僚らと共に大統領官邸に戻りすぐに国防委員会による国家安全保障会議を開催した。
そこで決められたのは以下の事項である。
・危険性を考慮し第38中継ワープステーションの放棄、撤退、ステーションの爆破処理
・第37中継ワープステーションを起点としての警戒網の強化、同ワープステーションへの増援の派遣
・第36中継ワープステーションを第8居住惑星管区の最終防衛ラインと定め、増援の派遣
・第8居住惑星管区防衛準備、不測の事態に備え、住民避難の可能性を踏まえての輸送艦隊及び陸戦部隊の派遣
・独立機動艦群の編成と第8居住惑星管区への派遣
・有事に備えて記念艦を含むモスポール保管状態の旧式宇宙艦艇群のすべて、総数3200隻(小型艇も含む)の現役復帰及び近代化改修の準備、併せて、閉鎖状態の造船所、造船ドックの再稼働準備(あくまで準備であり念のための措置)
・新規建造計画の前倒しと従来艦の増産
・予備役将兵の招集準備
・地球連邦の各居住惑星管区へ警戒体制を指示
・派遣部隊の編制と避難計画の策定は連邦軍統合軍作戦本部に委任、ただし、責任においては大統領府に付す。
・住民避難時の疎開先を策定するため、委員会を設置、1か月以内を目標に策定を行う
これらの内容は北米の地球連邦統合軍最高司令部 通称【EFSCOM】(エフスコム)所在地は旧ノーフォーク海軍基地とノーフォーク市の跡地全域、(30年前のとある事件により壊滅しクレーターとなっており、軍事基地として再建、最高司令部が移設された地球最大の軍事基地となっている)へ通達され、作戦司令部は部隊の編成を開始した。
同年 8月20日 地球連邦統合軍最高司令部【EFSCOM】(エフスコム)作戦司令部会議室にて、大統領府の国防委員会と映像通信をつなぎながらの増援部隊の説明が行われていた。
統合軍司令長官ジャック・ラングレー上級大将(階級章6ツ星)議長役兼進行
宇宙軍司令長官ピーター・ランハルト上級大将(階級章5ツ星)
海兵隊総司令クロウ・スルー上級大将(階級章5ツ星)
陸軍参謀総長テオドール・ラインバッハ上級大将(階級章5ツ星)
海軍司令長官マサキ・ウエムラ上級大将(階級章5ツ星)
空軍司令長官ロイド・フォン・ルーデル上級大将 (階級章5ツ星)
統合軍後方支援総群司令サクラ・ランスター大将(階級章4ツ星)
統合軍作戦本部参謀長ジン・スコルフスキー大将(階級章4ツ星)
統合軍造艦設計部長ランス・オルフェン中将(階級章3ツ星)
統合軍通信情報局長リー・ラオフェン中将(階級章3ツ星)
その他、10名ほどの佐官クラスの副官、参謀らが各将官の傍らに控え、集まった将官は円卓に着席し、目の前のディスプレイに視線を向けている。
映像通信にてつながる大統領府側の大統領以下、最高司令部にいる者を除く国防委員会メンバーらにもディスプレイの映像は共有されており、その映像をそぞれ確認しながら増援部隊の編成について説明を聞き、適宜修正を入れていた。
進行を行うのは統合軍司令長官であるジャック・ラングレー上級大将である。
年齢は61歳、統合軍士官学校及び上級士官学校を次席で卒業、駆逐艦の砲雷長、副長から巡洋艦艦長、警備隊指揮官、救難群司令、管区防衛艦隊司令から主力航宙艦隊司令、独立機動艦隊司令、管区防衛軍司令を歴任し、実戦経験も豊富な老将である。
その老将の進行にて会議は進む。
「では、まずは派遣部隊について、各軍から報告を」
促され時計回りに宇宙軍司令長官ランハルト上級大将から席から立ち上がり部隊規模について説明していく。
「宇宙軍では、住民避難、及び増援の陸戦部隊などの派遣を考慮し、陸、海、空、海兵隊と協議した結果、第8居住惑星管区に第1、第2、第4輸送艦隊の計3個輸送艦隊と不測の事態に備え、第7居住惑星管区にも第5輸送艦隊を派遣いたします。
また、その他の増援部隊に関しては、独立機動艦群を編成、基幹戦力としましては、第3独立機動艦隊を基幹戦力とし、その指揮下に第4、第5、第6航宙艦隊及び第1から第4警備艦隊並びに第11から第15護衛隊を編成に加えた部隊の派遣を計画しております。また、第8居住惑星管区にて保護されているコーネリア公国の公女殿下につきましては、地球本国へ来訪していただくとのことで、派遣する機動艦群とは別に第7航宙艦隊を公女殿下の地球までの移送の護衛のため派遣いたします」
ランハルト上級大将が着席すると、次に海兵隊のスルー上級大将が立ち上がる。
海兵隊仕込みの細身の筋肉と端正な顔立ちの将官である。
