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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第二章 再来の魔法使い
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第十話 友達と託された者 『♧』

「聖花、次の魔警加入試験っていつなの?」


魔警に入るにはそれ相応の頭の良さが必要だと聞き、一応足掻ける時間があるのなら足掻いてやりたいと思い聞いてみたのだが…


「ちょっと待ってね…。今が…4月13日だから…。一週間後の4月20日だよ。」

「一週間ね…。今から本気で勉強したら行ける?」

「…正直無理だと思う。」


はっきりと澄ました顔で聖花にそう言われ、もうなんだか夜真の部屋に行く前に帰っちゃおうかな。親友を助けたいとか言って頭悪いから無理でしたとか恥ずかしすぎる。そしてやけに真がすんなりと言うので倍心が折れている中…とっくに私はメシアに会っていた。


「ま、私がいなければの話だけどね!」

「せ、聖花様!」

「聖花様はやめて。昔付きまとわれてたストーカー思い出す…。」

「あぁ…。聖花可愛いもんね。」

「そうなの。可愛いのは罪なの。だからそのストーカーは私がパンッてしたから。」


だからパンッってなんなんだ怖い。

真がガッツポーズを取ってると、ぐーと気の抜けた音が聞こえてくる。

共鳴するように聖花は顔を赤らめた。


「…食堂行こうか。マユラもお腹空いてるっぽいし。」

「いや今のは…」

「行こうか。」

「うん…。」


有無を言わせぬ圧により、私は聖花に食堂に連れていかれた。


到着して、その食堂の広さにまた驚いた。各階に食堂は用意されていたが、一階の食堂は特に広かった。というか各階に食堂がある時点でだいぶおかしいと思うのだが。


「あら聖花ちゃん。」

「やっほー、おばちゃん。ラーメンね。」

「はいよ、いつも通りね。…あら、知らないお友達がいるわね。」

「静稀マユラです。今は見学で…。」

「そうなの。食堂は一般の人でも使えるから好きなものを頼んでね。…お会計は聖花ちゃんかしら。」

「もちろん。私、この子チームにスカウトするから。賄賂送らなきゃね。」

「まぁ、貴女聖花ちゃんに気に入られるなんて相当ね。私には最初目も合わせてくれなかったのに。」

「昔の話はやめて!それで、マユラ何食べたい?」

「うーん…。」


私は壁に張られたメニューを眺める。カレーやラーメンなどの定番から日替わりランチや数々の定食など、全部おいしそうに思える。思えば久しぶりの食事。だからこんなにわくわくしているのか。


「じゃあ…グラタンで。」

「はいよ。なんだか女の子らしい物を食べるね。聖花ちゃんとは大違い。」

「ちょっとおばちゃん?ラーメンは女の子でも食べるから!」

「はいはい、それじゃ呼ぶから座って待ってて頂戴。それと…。」


おばちゃんは私に手を招いた。近づいて耳を貸すと…


「聖花ちゃん、お腹空いてると機嫌悪いから注意してね。…って知ってたりする?」

「それは…有益な情報ありがとうございます。」

「マユラぁ?何話してるの?」

「何でもない、今行くよ。」


聖花、話していくとどんどん残念な部分が現れるな…。まぁその全てが彼女にとっては魅力になるのだけども。

少し待つとすぐに食事ができた。おばちゃんはああいっていたが、聖花は笑顔で私と話して待っていた。あんまりお腹が空いてなかったのかな?


「ずるっ…うまい。」

「美味しそうに食べるね、聖花は。」

「よく言われるけど、今日は結構気を付けてる。」

「どういうこと?」

「あんまり人目がない時は割と行儀悪いんだって私。自覚ないけど。今はマユラがいるから自然といい顔してるかも。えへ。」

「聖花…モテるね。」

「そりゃね。自慢だよ!」


とは言いつつも苦労はしてきているのだろう。さっきのストーカーの話など。こうして笑い話にできるくらいには彼女は成長したという事なのだろう。

食事も終わり、その後は聖花に外に行こうと言われた。魔警は建物中だけではなく外にもいろいろな設備があった。訓練場は予想通りだったが、驚いたのは数々のスポーツができる場所が用意されていたことだ。サッカーにバスケ。テニスや野球など。なんだか随分と自由な場所だ。そりゃこんな最高な施設、ある程度の実力がないと入れない訳だな。

そうして外も一通り見終わり、というか聖花と先ほど挙げたスポーツで楽しんだら疲れたので座って休むことになった。


「マユラ飲み物何かいる?」

「申し訳ないからいい。」

「サイダーね。了解。」

「ちょっと待って運動後の炭酸はきつい…。」

「じゃあ何が良いの。」

「…炭酸水。」

「結局炭酸じゃん。」


聖花に買ってもらった炭酸水で、全く潤わない喉をうっとうしく思いつつも静かな広い訓練場を眺めた。遠くからは行進祭の盛り上がりが聞こえてくる。俺はこういった、蚊帳の外にいる自分と言う存在が好きだ。時間の軸から離れたような、不思議な気持ち。説明のつかない感情は高揚感をもたらした。


