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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第八話 観光

 そういえば今さらチーム名を教えてもらったような気がする。対能力者チームの名前は『ノマド』というらしい。英語のできない俺にその意味はわからない。第一英語なのか?そして一つ驚いたことがあった。博士が女性だったのだ。

俺は自分が自己紹介していないことに気付く。


「あ、初めまして。斎月ユラです。」

「かしこまらなくていい、私の事は博士と呼んでくれ。全然ため口で構わない。でも、よかったよ。この先私とグラだけじゃ辛いものがあったからね。斎月君が来てくれて本当によかった。なぁグラ?」

「うん!博士はここから出たがらないからね…。基本私が飛び回ってたからね!」

「はは、そう怒るな。私の能力じゃ空は飛べないのだ。」

「まぁいいけど。じゃあ私ユラ君の部屋と…デートの荷物取ってくるからちょっと待ってて!」


そう言ってはしゃぎながらグラは部屋を出て行った。騒がしいやつだな本当に。でもグラと博士は馬が合いそうだ。相反するからこそ相性がいいことだってある。それくらい博士は落ち着いた女性だった。だが最初見て、思った。


「ん?あぁ…すまない。私は身なりを見にしないのでな。」

「いや、いいんだが…。まぁ確かに博士って名前はそういうイメージがあるかもしれない。」

「そうか?ふふっ、グラの言ってた通り面白い人だ。」


博士の服装はだらしなく、髪も寝ぐせまみれ。裸足でもある。色々と情報量の多い人だな…。だがその恰好がこの人を作っているような、そんな感じがした。取り繕わない人物は信用しやすい。しかもこんななりなのに何故か綺麗に見える。元の顔が良いからだろうか。


「斎月君は高校一年生だったか?」

「あぁ、そうだ。」

「ならグラとは同い年なんだな。仲良くしてやってくれ。あの子は…少しな。」


言い淀む博士に俺が質問しようとすると勢いよく後ろの扉が開いた。


「よーっし!ちょっとユラ君きて!部屋連れてくから!」

「引っ張るなよ!?痛い痛い!」

「いってらっしゃい。」


博士は「助かった」という顔をして俺を見送った。なぜだかその時走馬灯のように博士の苦労が見えた気がした。

引っ張られながらグラについていくと俺の部屋だと言って一室を紹介された。


「広いな。いいのか?こんないい部屋。」


連れてこられた部屋は俺の家の部屋の三倍はあった。この拠点、やっぱり地下がとんでもなく広い。まだ出会って間もないが、博士はこういう事をしそうだと思った。なんというか、子供心を忘れていないのだ、あの人は。


「いいよ!私もこれくらいの部屋なの。こういう部屋があと二つ空いてるし。テレビとか見ていいからね。さっきも言ったけど自分の家みたいに過ごして!真と冬矢君も連れてきていいから。博士も会いたかったみたい。ユラ君の友達。」

