第七話 移動
今からの会話は小声である。
「ふぁあーあ…ユラー、真ー。もう朝だぞー…って」
冬矢は俺の部屋に顔を覗き込むや否や動きを止めた。俺だってそうする。今俺の部屋のベットは悲しいことに誰も寝ておらず、布団で俺と真が一緒に寝ている。ちなみに俺はもう起きている。ではなぜ起き上がらないのか。
「冬矢…助けてくれ。」
「それは無理だなー…ライオンの獲物横取りしたら何が起こるかわかるだろ。てかなんでその状況…。」
真が完全に俺をホールドして寝ているのだ。腕が拘束され、足はもう絡みあってどうなっているかわからない。しかもこの状態がいつからなのかわからないためもうなんか全身の感覚が若干ない。命の危機か?だから俺は目が覚めたのか?
「むぅ…」
「俺のセリフだよ…。冬矢、今何時だ。」
「まだ6時過ぎだから寝てていいぞ。」
「寝れるか!助けてくれ、後生だ。」
「多分学校の男子が見たら羨ましがるぞ。一応それ学年一の美少女なんだから。いーな、うらやましー」
「…いや俺はグラの方がまだいい。」
「おい…それ真に行ったら殺されるからな。でもまぁ確かにグラさん。美人だよな。しかも性格まで良い。」
「おい冬矢、お前も殺されるぞ。」
「なはは、まだ寝てるしだいじょ…
「ん…」
「!?」
「!?」
突然真が起き上がった。俺ごと巻き込んで。
「いってぇ!?」
「…うるさい。」
「朝開口一番それですか…。」
「ユラー、あと頼んだ。今日は俺が朝飯作ってやる」
「おい逃げ…やがった。」
真はきょろきょろしながら現状を把握している。どうやらさっきの会話は聞かれていなかったようだ。が、まだ寝ぼけている。いつこの状況に気付くか…いやもう時間の問題か。諦めよう。
「真!おはよう!いい朝だな!」
「…今何時。」
「6時過ぎ。」
「じゃあもーちょぅっとだけ寝よー。」
「やめろこっち来る…げふっ。」
全体重をかけて俺を布団にたたきつける勢いで真はうつ伏せになってまた寝だした。
なんて朝だ…。でもこんな真見るのは珍しいな。一応きっちりしたやつではあるのだ。もしかして今日休日だと思ってる?多分だが学校はふつーにあるはず…。
そこで俺はもう学校に行かないのを思い出した。今日は朝にグラが迎えに来るんだ。こんな姿見られちゃ気まずい。
「おい、真。お前は今日学校だぞ。」
「…はぁ。わかったわかった。起きますよ。」
「お前起きてんじゃねぇか。」
「昨日は寝るの遅かったの。」
「そうだったか?」
「どっかの誰かさんはさっさと寝ちゃったけどね!」
真はそう言ってなぜか怒りながら起き上がった。やっぱ睡眠不足の人ってイライラしやすいのか?睡眠は大切だな!
「今日でお別れか…。」
「すぐ帰ってくるぞ多分。」
「じゃあはい、約束。」
そう言って小指を出してくる真。俺も小指を出して真の指に絡める。
「指切りげんまん。嘘ついたらこーろす。指切った。」
「怖い怖い。何その指切り!?」
「えへへ。」
さっきのイライラはどこに行ったのか。ニコニコしながら部屋から出て行った。情緒不安定すぎる…。なんか帰ってきたくなくなった。いっそグラの方で過ごした方が…。
時間は進み、7時半。もう冬矢と真は学校に行く時間である。グラはまだ来ていない。まぁまだ朝も早い。気長に待つことにしよう。
「よし、じゃあ行ってきます。」
「ユラ、またな!」
「おーう。2人ともいってらー。学校の様子一応あとでメールして教えてくれ。」
「ユラも来たらいいのに。」
「グラがいつ来るかわからないからな。」
「そうだぞ、真。これ以上ユラを足止めるのは野暮ってもんだ。」
「そうね…。それじゃあ行こうか冬矢。」
「おう。」
そうして二人とも学校へと向かっていった。あの二人は出会った時から姉弟のような関係だった。出会った当初の俺は、そんな関係を崩すようなことをおもむろにやってしまった。だからこそ、今の俺たちの関係があるのだが。当時は俺、空気を読むような奴じゃなかったからなぁ…。今も読めていないが。そんな俺を笑顔で迎えてくれた冬矢と真には感謝しかない。未だに、俺が初めて二人に話しかけたときの、冬矢のにまにま顔と、真のびっくりした顔が忘れられない。昔も変なやつらだったな、そう考えると。
二人の後ろ姿を見て、やっぱり思う。
「二人、お似合いだな。」
「私はユラ君と真の方がいいと思うけど。」
「おわっ!?いつの間に…」
「おはよ。迎えに来たよ。」
気づいたらすぐ近くにグラがいた。昨日とは違ってなんだかおしゃれな服装をしている。昨日は動きやすそうな恰好をしていた。
「なんだその恰好。」
「今日はユラ君とデート。」
「予定変更すぎるだろ。ジェネシスシティの拠点とやらに連れてってくれるんじゃなかったのか?」
「最終的にはね。でもほら、今日って電車で行くじゃん?」
「そうなのか?腕掴んでひゅーっと連れていかれるのかと。」
「無理無理無理!流石に人一人分を持ち上げるほどの力は…なくはないけどそんな長くは続かないから!ユラ君が空飛べたらまだ会話は早いんだけどな…。」
「浮ける、飛べはしない。」
「炎の能力で浮けるだけで十分強いけど。それじゃ、準備は良い?あんまり荷物少ないけど。本と本を入れるくらいの鞄だけ。」
「本だけあれば良いだろ。すぐ戻ってくる約束したし。」
「真と?」
「あぁ。」
「そりゃ大変。でも今日一日は付き合ってもらうよ。ほら、行こ。」
俺はグラに連れられ駅に着いた。グラは結構おしゃべりな子だった。沈黙に耐えられない、みたいな感じがする。
電車を待つ際にも、会話をした。
「んやぁ…ユラ君が来てくれて助かるよ。」
「そういや、グラの能力って結局なんなんだ?」
「私?ユラ君が教えてくれたら教えてあげる。」
「炎」
「早いよ!もうちょっと溜めてから言ってよ!」
「だってもう知ってるだろ?」
「まぁそうだけどさ…。私の能力は『空気』だよ。空気を操るの。」
そう言ってグラは俺の持っていた鞄を手を使わずにひょいっと持ち上げた。よく手品で見るやつだ!