「…そろそろ行進祭終わる頃かな。」

「じゃあ…私も魔警から一度離れる。」

「なんで?」

「邪魔になっちゃうじゃん。帰ってくるでしょ?魔警の人たち。」

「それはそうだけど…離れるって、家はこの辺りなの?」

「家か…。」


あの二百年籠っていた山を家と呼ぶのならあるにはあるが、今後魔警備員として行動するならこの近くに家は欲しい。『瞬間移動』を使えば問題はないのだが、俺がこちらに常に行き来できるだけでは意味がない。真が俺の居場所にすぐ来れなければ色々と面倒くさい。

魔警にはいろいろな施設がある。だから多分…


「魔警って寮とか…住める場所ない?」

「え、マユラ家ないの?」


聖花のその質問は家のない心配からの疑問ではなく、期待の気持ちが含まれているような…。


「な、ないわけではないけど遠いから…。」

「魔警の寮はあるにはあるけど魔警備員じゃなきゃ入れないよ流石に。」

「あるんだ。じゃあ魔警に入るまでは…」


真に部屋もらうか。ただずっと借りるのは申し訳ないので魔警に入ったら寮に移ろう。


「…私の部屋住む?」

「いやいやいや、流石にそれはいい。」

「冗談。」


そうは言うけど聖花さん…残念がってるの分かりやすすぎますよ…。


「まぁ虚様に部屋借りようかな。」

「フランク過ぎない?あの人一応神様みたいなもんだよ?」

「その前に親友だから。」

「…そう。」


何故か聖花は気を落としたような声で返事をした。俺にはその理由がわからなかった。けれどすぐに聖花は顔をあげた。


「マユラ、虚様に呼ばれてるのは夜だっけ?」

「うん。そうだけど…。」

「じゃあ夜中まで『リフラーク』の部屋いなよ。多分今日は誰ももう部屋来ない…。いやレイが最悪残業しにくるか。まいっか。」

「い、いいの…?それじゃあ…お言葉に甘えようかな。」


私がそう言うと、聖花はすぐに顔を明るくした。わかりやすいというか、顔に出やすい子だなほんと。



その後、聖花の部屋で夜まで待たせてもらった。真のやつ、なんで夜に呼んだんだ…。見学を丸一日やってられっか。聖花がいなきゃ今頃路頭に迷ってたぞ…。


「王手。」

「待った…待った!」

「マユラ、諦めなさい。私の勝ちよ。」

「聖花将棋強すぎ…。」

「へへん。そりゃ私は軍師ですから。」


聖花と遊んでいると、とっくに窓の外は真っ暗。


「あ、そろそろ行かなきゃ…。」

「んー?あーホントだ。もうそんな時間か…。」


聖花は背伸びをしてあくびをして…眠そうだった。思えば今日は聖花のトレーニングを邪魔して、こんな時間まで付き添ってもらって。実は少し不安だったりした。真意外俺の事を知らないのだ。知り合いも家族も誰もいない世界で半日一人で過ごす。そんな不安は聖花が明るく光を刺してくれたおかげだ。


「聖花、ありがとう。」

「なに突然…。どしたの。」

「今日一日付き合ってもらっちゃったからさ。」

「それを言うなら私もありがと。行進祭は毎年一人だから、今年は楽しかった。」

「『リフラーク』の人もいないもんね。」

「私が休みにしたからね。」


そこまでする聖花に、どうして行進祭を嫌うのか聞きたかったがやめた。そう言った話をするにはもっと時間をかける必要があると思ったからだ。


「じゃ、もう行くね。ほんと今日はありがとう。」

「うん。」


淡白なセリフに満足げな表情。聖花がそんな表情をしてくれるなら、今日は案内役を頼んで良かったと心から思えた。


「絶対魔警入ってね。」

「わかってるよ。」

「あ、マユラスマホ持ってる?」

「…持ってない。」

「あちゃあ…。連絡取れないや。」

「勉強教えてもらわなきゃなのに…。」

「ま、私基本ここ居るから。受付で呼んでもらってもいいし。すぐ行くよ。」

「了解。じゃあね。」

「ん、ばいばい。」


三階の『リフラーク』の部屋を出て、私はそのまま四階の真の部屋へ向かった。もう真はいるだろうか。


「…ん?」


部屋の前には知らない女性が佇んでいた。…どこかで見たことあるような顔だが、今のこの世界で知っているのは聖花と真くらいだからまず間違いなく気のせいだろう。


「あの…ま…じゃないいや。虚様いますか。」

「…お名前を。」

「えーと…」


本名?それともマユラの方?