「そうか、じゃあ今度の長期連休にでも連れてくるかな…。」


いくつかの本棚、クローゼット。冷蔵庫やまさかのレコードプレーヤーまである。何よりバカでかいベット。これは素晴らしい。ベットソムリエとして10点は出したい。


「はいこれ。」

「なんだこれ…ぬいぐるみ?」

「うん。新メンバーとしてあげちゃう。」


貰ったぬいぐるみはモモンガだった。珍しいもん持ってんな…。


「そこの本棚の本は博士からのだよ。好きに読んでって。もっと読みたくなったら博士が貸してくれるってさ。博士本好きなの。」

「至れり尽くせりだな…。なんか申し訳なくなってきた。」

「ユラ君も私たちになんかくれてもいいんだよ!」

「ここまでされたら流石にな。」

「え、ちょ、冗談だよ?」


グラはそういうがこのままだと罪悪感がすごい。遠慮しまくってしまう。かと言って何を…と思って俺は一つ思い出した。


「そういえばデートとか言ってたな?」

「うん、ジェネシスシティについてよく知らないだろうなと思って。観光だね。」

「その時に何か買おうかな。」

「わーい!じゃ行こう!博士にちゃんと言ってこなきゃ。」


グラが俺の部屋から出ようとして立ち止まった。目的地がいたからだ。


「斎月君、この部屋で大丈夫かい?」

「もう何も言えませんよ…。最高すぎます。特にベット。」

「だろう?私が作ったのだよ。」

「なっ!?」


神はいた。


「今からおでかけかい?」

「うん、博士なんかいる?」

「本を買ってきてほしい。はい、お小遣い。おつりは自由に使っていいから。」


そう言って博士がグラに渡したのはクレジットカードだった。とんでもないおつりをもらってしまった。


「博士の持ってない本なんてこの世に存在しないでしょ。ユラ君、博士の本買ってきてっていうのは楽しんできての意味だよ。」

「俺は今博士の心が広すぎて今感動してるよ…。」

「はっはっは、私、斎月君好きかも。面白い。」」

「だめだよ博士。ユラ君はもう予約済み。」

「なんだ、残念。」

「俺の意思は何処へ…」


そうして俺とグラは外出、グラ曰くデートへ向かった。男女二人で出かけることをデートというのかもしれないが、なんか正直ある程度の仲の二人で出かけてればデート判定な気がする。最近の俺の考えだ。


「最初は服見に行こうかな。ユラ君も何着か欲しいでしょ。」

「そうだな。あんまりこっちに滞在する気はなかったが、あの環境はちょっと素晴らしすぎる。」

「じゃあ私のいつも行ってるお店へレッツゴー!」


グラに連れられた店は男女どちらの服もある店だった。そういえばもうあの着苦しい制服を着なくて済むのかと思うと少しうれしい。でもやっぱまだ喪失感のようなものがある。学校をやめた事をすんなり受けいるのはまだ時間がかかりそうだ。


「ユラ君はパーカー好きなんだね。」


気づいたら俺はいろんなパーカーを買おうとしてた。やっぱり着やすさはパーカーが一番だと思ってる。


「そうだな。着てて楽だ。」

「私も新しいの買っておこっと。ユラ君が好きなら私も着る!」

「なんだそりゃ。」


グラは本当にいくつかパーカーと、他にもいくつかの服を買った。俺も同じように、日常使いしやすいものを何点か選んだ。


「ユラ君これどう!?」


グラはそう言って猫の着ぐるみのパジャマを見せてきた。もっこもこである。もう夏入るぞ。


「…博士が着たら俺笑い転げる自信ある。比喩じゃなく物理的に。」

「あっはっは!確かに!あの人服気にしないから着そうだな…。買っちゃう?」

「じゃあこれが博士の本のお礼ってことで。これは俺が買う。」

「私も買ってお揃いにしようかな。」


グラはそう言いながら俺をじーっと見る。


「俺は着ないぞ。」

「ちぇっ、見たかったのに。」


グラは俺で遊んでやがる…。まぁ楽しそうだから良いのだが。

一通り服は買ったので、次はグラがお気に入りの店に行きたいといった。俺は別に行きたい場所、というかこの町に何があるかわかっていないのでもちろんその案に乗った。そしてそのお気に入りに場所へと向かう際…


「そういえばユラ君」

「はいなんでしょう。」

「本はどこで見つけたの?」

「落ちてた。」

「やっぱり?私もそうだった。なんか綺麗な本が落ちてるなーって。」


本に出会う場面はみんな同じなのか。まさかこんなものが自然にできるとは思わないし…誰かが意図的にばらまいてる?


