第十八話 標的とグレーな仲間
こちらからの用件は終わった。虚様暗殺を目論んだのはリディア団。最初の三人の襲撃犯がそのリディア団という事だ。その名に全く聞き覚えはない、けれど名前さえわかってしまえばこっちのもんだ。魔警の情報網なら引っかかるだろう。それこそ元裏の世界のボスのギャラルさんにでも聞けば一発で分かるかもしれない。
その前に、僕たちはアルさんの質問に答えなければならないのだけど。
「次はそっちの番?」
「そうだな。さて、『雷刀雪』があの行進祭の中割って入った異分子について何か知っていることを話してもらおうか。ちなみに何も知らないと言われたのなら…。」
「い、生きては帰さない…なんて言いませんよね。」
「いや?知らないのなら別の事を聞くまでだ。『ドゥタラ家』が常に求めているのは情報、その次に金だと思ってもらいたい。」
「情報…何か探っていることがあるのか?」
「…そこまで話す義理を、まだ私たちは持ってないはずだ。さぁ、教えてくれ。あの異分子について。」
「そうだね…。とは言え、こっちも多く情報を持っているわけではないんだ。刀を使っていて、魔警№1のレイさんの剣技すら余裕で避けていた。使う能力は炎と多分転移系の力。その転移能力で僕はアルさんの妹の…ジルファルクさんをどこかに飛ばしたんだと思っている。」
「なるほど…。私は行進祭での映像を見ていただけだから、どういった仕組みでジルファルクが消えたのかと思っていたが間近で見たものがそういうならそうかもしれないな。」
「転移系に関しては憶測だけどね。」
「いや、私としてもその憶測はあっていると思っている。ジルファルクとは連絡はつかないが常についている位置情報発信機は今でも反応している。…ここと真反対の場所にいるみたいだ。」
「ま、真反対!?そんな遠方まで…しかもあの誘拐犯は触れずに能力を使ったんですよね?」
「あぁ…その情報で一つ確信に至った。」
「ふむ、その確信は私の思う事と同じ可能性があるな。」
「…あの炎使いは、『最初の魔法使い』なのではないか。ですね?」
「そうだな。私もそう思う。」
第一、炎を使うと言うだけで十分に有力なのだ。伝承や伝説では『最初の魔法使い』は炎の能力を主体に使い、そのほかにも様々な失われた能力を使うと言われている。その中の一つに『瞬間移動』があったような…なかったような。
しかも触れずに能力を自分以外の対象に使った。その事実自体驚きなのだ。能力と言うのは例外もあるがほぼすべての身体干渉系の力が他人に触れず使うことができない。一度触れる必要がある。離れたところから傷を癒すことはできないし、持ち上げたりすることもできない。そんな世界の常識をあの男は無視していた。
「そんな…大昔の人ですよね?まだ生きてるなんて…。」
「座敷童殿、そうとも限らないぞ。」
「座敷童って…私はマゴです。」
「孫?」
「…なんでかわからないですけどカタカナにしてもらいたいです。」
「あぁ、マゴか。それでマゴ殿。私は世界各地を依頼で回っているが、不老不死に近い者を一人知っている。」
「ふ、不老不死!?呪われた能力って言われてますよね…それ。」
「いや、完全な『不老不死』の能力ではない。お主ら『WAR』を知っておるか?」
「それはもちろん、日本じゃ世界能力者順位って言われてますけど…。」
「うむ。その六位の者の名は?」
「知らないです…。リーダー知ってますか?」
「僕もだ。」
『WAR』。それは世界を股に掛ける能力者専門の情報屋、「梟」が出している世界中の能力者の純粋な実力によって分けられている順位の事。ただしその情報は100%正しいという訳でもないし、第一未確認の能力者だっているだろう。さらにはその「梟」と言うのがどこの誰かすらもわからないのだ。正直それを見る者達は一時の娯楽くらいにしか考えてはいない。ただ一つ、それでも共有されるルールがあった。「そのランキングに乗るものに、喧嘩を売るな」。何故かそれだけは頭にこびりつくように、常識のように入っている。魔警備員としては、ランキングだろうが何だろうが、悪は倒すだけなのだけども。
「…グラン・デスカーナ。でしょ。」
「そうだ。ライ殿、よく知っているな。」
「私強い人には興味があって。だから『最初の魔法使い』ってのも…興味がある。」
「ライはすぐ喧嘩売るから止めるのが大変なんだよ。」
「私も『WAR』に入りたいんだもん!」
「はは、ライ殿ならいずれ入るかもしれないな。そう、そのグラン・デスカーナは能力が世界にはびこり出した時代から生きていると言っていたから、不老不死はそこまで問題じゃないんだ。…だから私は、いや『ドゥタラ家』は『最初の魔法使い』がまたこの世界に現れたことをほとんど確定だと思っている。」
あまり詮索はしたくないんだけど…どうしても気になってしまうので聞いてみた。
「さっきの『ドゥタラ家』が探っているのは、『最初の魔法使い』に関してなのかい?」
「…『最初の魔法使い』の居場所情報を教えてくれたら言ってもいいが、流石に知らないだろう?」
居場所…居場所ね。一つ行きそうな場所なら目星がついている。
「いや、わかるかもしれない。」
僕が自信なさげにそういうと、思ったよりアルさんは食いついてきた。机一つ越しだったが顔を前のめりにこちらに近づけてきた。
「ほ、本当か!?」