「海兵隊では、第8居住惑星管区に展開している海兵隊の部隊1万6千名の部隊への増援として、海兵隊保有の揚陸艦4隻を宇宙軍の輸送艦隊へ合流させたうえで、1個旅団約4千名を増援として派遣する予定です」
次に陸軍のラインバッハ上級大将である。
ランハルト上級大将とは対照的に、恰幅のよい、おおらかな印象を与える将軍であるが、その眼光は鋭く、彼もまた歴戦の将軍である。
「陸軍では、第8居住惑星管区の住民の避難となった場合の誘導支援と、管区防衛のための兵力として、宇宙軍輸送艦隊の協力のもと、第8居住惑星管区へ3万6千の兵力を第8居住惑星管区へ、予備兵力として1万2千を第7居住惑星管区へ派遣する。その他に不測の事態に備え、地球本国軍のうち10万人規模の部隊を即時動員可能状態に維持し即応体制を取る、以上だ」
その後も各軍の長官が報告をし、つづいて質疑に入る。
最初に質問を発したのは国防大臣のアレス・フォン・ルーデル大臣だった。
「派遣部隊の規模については分かったのだが、避難計画の策定についてはどうなっているのか、また、防衛部隊の戦力、陸戦部隊の航空戦力についても再度確認したい」
その質問に答えたのは後方支援総群のランスター大将である。
米国と日本系のハーフで、美しい黒髪をなびかせ立ち上がるその姿と、その引き締まった肉体からは年齢を感じさせない女性の将軍である。
「まずは私の方からお答えいたしますわ。避難計画について、後方支援総群の補給計画部及び、輸送計画部、災害緊急対策局と現地、つまり、第7、第8居住惑星管区ですが、”それ”が起きてから避難を開始した場合は大混乱の発生が予想されており、全住民の避難については、最悪は地上戦を行いながらの避難となると予想されています。計画としては、まずは宇宙港に近いところの住民から順次避難、避難誘導の部隊はブロックごとに集中して展開し、徹底して避難の効率化を図ります。ただし、暴動などの事態も予想されており、最悪の想定では住民の約20%が犠牲となる予想です。これを0にするためには、事態が発生する前に避難を開始することが望ましいですが、住民の理解が得られないと現地担当者との協議の結果その結論に至り、極めて難しいと思われますわ」
その次に立ち上がったのはラインバッハ上級大将である。
「現地の陸戦部隊の航空兵力は、作戦機、戦闘爆撃機300、無人戦闘機148、VTOL機の攻撃機仕様、輸送機仕様それぞれ72、宇宙軍の宇宙、地上両用の戦闘機は艦艇搭載機を除いて300となりますが、増援部隊にも航空戦力は含まれており、それを合わせますと、戦闘爆撃機372機、無人戦闘機280機、VTOL機はそれぞれ108機となります。空軍長官、説明を私がしてしまったのは謝罪しますのでこちらを睨まないでください」
「睨んではいない」
説明に満足したルーデル国防大臣は満足げに頷き、着席するが空軍の話と思って立ち上がろうとした空軍長官の方のルーデル上級大将、ガタイが良い肉体と犯罪者のような風貌の顔面凶器と呼ばれている将軍はその顔面でしかめっ面を作り不満げである。
ただ、本人には睨んだ自覚はなく、そこは否定する。
傍らに立つ副官はその顔を見て顔を青くしているが、将軍本人は副官のその反応には慣れているのか気にしていない。
次に質問をしたのはハーリング大統領である。
「派遣部隊については分かった。独立機動艦群の基幹戦力となる第3独立機動艦隊についてだが、戦闘力について再確認したい」
ランハルト上級大将が説明する。
「第3独立機動は我が連邦軍に3個しか存在しない最精鋭艦隊の一つであります。第2独立機動艦隊は定期整備のためドック入りしており、第1は旗艦が地球連邦宇宙軍総旗艦としての役割も持つため遠征は難しいため、第3独立機動艦隊の派遣となりました。艦隊旗艦は三笠級航宙戦闘母艦の3番艦信濃となります。また独立機動艦隊は総数120隻で構成されており、その所属艦はすべて最新鋭艦で編成されております。この三笠級はその中でも別格で簡単に言いますと、地球連邦宇宙軍最強クラスの戦闘艦がこの三笠級航宙戦闘母艦になります」
大統領は頷き、着席する。
その後もいくつかの質疑を経て、大統領による最終決定の書類へのサインをもって派遣部隊は正式に決定された。
――
場所は変わり、かつてコーネリア公国と呼ばれた惑星に築かれた巨大な要塞の一室にて、その要塞の主が何者かと通信を行っていた。
≪クロリア提督、君の配下の部隊が遭遇し取り逃がした所属不明艦隊のことについて何か分かったかね?≫
通信の相手は穏やかな口調で問う
その言葉に、青みがかった特徴的な肌を持つ妙齢の女性、クロリアと呼ばれた女性は冷静な口調で返答する。