「不思議なもんだよね…これ。博士でも仕組みがわからないなんて。私の説では宇宙人が空から落とした説だと思ってるんだけどね。」


本気で言ってそうなので馬鹿にはできないな。ただこの本確かに頑丈なのでほんとにその可能性ありそうだ。


「あ、着いたよ!ここが私のお気に入りのお店。」

「ここね…まぁなんとなくこういうお店だろうなとは思ってたよ。」


着いた場所はぬいぐるみがぎっしり詰まってるように見える店『プラッシュ』という名前の店だった。ぬいぐるみ専門店ってあったのか。ピンクピンクしてて入りにくい。


「ここ男の子も結構来るから気にせず入って大丈夫だよ。さっき新しくチームに入った人にお気に入りのモモンガのぬいぐるみあげちゃったから補充しなきゃ…。」

「なんでくれたんだよ…」

「お気に入りの人にはお気に入りのぬいぐるみあげるって決めてるの!博士にはカメのぬいぐるみあげた。」


絶妙に似合ってそうで似合ってなさそうなものをあげるんだなグラは。

グラはお店に入ってすぐ新作コーナーへと走った。


「このお化けみたいなぬいぐるみかわいー!」

「んん?グラちゃんじゃーん!久しぶりじゃない?」

「わ、てんちょー!お久しぶりです!」


グラは店長らしき女性に見つかった。常連らしい。店を見渡すとどこもかしこもぬいぐるみ。動物や食べ物。標識みたいなものもある。奥の方にはアニメキャラクターや漫画のキャラのぬいぐるみなどもあるのを見つけた。確かに男性も目当てのものがある。だとしてもここに入るのは少し勇気が必要な気もするが。


「あれ、グラちゃん。もしかして彼氏?」

「違いますよ!新しいシェアハウスのメンバー…みたいなとこです。」

「じゃあ恋はこれからだ。うーん!青春!」

「違いますってばー!あ、ユラ君!私店長ともう少し話すから色々見てきていいよ!」


そう言われたので俺は店の探検に行った。どこをみてもぬいぐるみばかり。グラはぬいぐるみが好きだと思うからモモンガのぬいぐるみのお礼はぬいぐるみで返そうかな。でも何がいいだろう。グラはある程度のぬいぐるみは持っていそうな気がする。じゃああれにするか。


俺は買い物を済ませグラを探した。真剣な顔でぬいぐるみを眺めている。どうやら赤いクラゲのぬいぐるみか青いクラゲのぬいぐるみかで迷ってるようだ。


「どっちも買えばいいじゃないか。」

「あ、ユラ君。なんか買ってる。」

「あぁ、いいものがあったからな。」

「良かった、連れてきて。でも今はこっち…むむぅー…どっちがいいと思う?」

「青かな、俺は。」

「じゃあ青で!」


そう言ってグラは青いクラゲを買いに行った。見ていると博士から借りたカードはつかっていないようだった。


「おまたせー。そろそろお昼かな?」

「カード使わないのか?」

「あぁ、そうなの。生活必需品以外、まぁ結構大雑把だけど。そういうもの以外は自分のお金で買おうかなって。バイトしてた時のお金なの。多分博士はなんでも買ってくれるけど、頼りっきりにはしたくないの。なんて、あんな家まで住まわさせてもらって今さらなんだけどね。」

「そうなのか。」


グラにはグラのルールがあるんだな。博士の好意に甘えっきりにならないためなのだろう。ちゃんと相手が大人だとしても仲間として接したいという気持ちから…というのは少し妄想が飛躍してるかもしれないが、グラはきっとそう思っている気がする。

そのあとも、グラと色々なところへ出かけて拠点へと帰ってきた頃には夕日が眩しい時間だった。


「ただいまー!」

「おかえり。またいっぱい買ってきたな…。」

「うん、ユラ君ほら。」

「博士、本貸してくれた礼に買ってきたぞ。」

「これは…ねこ?」

「かわいいでしょ!今日着てよ!」

「…確かに…かわいい。」


博士はそう言って奥へと消えていった。クールな素振りの博士だが可愛いもの好きのようだ。ギャップがすごい。


「さてと、荷物なんとかしなきゃね…。」

「あ、そうだ、グラ。はいこれ。」

「ん?なぁにこれ…。」


俺はぬいぐるみの店で買ったものをグラに渡した。これがグラへのお礼である。


「わぁ…おばけのぬいぐるみ!」


グラは満面の笑みで俺が渡したぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。よろこんでもらえて何よりだ。


「んやぁ…ユラ君、私の心つかむの上手いね。」

「ぬいぐるみ好きは誰が見てもわかるぞ。」

「それでも嬉しい。ありがとう!」


今日はグラのこの笑顔が見れただけで俺も満足だ。

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