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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第二章 再来の魔法使い
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第十七話 目標と標的 『♠』


「ここが、指定された場所なのかい?」

「はい、先ほどメールで送られてきました。…私、こんなところが蒼魔崎町にあるなって知らなかったです。」

「それはそうだろう…。地下じゃないか、ここ。」


 現在、僕たちは魔警近くの地下にいた。汚らしく、この場所限りでは法なんてもの通用しないと言う雰囲気を感じる。『雷刀雪』をこの場所に呼んだのは、魔監獄長曰く最強の何でも屋『ドゥタラ家』。12時に待ち合わせで、1時間前に場所を伝えると言われメールが来たらすぐに魔警を出て今は11時20分。近場と言えば近場の場所だった。歩いてきてこれくらいの時間しかかからないのだ。逆を言えばそんな近くに無法地帯があること自体、魔警備員としては情けないかぎりなのだが。


「今日会うのは『ドゥタラ家』の三姉妹の中の次女なんだっけ?」

「はい。長女は忙しく、三女とは連絡が付かないらしくて…。」

「三女はあの炎使いが消し飛ばしたからな…。」


 とは言え本当にあれ殺したのだろうか?見た感じでは一瞬で姿がなくなっただけな気がする。もしかしたら転移系の能力を使ったのではないかと僕は推理している。当たり前のように能力を二つ使っているが、この世界ではその事実はかなり希少だ。まぁ、僕自身もその希少の中の一人だから何も言う事はないのだけど。


「にしても…あまりいい場所ではないな。」

「ですね…。私もう帰りたいです。怖いです。」

「あー今日学校の方休まなきゃよかったなぁ…。まさかこんな場所なんて…。」

「ぐちぐちいうんじゃない。もとはと言えばお前が今回の約束を取り付けたんだろうが。なんなら真ん前歩け。」

「えー、リーダーが戦闘でしょ。」

「うちのチームじゃお前が一番強いだろ!」

「…えへ。」

「ったく…。」

「二人とも、大人しくしろ。あまり歓迎されていないんだから。」


 僕たちは怪しむ視線の中、前へと進む。外から来たものを歓迎するような奴らがいるとは思っていないし、僕たちだって割と有名人だ。どういう連中かはあちら方もわかっているだろう。証拠に、僕たちを見る目は、怯えや恐れの目が多い。自分のしでかしたことを後ろめたく思っている証拠だな。この場所、用事が済み次第魔警本部に報告しようか。いや、やめておこう。ここが家の者だっているはずだ。今回ばかりは見逃してやろうと、そう思ったが自ら視線に入ってくるバカもいたようだ。


「おいおい、兄ちゃんたち。あんたら『雷刀雪』だろ?こんな場所になんか用かよ。」

「ふへへ…『雷刀雪』っつったら魔警でも天下とか言われてるくらいのチームだろ?金目の物も…それに上等な女もいるじゃねぇかよ。これを無視するような俺らじゃ…

「…口数の多いやつらだ。」


 僕の隣にいたケルトが、一瞬にして彼らの後ろに移動していた。


「…あ?」

「もう切った。さっさとどっか行け。」

「何言って…。」


 ケルトが刀を収めると、次の瞬間彼らの上半身の衣服にバツの切り跡が残る。衣服にだけつけたのは、いつでもお前らなんか切り刻めるんだぞと言う意思表示。


「なっ…」

「去れ、二度はないぞ。俺ら魔警、遊びで人は傷つけない。」

「はん…これがなんだってんだ…よ!!!」


 出てきた中でも一番大柄な男は手に持った酒瓶で性懲りもなくケルトを攻撃しようとした。さっきのケルトの話聞いてなかったのかな?