その声色は感情をうかがうことができないほど極めて事務的である。
「収集した残骸からデータをいくつか手に入れることができた。だが、極めて限定的なもので、母星までは絞れていない。分かったのへここから比較的近い位置の連中の植民惑星くらいだ。現在征服のため準備中だ」
その返答に通信相手は満足そうに、「それは良かった」と返答する。
≪ああ、それとコーネリア星のあの鉱石、同種のものがその遭遇したところの惑星にもあったとのことでしたね、あの鉱石は使いようによっては我が帝国の腑抜けた皇帝派への切り札になりえる、エネルギー源としても大変有用ですので、より多く集める必要があります。似たようなのでも構いませんが、探査の方、頼みましたよ≫
最後の方は背筋が凍るような冷たい声であったが、この女性提督は意にも介していないようであった。
「分かっております。宰相閣下」
そして通信が切れると女性提督はため息をつく。
「俗物めが・・・いや、あれにいいようにされている我が32軍も同類か・・・仕方がない、これも仕事よ、わがクロリア艦隊、ノルド艦隊、ムノ艦隊の32軍全軍を招集せよ!半月後に軍議を行う!」
そう副官らに指示を出し女性は踵を返すとその部屋を後にする。
――
第8居住惑星管区の医療施設
そこに入院中の公女フィルはリハビリも順調にこなし、医療施設の外まで連邦軍の護衛を伴ってではあるが許可されるまでに回復していた。
そして医療施設のすぐそばの公園にてフィル公女は出店を見つけ、その出店を興味深そうに凝視していた。
「・・・あれは、何?」
そう聞かれた護衛の一人は困惑するばかりで答えられず、もう一人の護衛の軍人が答える。
「あれはたこ焼きというものです殿下、しかも揚げタコ焼き、地球にいるタコという生物を調理したもので、地球の料理のジャンルである粉ものというジャンルの中で一番おいしいものです」
どこか得意げに話すその護衛の言葉に別の護衛が反応する。
「いや、一番はお好み焼きやろが」
「は?」
「あ?」
その二人の護衛のやり取りを見ていたフィル公女は、幼い日の兄とのじゃれあいを少し想いだし、目を細め、少しだけ口角が上がる。
感情を表に出すのが苦手なフィル公女のみせたこの微笑みは、それを見た若い護衛兵には十分な破壊力であった。
ただ、たこ焼きは現金を持っている者がいなかったため購入はできず、フィル公女は、表情では出ていないが雰囲気でむくれているのが分かるほどには残念がっていた。
そんなフィル公女に地球への移送が伝えられるのは翌日のことであった。
ーーーー
数日後
地球連邦宇宙軍月面基地
独立機動艦群の基幹戦力である第3独立機動艦隊が、他の独立機動艦群に編成される艦隊との集結のため出港しようとしていた。
「全艦出港用意!システムオールグリーン!補助エンジン始動・・・メインエンジン接続準備、補助エンジン点火、微速前進0.5、メインエンジン回転率20.・30・50%エンジン点火!シナノ出港します!」
巨大な艦影が持ち上がり月面基地のゲートから次々と出てくる戦闘艦艇、その戦闘艦艇群の戦闘に立つ艦隊旗艦シナノの艦橋にて、艦隊司令である歴戦の勇者を想起する気迫を纏った白髪の将軍が、艦隊のすべての艦が出港したことの報告を受けてマイクを手に取る。
≪全艦に達する。これよりわが艦隊は友軍艦隊と合流し独立機動艦群を編成、危機が迫っている第8居住惑星管区防衛の任につく、既に我々の同胞たる第219空間護衛隊が、519名という決して少なくない犠牲を出し壊滅した事実がある。諸君、地球連邦軍人の使命は連邦市民を守ることにある。そして219空間護衛隊はそれを全うし、この宇宙に散った。私は諸君らに敢えていう、219空間護衛隊の勇者そして、それ以前に連邦市民を守るその使命に殉じた先人たちに恥じない働きを期待して訓示とする。総員連邦軍人としての研鑽はこのため時のためにあったと心し、ことにあたってもらいたい・・・以上だ≫
その訓示にこたえるように、艦隊は一糸乱れぬ動きで隊列を組み、使命を果たすべく第8居住惑星管区へ向かうのだった。
三笠級航宙戦闘母艦
全長510m
全幅75m
艦載機36機+予備機
武装 61cm連装衝撃砲4 31cm連装衝撃砲4 両舷部31cm超電磁砲2 ミサイル発射管32セル 対空レーザー4 40mm対空機関砲16 艦首格納式超高出力荷電粒子砲
今月の投稿と第1章はこれにて最後になります。ちなみに艦主砲は本当はメガ粒子砲と当初予定してましたが、アレはガ〇ダムの設定だけみたいなので著作権とか引っ掛かるのも嫌なので、設定名称変更しました。




