第一話 開幕と再開 『♠』
第二章は二つの視点で物語が進行していきます。
そのため、わかりやすくするため
Aの視点の場合、その話のタイトルの後に『♠』、
Bの視点の場合、『♧』が書かれます。
できる限りシンプルな展開を進めていくつもりですが、ここらがこの話の本番。
多くの登場人物、出来事が起こるための混乱を減らす措置です。
今後ともよろしくお願いします。
約200年前。この世界に『能力』という非現実的な力が出現しだした。その力を人々は『魔本』と言う物体で操り、ある者は人を助け、ある者は人を殺して、思う存分各々の欲望を満たしていた。世界はたちまちパニックに陥る一歩手前。その時、『最初の能力者』と伝えられてきたある一人の少年が、その絡まっていく紐を見事元の状態へと戻していったのだ。その者は一人ではなく、仲間たちと育ち切る前の悪を抑え、見事平和を守ったと伝えられている。そうして世界は能力と言う異分子が入り込んでも、安定の結末で終わると思われた。
だがしかし、その全ての能力者は能力によって人生を着実に狂わされていた。それは能力者ではない一般人にとって、圧倒的かつ不可解な力を持つ者の人生が狂うとは、すなわち一般人たちへも何かしらの影響があったのだ。よって、能力は当初から、戦争の火種と恐れられてきていたのだが、その恐れが今にも現実になると言われ始めだす。しかし、その恐れは杞憂に終わることになった。ある日、能力者が全員《《消えた》》のだ。
突然、忽然と。
人々は神の天罰だとか、呪いの代償だとか噂を立てること50年。すでに能力そのものを覚えている者も少なくなっていた
ある時…突如、また呪いは浮き立った。人類は学ばす、力を本能のまま、身に委ね行使した。結果混乱は舞い戻り、世界は一時終末の道を歩んでいたと言っても過言ではないだろう。しかし、幸か不幸か、その世界の道筋を正しい方向に曲げ直した英雄が存在した。その英雄は、過去の英雄を真似し、仲間を集めて大きな組織を作った。その組織の名は…
「能魔力管理警備隊。通称魔警って訳さ。わかったかい?マゴ隊員。」
爽やか、という四文字が当てはまる…らしい僕は隣に歩いている比較的背の小さい女性に、長い長い昔話の顛末を伝えた。
「メクルリーダー…その話、私もう4回は聞きましたよ?今なら復唱できそうなくらいです…。」
呆れた表情を禁じ得ないほどの苦痛を受けた女性に、後ろから厳格な態度を取りそうなイメージの男が情けをかけた。
「マゴ、許してやってくれ。メクルは初めて後輩ができたんだ。嬉しいんだよ。」
「だとしても!能力学校で散々聞かされた昔の伝説をこう何度も話されれば腹が立ちますよ!もう!」
「…ごめん。僕が悪かった。」
「そんな顕著に謝らないでくださいよ…こっちが悪者みたいじゃないですか。それよりほら、今回の任務の詳細をもう少し教えてください。」
「そうだね、まだ大まかな話ししかしていなかった。」
僕は本を脇に挟みつつ、電子端末をポケットから取り出した。
この世界は今、能力者にまみれていた。一万人に一人程の割合で、神様は能力と言う力を今から150年前に生み出したのだ。150年前の当時こそ、そこまで能力者の数も少なくも争いが耐えなかったと言うが、今じゃ魔警がその争いの静止役を担っている。すでに能力は管理され、便利だと言えるレベルの物へとなっていた。
けれども便利、と言うからには悪用だってできてしまうもので…。
「今回はマゴのレベルに合わせたからそこまで難しい任務でもない。魔警本部のある町、蒼魔崎のすぐ隣の町に能力を悪用している子供たちがいると言う話だ。子供たちとは言ったが相手は高校生から大学生くらいの年齢だから本気でやるように。あ、でもあまりいたぶり過ぎないようにもね。」
「りょかいです。…けど、なんでそんな簡単そうな任務をわざわざ天下の『雷刀雪』が?」