「…近いです。」
「おっと…失礼。」
アルさんは顔を赤らめながらもとの場所に座り髪を整えだした。世界一の何でも屋って言っても案外女性らしいとこもあるんだな…。
「それで、その場所は?」
「その前にこちらも一つ聞きたい。」
「私達の目的か?あまりメリットはないように思えるが…。」
「いや、それじゃない。もう一つ聞きたいことがあったのを今思い出してね。簡単なことだ。アルさん、さっき言ったリディア団で、襲撃した三人が魔監獄、ニルヘルムに投獄されていたんだが昨日の朝何者かに殺されたらしいんだ。それは…あなたの仕業ですか?」
「昨日の朝…?いや、私はその件には関係ない。わざわざ名も知られていない団の一味を口封じしたのか?それはなんというか…奇妙だな。まぁそれは良い。ほら言え、『最初の魔法使い』の居場所。」
「居場所って言うか…行くかもしれない場所ですよ。」
「それでもいい。私達『ドゥタラ家』は『最初の魔法使い』にどうしても会わねばならんのだ。」
アルさんの目は何か焦りのようなものを感じさせてきた。果たして『ドゥタラ家』と『最初の魔法使い』に何の関係があるのか。僕たちに知る術はない。
「『最初の魔法使い』と虚様は親友だと思います。」
「虚の…?なんとそんなことが…。いや確かにあの神もどき、いつからいるかわからないとか姉が言っていたような…。」
ぶつぶつとアルさんは考え込みだしてしまった。僕たちはその様子を見て、少し待つことにした。
「メクル、さっきアルが殺したのか確認したのは…。」
「…バレルだと僕は思っているからね。」
「というか、そうであってほしい。私は。今なら倒せる。」
「そうだな。今度こそ三人で…。」
「いやいや、私もいますよ!」
「そうだった。今さらだがマゴ。僕たちの問題に巻き込んでしまってすまない。」
「何言ってるんですか、私を仲間外れにしないでください。」
昨日ライと話していたように、マゴが同じことを言うものだから僕とライは目を合わせて笑ってしまった。
「おっとすまない。私としたことが考え込んでしまっていた。助かった、ここまで情報が出てくるとは思いもしなかったからな。だがこれで、次の私のやることは決まった。すぐに姉に伝えなければ。」
「…虚様誘拐しませんよね。」
「何を言う。『ドゥタラ家』は依頼以外で悪事は働かないと決まっているのだ。」
「依頼ならやるんですね…。」
元来何でも屋って言うもの自体グレーだしな。次会う時は味方か敵か。正直勝てる気はしていない。
ただとりあえず、当分は味方でいるようだ。
「よし、それじゃ魔警に帰るぞ。」
「…え?アルさんも?」
「私にとって『雷刀雪』と一緒に行動するのは一石二鳥だからな。虚に近づけるし、リディア団の口封じも兼ねられる。良いか?いや拒否権はないが。」
「…これは力強い味方ができたという解釈でいいのだろうか。」
「俺は歓迎だ。アルの刀には興味がある。」
「おお、良いな。私も戦ってみたい。」
「お、お金取ります?取りませんよね?!」
「わーい強い人だ!」
うちは戦闘狂が多くて困ったもんだ…。
ーーー
僕たちはあの地下から出て、魔警本部の僕たちの部屋へと帰ってきた。果たして多分殺人もやっているであろうこの人を魔警に入れていいのだろうか…。
ちなみにケルトはレイさんの所へアルさんように刀をもらいに行った。流石にあの血で錆びついた刀を普段使いされては困る。一時的とはいえ僕たちの仲間ではあるのだ。評判も気にしたい。
ライはおやつ、マゴはなんか着替えたいだと。確かにあの地下はあまりいい匂いとは言えなかったからな。この場合おかしいのはライ。おかしだけに。
……という事で今この部屋には僕とアルさんしかいない。アルさんは部屋に案内するや否やソファに座りくつろぎだした。
「うーん…お主ら良い部屋にいるな。私はここで寝てもいいか?」
「良いですけど…僕たちは自分の家帰りますよ。」
「なら独り占めだな。何心配するな、荒らしはせん。」
「そこは心配してませんけど…と言うよりここ一応魔警本部なのによくくつろげますね。」
「犯罪者ではあるが罪悪感など産道に捨てた。私は『ドゥタラ家』だぞ。その重みをお主はわかってないな?」
「そりゃまぁ…アルさんが強いのはわかりますけど。なんの能力なんですか?」
「言うか馬鹿者。能力を明かすことは弱点をさらすことと同義だぞ。」
「それだと僕たち弱点晒しまくってません?」
天下の『雷刀雪』の能力に関してはとっくに国中に知れ渡っている。有名故の弱点という訳だ。
「私からみたら大馬鹿者だ。それに…もし私を捕まえても姉のミリニアムが魔警を半壊させてでも助けに来るぞ。」
「そんなに強いんですか?『ドゥタラ家』の長女って。」
「それはな、『WAR』2位はミリニアムだぞ。」
「…は?」
「ま、想像もできないかもしれないがな。おい、何か飲み物ないのか。久しぶりに美味しい水が飲みたい。」
「…ちなみになんですけど魔警の中で誰かランキング入りの人っているんですか?」
「いないはずだ。」
「…お水ですね。お待ちください。」
「はっはっは、正直な奴だが、普通に接してくれ。今は仲間なんだからな。」
僕たちはとんでもない人を仲間に迎え入れてしまったのかもしれない。いや前向きに行こう。この人がいればどんな壁でもぶち破れる。というかそう思うしかない。