「ふん…命知らずめ。」


 ケルトは軽々とその酒瓶をよけ、刀に手を…置くよりも早く、命知らずな奴らは切り刻まれて倒れこみだした。流石のケルトでも刀を握らずに人は切れないはずなんだけど…。僕の相棒はいつの間にそんなに成長したのかと喜ばしく思ったが、どうやら違ったようだった。


「すまない。このような場所に呼んでしまって…。」

「…あなたが、アルセルダさん?」

「いかにも。私がドゥタラ・シェルムド・アルセルダだ。アルと呼んでくれ。」


 奥の方からケルトの持っている丁寧に手入れをされている刀とは違う、血に汚れ錆びついている、それでいてしまう鞘を持たない危険な刀を持つ女性が現れた。血に汚れていても、悪は切れるようだ。しかし、この人は悪だけを切ってきたとは限らないんだろう。


「11時29分…少々早いが、様子を見に来てよかった。客人を助けられたのならこちらとしては顔を立てられるきっかけとなるからな。それで…ライ殿とはどちらのお嬢さんだろうか。」

「あ、私。私です!アルさん。」

「そなたか。…あぁ、声が一致した。確かにあなた達の様だ。近くは我が三女が迷惑をかけたようだ。謝罪もこみで私は今回の場を設けたと思っている。さぁ、もう少し奥へ。こんな場所とは言え、私の好きな雰囲気を感じさせる場所があるのだ。…表の客人が、裏の雰囲気を好めるとは思っていないがな。」

「…僕たちは表の中でも、一番裏を見てきている人種だと思うよ。」

「ほう。それなら期待してもらいたい。」


 アルさんは怪しげな笑みで僕たちを奥へと連れた。この人が…『ドゥタラ家』の一人。先ほど明らかに刀の長さより長い距離にいたはずなのに、斬撃はさっきの輩に届いていた。どういう能力か…。僕は魔警に加入して一つ、能力について気づいたことがある。強い能力であればあるほど、シンプル且つ、仕組みがわからないということだ。

 そうして僕たちは歩かされること数十分。着いた場所は確かに雰囲気のある飲み屋だった。アルさんの好む雰囲気と言うのは…


「どうだ、中々趣のある場所だろう。」

「わぁ…確かに外では見ないタイプのお店ですね…。」


 怖がっていたマゴが一番に店に入るほどには、魅力を感じさせる場所だった。驚くことに、店内の床は畳を敷き詰められていたのである。客たちは靴を脱ぎ、ある者は胡坐で、ある者は寝そべって。各々酒を嗜んでいた。


「店の者、先ほど少し出て行った者だ。先ほどの場所はまだ残されているかね?」

「へいもちろん。あんな大金もらっちゃ他の金の匂いのしない客なんて通しませんて。」

「さぁお客方、靴を脱いで奥へ。」


 靴を脱ぎ、店の奥の方へを案内される。着いた部屋は個室で、確かに雰囲気があった。地下でわざわざこんな場所を作るなんて、とんでもないもの好きがいたものだな…。


「…私畳好きかも。」

「何を思ってそうなった。」

「なんかおばあちゃんちを思い出す!」

「こんな場所とそんな思い出を一緒にするな…。」

「流石『雷刀雪』と言うべきか、恐れ置いてないな。」

「『ドゥタラ家』の人でも『雷刀雪』を知ってるんですか?」

「うーむ…。多分私だけだとは思うぞ。長女のミリニアムはあまり魔警に興味が無いし、三女のジルファルクも今回の任務のために調べたくらいだろうから知ったのは最近なはずだ。」

「じゃどうしてアルさんは…。」

「それはもちろん、私が侍に憧れたからだ。ふふっ…日本の歴史を見た時、どうして私の生まれはここではないのかとミリニアムに駄々を捏ねたものだよ。」


 身なり的にそうなんじゃないかとは思った。だって完全に服装が和装。しかし動きやすいよう所々穴が開いていたり、破った形跡がある。憧れてはいるけど、自分を完全に埋める気はさらさらなさそうだった。


「さて、雑談もこのあたりにしよう。今日は何か聞きたいことがあるとの話。」

「それなんだが…本題の前に確認がしたい。」

「聞こう。私と同じ刀を歩むもの。」

「…どうして俺達に今日あってくれたんだ?話じゃ『ドゥタラ家』ってのは世界でも最強と名高い何でも屋と聞く。そんなやつが魔警の一つのチームにどうして時間を割いてくれたのか、知りたい。」

「信頼は当たり前の如くされていないようだな。理由は二つある。一つは三女、ジルファルクの任務失敗の件だ。私達『ドゥタラ家』は命と同等に、任務を完全に遂行することを大切にしている。そういう家柄なのだ。よって失敗したのなら、他の二人で痕跡を完全に消す。私たちが関与した痕跡をな。」

