表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第二章 再来の魔法使い
89/95

第十一話 託された者と任された者 『♠』

「メクルどうした、そんなぼーっとして。」

「…そりゃあんなことあれば頭の思考速度も速まるだろう?」


ケルトに話しかけられたせいで考え事が散って行ってしまった。僕は数時間前の出来事を思い出す。

行進祭の一番重要な虚様を守る役を任されたと思ったら、謎の襲撃者が現れて。僕は警備に失敗して…。で次にページをめくれば虚様は誘拐されていて。帰ってきたと思ったらその誘拐犯が襲撃犯と争ってたから誘拐犯に加勢したらこんなところでも全く活躍できなくて。なんだかあの一時間ほどだけで僕の二十三年間の人生よりもずっと濃い出来事が起きた気がする。結局誘拐犯も取り逃がして、自由奔放虚様はレイさんが他のアルパさんやクロンリーダーが来るまで待ってもらう説得し、ようやく虚様はぶつぶつ文句を言いながらも待ってくれた。

その後僕は様子がおかしい…いや、様子の変わった虚様に聞きたいことを聞いたんだった。


ーーー


「あの誘拐犯の能力は、『炎』の能力ですか?」


僕は虚様が少しでも狼狽えたリアクションを取ってくれるかと期待したが、微笑むだけで何もない間を返してきた。

と思ったら口を開いて…


「さぁね。私もわからない。でもあの人は私の親友。それだけは知っていてほしい。」

「親友…ですか。」

「うん。…ほら、メクルリーダーの親友が来たよ。」


虚様が指さす方向に、『雷刀雪』の僕の仲間がアルパリーダーと人混みを分けて向かっているのが見えた。


「メクルリーダー、誘拐犯は!?」

「マゴ、落ち着いて。取り逃がしてしまったよ。すまない。」

「そうか…。メクルが取り逃がすなら仕方ないな。」

「あー私もまた見たかったなあの人。強そうだった。」


…ゴメン君たちのリーダーは手も足も出るどころか誘拐犯が虚様を守る邪魔までしました。


「虚様!ご無事でよかったです。」

「うん、アルパリーダー。心配かけたね。」

「……う、虚様?」

「本当にみんなそういう対応。流石に飽きてきたよ。雨音、運転手さん起こして。そろそろ行進祭再会できるでしょ。」

「了解です。」


アルパリーダーも、ライもケルトもマゴも同じように困惑した顔をして虚様を見ていた。わかる。初見はそうなる…。何せ僕たちが生まれたころ以前、それこそアルパリーダーが生まれる前から虚様は人形のような、置物というイメージで生きてきたのだ。虚様の仕事はその人に能力の適性があるかないか調べる事。しかしその結果を伝えてくるのは常に雨音さん。虚様本人からそう言った言葉をいただくことはなかったのだ。だからこそ、こうして虚様が見た目相応の会話、仕草、表情をしている事実には驚きを禁じ得ない。


その後、アルパリーダーに続いて『四十万』や『チェイス』チームも到着したので行進祭は再開された。当初の目的地、大社までは大体一時間ほどで到着する予定が気づけば時間は三倍ほど過ぎていた。そのたった三時間で、行進祭の雰囲気はがらりと変わる。僕たち魔警の警備は今朝と変わらない。走るフロート車も元の速度でゆっくりと進む。違うのはその高台に乗る虚様だけ。主役が変われば場の雰囲気も変わった。


「わーみんな久しぶりー。」


虚様は一応最初と同じく正座で間違って高台から落ちないような姿勢で、しかしながら両手を人々に振って笑顔でいる。異質ともいえる光景だったが、人々は変わらずその虚様に感謝を伝える。だがその盛り上がりは段違い。微塵も反応しない神様より、しっかり言葉を、笑顔を返してくれる神様の方がみんな安心できるのだろうか。


ーーー

 その後は何事もなく行進祭は終わった。去年ならば僕たちは行進祭の余韻を楽しむため、屋台に行ったりあまり関われない三大チームのアルパさんやクロンさんと話したりするのだが、今日ばかりは部屋で待機を命じられた。多分レイさんを軸に今日の出来事をどう対応するか話しているのだろう。聖花リーダーは不参加な為クロンリーダー、アルパリーダー、レイさんの三人で。隊長ももしかしたらいるかもしれない。