「おぉ…ちょっと地味だな。」
「ひどい!けど確かにユラ君と比べたらそうかも…。あ、電車来たよ。」
目立ちすぎるのも問題なんだけどな。
俺とグラは電車に乗り込み、ジェネシスシティへと向かう。言ったことのない場所だ。すこしドキドキする。まだ夢なのかもしれない。
朝だからと、混んでいる気がしたのだが案外そうでもなかった。わざわざ都会へと仕事、学業へと向かう人は少ないんだろうか。俺とグラは空いていた席に座れた。
「グラって本持ってないよな。」
「あぁ、ここだよ。」
そう言ってグラは服をぺらっとめくりお腹とズボンの間に挟まっていた本を見せてくれた。何てとこに入れてやがるんだこいつは。目のやり場に困る。
「どこ入れてんだよ…。」
「いいでしょここ。あんまり無暗に本出しておくと他の能力者に襲われちゃうから。それに手ぶらの方がいいじゃん。戦いやすくて。」
「それもそうか。でもあんま本、人に見せないほうがいいぞ。特に男には。」
「それ博士にも言われたよ。はれんちだって。」
「ハレンチなんて言葉久しぶりに聞いたわ。博士何歳だよ…。」
「35?」
「想像より若い。」
グラの本の色は白だった。俺の本は赤色である。…何か意味があるんだろうか。なんとなく能力のイメージのカラーに似ている気がする。
それと、博士、という人物も気になる。まだ二人しかいない対能力者のチームの一人。きっと強いんだろう…。しかも初めて見る成人した能力者だ。俺はてっきり子供にしか手に入らないもんだと勘違いしていた。
そうして電車に揺られて、ついにジェネシスシティについた。
「じゃーん!ここがジェネシスシティだよ。じゃ、拠点までまっすぐ行くよ!ちゃんと覚えてね。ユラ君が自由に空を飛べるくらい炎の扱いがうまくなったらこうやって電車で来なくてもよくなるんだけどね。」
「精進致す。」
「お、おう?が、がんばれ!」
ジェネシスシティ。思ったより大都会!って訳ではなかった。なんだか普通の町って感じ。でもどことなくハイテクな感じもする。不思議な町だ。
「ジェネシスシティは進化する町なんだってさ。作った人が言ってた。」
「進化する…ねぇ。」
じゃあまだこれが完成形ではないのか。もう十分町としては完成している気がするのだけれども。
グラについていき、歩いていくとなんだか異質な建物が見えてきた。特段大きい建物、という訳ではないのだが明らかに形がおかしい。
「…半球型の建物はもっとこう…未来の物では。」
「博士の趣味なんだって。私は可愛いと思ってる。」
「変な家。」
「ふふっ、それは右に同じく左にイチジクだよ!」
「後半なんて?」
着いた場所は半球型の不思議な建物だった。ここにくるまで、というかここ周辺ですら普通の町ではあったのだがここにきて近未来を感じる。少しわくわくするのが男の子ってやつだ。
「博士ー!ユラ君連れてきたよー!」
「おじゃましま…中普通の家なのかよ。」
入るとよく見る家の玄関が現れた。しかも玄関のくせに広い。なんなんだこのギャップは。これが都会ってやつなんだべか。
「ほらほら、ユラ君。早く入って!もうここを第二の自分の家だと思っていいからさ。…なんなら私ここ住んでるし。」
「そんなに部屋あるのか?」
「地下があってね。そこが広いの。」
玄関を出ると長い廊下、壁にいくつかの部屋がある。そして廊下の行きつく先に明らかにおかしい扉。
「見た目にそぐわない作りしてるよね、この家。この横の部屋は全部地下につながってるの。居住スペースとか…キッチンとか。遊ぶ場所もあるよ!」
「シェアハウスみたいだ。」
「そう思ってもらっていいよ。それじゃ博士のところ行こうか。」
廊下を歩いて突き当りの扉を開くと…階段があった。この家半分以上地下だな。完全に外の外見は趣味なのか。金あるんだな…。
「ここの階段、明るすぎるよね…。電球まで作っちゃうんだもん。才能の無駄遣いだよねほんと。」
「全部博士が?」
「うん。なんてったって博士は天才なんだから。あ、でも一応私が先輩。私が作ったんだよ。この…」
グラはそこで会話を区切り、扉を開く。そこにはなんだかメカメカしいものが大量にあり、世話しなく動いている。そしてその中心の椅子に、その人物はいた。
「ようこそ、ユラ君。私はこの拠点設立者。水仙ドクだ。」
すごいオーラのある人物だった。35歳と聞いて若いと思ったが実際会うとさらに若く感じるほど若かった。
その人物の前に、グラは立ってお辞儀をした。
「じゃあ私も、改めまして。この、対能力者チーム。『ノマド』の創立者。空理グラだよ!」