「…なるほど。僕たちに口止めをさせる気だね。」

「流石、名ばかりではないな。」


 こんな場所に呼びだされては、僕たちも手出しができない。ただ、もしこちらの盤上だとしても、勝てる気はしてない。彼女の強さは見たらわかる。それほどのレベルだ。


「か、代わりに任務を達成させる…みたいなことはしないんです…か?しないですよね!?」

「お嬢さん、安心してくれ。ジルファルクは三女とはいえ行進祭の中、虚という神もどき一人殺せぬような腕ではない。よって今回の事は魔警以外の異分子が邪魔をしたと考えた。それを基準に軽く詮索してみれば、その通りだったからな。」

「なんとも…言い返しずらいです…。」


 マゴが悲しそうにこちらを見てくる。まぁ完全に下に見られているな。こんな場所にのこのこ出てくるくらいだし、仕方もない。ただあまり舐められるのも癪に障る。けれどここは我慢だ。実際、僕はそのジルファルクさんに対し何もできなかったのだから…。


「それで、理由二つ目は?」

「先ほどの異分子の確認だ。どうもその情報は手に入らなかったから、魔警で、それも上の方にいる『雷刀雪』に聞けば何かわかると思ってな。」

「情報の交換って事ね…。メクル、あと任せたー。」

「…まぁ今回はお手柄と言おうか。」

「うい。」

「…噂では雷のライは力強く人々を助け、いずれ最強を志しているものと聞いていたが…噂は噂だな。」

「おいライ、言われてるぞ。」

「…間違ってはない!」

「はぁ…だから舐められるんだ。」


 実際、戦場でのライはそうかもしれない。遅刻はするし任務にほぼ参加しない彼女だが、それでも重要な戦いの場ではかっこいいと思わせるものを持っている。


「じゃあ…まずはこっちから聞いても良いかな。」

「良いぞ。さてなんだ?」

「ジルファルクさんに虚様を殺すよう依頼した者の正体を知らないかい?僕たちはその犯人を捜しているんだ。」

「…承知した。少し待たれよ。」


 アルさんはポケットからスマホを取り出し、何やらインターネットの中を探し出した。スマホケースにちょんまげの侍が二人、刀を合わせている様子が描かれていた。本当に好きなんだな…侍。


「…リディア団という組織の長から受けたと言っておる。」

「リディア団…?ケルト、知ってるか?」

「いや、知らないな。」

「ふむ…あまり有名な者達ではないのだな。ジルファルクは一週間前に電話で頼み、依頼金三百万で補助を受けたらしい。」

「補助?」

「あぁ。実際に手をかけるのはリディア団が。そのサポートをやってほしいとのことだった。失敗した時は第二の刃として頼むとも。中々良い心がけの者達だな。最初は人に頼らないとは…。」


 リディア団…。僕たちが期待していた名前とは違ったが、それでも任務は一歩前に進んだことに変わりはない。


「ありがとう。助かった。」

「もう良いのか?」

「あぁ。そのリディア団が主犯ってことは確定したから。な、マゴ。」

「はい。一週間前に三百万を銀行強盗した組織がいましたからね。そこの防犯カメラから洗い出せると思います。」

「優秀なようだな。当初は震えていたようだが。」

「うっ…も、もう慣れたんです!…にしても最強と言う割には随分と依頼料安いですね。私、もっと何千万とかとると思ってました。」

「まぁジルファルクに来る依頼は大体簡単なものだからな。私は二千万で人を殺めるところまで。長女は一億でありとあらゆることをやって見せる。本当のことを言うと、私たちが最強なんじゃなく、長女のミリニアムが最強と言った方が正しい。恥ずかしながら、私ではミリニアムの足元にも及ばないんだ。」

「そうなのか?俺の目からはアル、あんたは相当の刀の使い手だと思うが…。」

「魔警№2に言われるとは光栄だ。だがな、ミリニアムはそんなもんじゃない。彼女が能力を使っているところを、次女の私でも見たことがないんだ。」

「…はぁ、魔警の№2を誇っていた自分を叱りたい気分だ。」


 能力を使わずに…ありとあらゆることをこなす。僕もそれくらい強ければと思うが、今自分のできることを見失うほど、僕はもう弱くない。標的は定まった。まだその後ろに…銃を構えているやつがいる可能性だってあるのだから。

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