「メクルリーダー、どうしますか突然この部屋追い出されたら…。」

「やだやだ!それは困るよマゴちゃん!」

「待て主語をよく聞けライ。…でマゴ。どうしてそういう結論に至った。」

「だって…無事行進祭は終わったとはいえ…その…。」


なるほど。部外者に助けられなかったら虚様は殺されていたかもしれない。そしてその責任は第一等警備の僕たち…いや僕って訳だ。終わりよければすべてOKとすんなり言ってくれないのが社会と言うものだ。


「…まぁその時は僕が責任を取るから、マゴは心配しなくていいよ。」

「メクルリーダーのいない『雷刀雪』にいても意味ないです!」

「朝はあんなに僕たち三人のことぐちぐち言ってたじゃないか。」

「うっ…そ、そうですけど!」


マゴはきっと、そのまま三大チームにいてもおかしくないほど優秀だ。それなのに何故か彼女は僕を魔警で見つけるや否や「入れてください」と熱心に頼んできた。困惑したが、ろくにこの新人魔警備員を調べずに門前払いすれば一生後悔するとなぜかその時ふと思い、マゴを『雷刀雪』に加入させた。するとどうだ、めちゃくちゃ優秀ではないか。


「メクル、もしそうなったら俺達全員でここ出てくからな。」

「どうして。失敗したのは僕だ。」

「そうだ。お前だ。そしてお前はなんだ。」

「…『雷刀雪』のリーダーだ。」

「だろう?なら『雷刀雪』の責任だ。お前の責任じゃない。」

「またメクルがケルトに怒られてる。」

「怒ってるんじゃない。当たり前の事実を言ったまでだ。」

「はいはい。まぁ、メクルがクビになったら私も魔警やめてあげるよ~。」

「…一瞬感動しそうになったがライ。お前副業あるじゃないか。」

「へへ。」

「はぁ…。」


こんなチームの命運がかかった話を日々の雑談のように明るくするのは僕たちくらいだろう。

そんなチームに、さっそく命運の結果発表タイムが訪れた。

コンコン、とドアがノックされる音。マゴがビクついてるのを横目に僕は扉を開く


「レイさん。お疲れ様です。」

「あぁ、本当にだ…。今日は疲れた。」


レイさんはいつも忙しそうにしているが、今日はいつもの倍疲れているように見えた。


「少し色々伝えることがある。中に入ってもいいか?」

「…もちろん。」


僕たちは今日一の苦労人だと思う人を部屋に招いた。


「ふぅ…」

「あ、あの…レイ先輩…。」

「ん?どうしたマゴ…。そんな怯えて。」

「わ、私達魔警クビですか…?」


マゴが恐る恐るレイさんに聞いた。こういう時、相手が言いだすまで怖くて聞けないのが普通な気もするがマゴはもう自分たちの未来について知らずにはいられないようだ。しかし、辛そうに聞くマゴに対し、レイさんはぽかんとした顔。そしてすぐに笑いだした。