悩んでいると、その女の子はこう言ってきた。


「本名で、大丈夫ですよ。虚様から話は聞いています。」

「じゃあ、斎月ユラ。」

「はい、ではどうぞ。虚様がお待ちです。」


この女の子は信頼に当たるのだろう。真が俺の事を話したというのだから。


「あ、ユラ。半日ぶり。魔警どうだった?」

「なんかスゲェ場所だな。」


俺は指輪を取って、座っていた真のそばまで歩いた。


「ね、やけに金かけたのよ…娘が。」

「そうだ、その話も聞きたい。」

「わかってる。これから全部話すから。ユラがいなくなってからの…この世界について。でも、正直今日は昔話はする気ないの。」

「なんでだよ。めちゃくちゃ気になってるんだが。」

「そういうのは自分で調べて。実は魔警加入試験が…

「あ、一週間後…。」

「そう、よく知ってるね…。とにかくそれで時間がないから。」

「なるほどな…。なら、仕方ない。」

「でしょ。えーとまずは…うん。魔警の入り方からだね。」


真はわかりやすいようにホワイトボードまで用意してくれたようだ。…もしかして待たせただろうか。


「あ、真。その話の前に一個聞きたい。」

「何の話?」

「扉の前にいた女の子は誰だ?俺の事について知らせたんだろ。」

「あぁ…そうね。…ちゃんと自己紹介させようか。これからユラのサポートしてもらうかもしれないから。」


真は扉を開き、先ほどの女の子を部屋に入れた。黒髪に着物というかなり外では目立つであろう恰好をしている。落ち着きとは裏腹にまだ幼さがある。中学生くらいか?


「雨音、ユラに自己紹介して。」

「はい。初めまして斎月ユラ様。朝芽雨音と申します。以後お見知りおきを。」

「…おい真。もしかしてなんだがこの子…。」

「そう、冬矢の孫のその子供…だっけ?」

「虚様が一番覚えていてもらいたいです…。我が朝芽家は代々虚様に使えているのですから。」


冬矢の…子孫って事か。どこか面影があると思ったら…。


「真、冬矢は…最後なんか言ってたか。」

「…うん。世代を跨いででもお前の手助けをするって。おせっかいだよね。」

「冬矢らしいな。」


冬矢にとって真は妹のような存在だと言っていた…気がする。流石に記憶があいまいだ。ただ一つ、冬矢はいつでも俺と真が笑顔でいてくれるようにいてくれたことだけは覚えていた。…冬矢はいつでも、俺達を笑わせてくれた。


「雨音、なんであなたの名前も、あなたのお母さんも『雨』が入ってるか知ってる?」

「…知りません。理由があったのですか?」

「あなたの遠いおじいさんはね、私が涙を流しても雨で紛れるような。そんな意味を込めて代々『雨』を入れるよう朝芽家は言ってきたんだってさ。ちょっと重いよね。」


そういう真は困った表情はせず、優しそうな笑顔でそう言った。今朝見た真とは印象が全く変わり、顔に生気が宿っていた。冬矢とは違い、俺は真には何も残さなかった…。あんな顔になるまで苦労させていたというのに。つくづく、冬矢はすごいやつだと、そしてそんな奴の親友であったことを誇りに思う。きっと今の俺を冬矢が見ても笑って迎えてくれたんだろう。

しかし、雨音は真逆の結論をだした。


「…私の遠いおじい様は酷い方ですね。」

「どうしてそう思うの?」

「それは…虚様が悲しむのを紛らわせたら誰も気づいてあげられないではありませんか。虚様の…苦痛を。」


それは最もだ。けどまぁ…


「いやそれは違うぜ。雨音…ちゃん?」

「呼び捨てで結構です。」


おっと…?ちょっと気に食わない顔してるぞ。これは俺の事をしっかり犯罪者兼真に突然現れた友達ずらしてるやつだと思ってるな?いや流石に言いすぎか。自分で言ってて心が傷ついた。


「雨音。冬矢はな、ちゃんと雨が降ってても真の苦痛に気づけるやつがいるって思ってそうしたんだと俺は思う。だろ、真。」

「…そうだね。ちゃんと晴らしてよ?ユラ。」

「当たり前だ。」


冬矢は信じてくれていた。随分と待たせてしまったものだ…。だが、親友はその長い期間、俺たちの共通の親友を守ってくれた。今度は俺が守る番だ。

そう意気込んでいると、雨音が申し訳なさそうな顔をしていることに気付いた。


「雨音どうした…?」

「いや…その…そういう話だと…私って邪魔かなって…」

「あー違う違う!ごめん!そういう意味で言ったわけではないから!」


あらぬ誤解を生ませてしまったが確かにさっきの言い方だとそう捉えられるよな!ごめんな!俺はもうそれは全力で謝った。

すると、しっかり雨音が冬矢の血を引き継いでいることがわかった。


「…それでは、ユラ様…いえユラ。」

「は、はい…なんでしょう。」


雨音は小さいグーを俺に突き出す。何ぶん殴られんの俺。


「私は虚様を支えます。ユラは真様を支えてください。一緒に…です。私の存在意義ですから。」

「…ははっ、良いぜ。お互い頑張ろう。あのわがまま女を支えてやろうぜ。」


冬矢は真にボディーガードだけではなく、俺に強力な仲間まで託してくれた。アイツはもういないけど、いないようなもんなのは俺の方だな…。


「ちょっと、誰がわがまま女だって?」

「言葉の綾だ!」

「そんなドヤ顔で言われたらイラつき倍増なんだけど。」

「…ふっ、わがまま女。」

「雨音!?裏切者!」


こうして、俺を知ってくれている人が一人増えた。

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