「あっはっはっは!クビにするわけないだろう?第一どうしてそういう結論に至ったか知りたいものだ。はっはっは。」

「ちょっ、レイ先輩そんな笑わないでくださいよ!私もう…もう!!」

「わかったわかった。わかったからその全く届いていないグーパンチをやめてくれ。」


多分今マゴには自分の心境を理解してくれないレイさんに怒りたい気持ちと先輩だから攻撃できない気持ちが半々くらいなのだろう。

僕たちは行進祭の任務を失敗したから、この部屋を出ていく。それどころはクビにされるんじゃないかという話をしていたことをレイさんに話した。


「はっはっは。」

「いやうちのマゴは割と本気で思ってたんですから…。」

「そうだな、悪い悪い。確かにそういう反省する志は大切だ。だが…今回の事はもう結論を出した。…というか虚様が出した。」

「虚様が?」

「あぁ。私達…アルパリーダーとクロンリーダーとで隊長に行進祭の出来事をそう対処しようか聞きに行こうとしたところで虚様に出会ってな。」

「出会ってって…魔警でですか?」

「そうだ。」

「大社に帰ったんじゃ…。」

「帰りには帰ったが、どうやら魔警の…わかるかな、虚様専用の部屋が四階にあるんだ。メクルたちの部屋は三階だからあまり見ないかもしれないが。」

「…ケルト知ってる?」

「存在はな。実際見たことはない。」


ライとケルトが後ろの方でそう話しているのが聞こえる。僕もケルトと同意見だ。知ってはいた。ただ魔警本部に虚様が来ることなんて、少なくとも僕たちが『雷刀雪』を作ってからの三年間見たことなかったものだから何のための部屋なのだろうと疑問ではあった。


「その部屋に用事があるようで。わざわざ大社からまた歩いてきたそうだ。」

「あ、歩いて!?車使わずに?」


大社から魔警本部までは一本道だが割と距離がある。車を使えば15分ほどだ。


「あぁ、どうやら行進祭の屋台を見たかったらしくてね…。すごい変装してお祭りを楽しみながら来たらしい。ふっ、私は虚様がそんな人だとは微塵も思っていなかったから、未だにあの虚様は別人か心が誰かとすり替わったとしか思えないんだがね。」


…虚様と一瞬話したが、確かに別人かと疑った。しかし僕がそれほどまでに今までの虚様と会話をしていたかと言えば一ミリもないのだ。勝手に表の虚様だけがすべてと決めつけていただけで実際ああいった自由奔放な方なのかもしれない。


「それで、虚様は今日の事をどうしたんです?」

「そうだな。とりあえず順序立てて話そう。まず、今回の事をウルウ隊長は虚様に任すと言われたそうだ。」


ウルウ隊長。名前だけの幻の存在。誰もその姿を見たことはないが、流石に虚様とは面と向かって話すのだろうか。


「そして、最初に現れた三人の襲撃者。あの三人については調べて、大元を突き止めてほしいとおっしゃっていた。なんだか裏がある気がすると。」

「裏って…それ確証あって言ってるの?虚様は。」

「ライ、お前な…。」

「いや、私たちも言いはしなかったがライと同じ意見だ。今の虚様は信用できていない。だがあの三人がクロンリーダー、そして『影』の包囲網を抜けて虚様のすぐそばまで何らかの手段で来ていたのは事実。詳しく調べる必要はある。そこで…」


レイさんは一拍開けて、言った。


「その調査を『雷刀雪』に任せる。」

「…え?僕たちが…やるのは良いですが一チームだけですか?」


責任を何らかの形で取ろうと心に決めていたからそれに関しては全然いいのだが、流石に『雷刀雪』だけと言うのは少々…いや甘えか。


「そうだ。とは言え全部丸投げするわけではない。アルパリーダーも協力すると言っていたからな。だが虚様は『雷刀雪』に頼みたいと言っていた。これはすごい事だぞ。虚様直々の任務なのだか。」

「…それはそうですが…。」


なんでわざわざ僕たち?そういえば虚様はあの誘拐犯を親友と言っていた。その親友の邪魔したから怒ってるのか?その腹いせ?


「ま、まぁそこまで気に病むな。少なくとも達成できなくてもクビにはならない。ただ当分の目的はあの襲撃者の元をたどってもらいたい。任せたぞ。」


…今決めた。その任務を絶対完了してやろうと。一度決めた事は絶対に達成する男として僕は有名なのだから。


「みんな、決めたぞ。」

「お、メクルが決めるの久しぶりじゃない?」

「あぁ、これは腕が鳴るな。」

「伝説のメクルリーダーの決断をこの目で…。」

「ははっ、それじゃあ期待してるぞ。天下の『雷刀雪』。」


レイさんは笑って立ち上がり、部屋を出て行った。これを最後のチャンスと、重く置けとめよう。このところ僕は気の抜けた炭酸のようなものだった。しかし、今一度やり直す時だ。天下の『雷刀雪』。その名を守り続けるために。

幸い、こんな僕にも神様はまだ見限ってくれていない。だって仲間たちがいるのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