『雷刀雪』、と言うのは僕たちのチーム名の事だ。初代魔警隊長、魔警創立者は能力による争いを一度収めた。その後、二度と同じことの起きないように、そしてその頃の呪いと言われていた能力のイメージを払拭するためにも、自分たちと同じ本、そして正義の心を持つ能力者を集めた。その結果、思ったよりも集まった能力者たちを、いくつかのチームに分けたのだ。最初、三つほどチームがあったようだが、益々数が増えて行き、今ではこの国だけではない、世界中の魔警隊を数えれば300を超えると言われている。そして、その300のチームの中で今最も勢いがあり、天下とまで言われるチームがある。それが僕たち『雷刀雪』だ。チーム名はそのチームのリーダー。この場合僕だが、そのリーダーが自由に決めていいと言われていて、僕は最初の三人の特徴を表した三つの漢字をシンプルに含んだチーム名にしたのだ。
「それがこのあたりを管理しているチームに欠員が出てしまったようなんだ。お、じゃあここでマゴにクイズを…。」
「問題は、チームとして認められる最低人数は?で、答えは四人。ですよね。」
「はは、メクル。ちゃんとリーダーやってくれよ。」
「ケルト、僕はしっかりやってるさ。この場合、マゴが優秀すぎるんだ。だろ?」
「はぁ…最初は喜んだもんですよ。魔警で二番目に強い剣士、志賀崎《《しがさき》》ケルト先輩。数少ない『属性能力者』の三虎ライ先輩。そしてオールラウンダー、万能と言われた雪原メクルリーダー…。この三人のチームに入れた時は奇跡だと思ったなぁ…。」
「どうして過去形なんだい?僕のチームは素晴らしいじゃないか。」
「まぁ…実力はな。お前は変人だしライは教師と掛け持ち。俺くらいなもんだ、まともなのは。」
「…ケルトさん、刀が研ぎ終わらないとかなんとかで任務を何度さぼったか覚えてないんですか?私が入って三か月、もう五回はありましたよ。」
「いや、六回だ。それにさぼっていない。大切なことだ。」
「さいですか。…ん、リーダー。この倉庫じゃないですか?」
僕たちが魔警本部からいくつかの交通手段を駆使し、ようやくたどり着いた任務先。この大きな倉庫にやんちゃ坊主が多くいると言う話だ。全くどうしてこんな力を、老若男女問わず手に入れられてしまう世界になってしまったんだ。抑止力ができた今、もう昔の事だと笑えるが当時は本当にひどかったようで。そのころの話を上司に聞いたが、それはもう聞くだけでも恐ろしいと思ったもんだ。うちの最強はライだが、そのライですらその時代を生き残れたとは思えないほどに。
「よし…それじゃあリーダー、ぶち破っていいですね?」
「そうだな。今回はマゴに判断を任せよう。なに、心配しなくていい、いざとなれば僕が…。
「動かないでください!能魔警備隊、『雷刀雪』です!」
僕の話を遮り、期待の新人は倉庫のシャッターをその能力で破った。彼女、梨野マゴは争奪戦という変な異名すらつけられるほどに、実力を持っていた。その能力の有能性もあるが飛びぬけた状況判断力に加え、必要以上の運動能力。さらには愛嬌まで抜群と言う警備隊として一番重要な個所すらも合格していた期待の新人なのだ。あんなに謙遜していたがすでに僕のリーダーの座が危ういんじゃない?とライに言われるほどには実力がある。
「『雷刀雪』!?あ、兄貴!やべぇですよ!あの魔警最強のチームが!」
「あぁん…?は、たった三人じゃねぇか。こちとら能力者五人に戦えるやつらが十五人いんだぞ。負けるわけがねぇじゃねぇの!やっちまえ!お前ら!」
倉庫の中は荒れに荒れていた。そして予想よりもいかついやつらが大人数いて、真ん中の如何にもリーダー格なやつが堂々と偉そうに佇んでいた。
「メクルリーダー。なんか強そうなんですけど…。」
「君の能力なら余裕だろう?ほら、僕は見学してるから。」
「全く…ほんと不思議でなりませんよ。外で天下なんて言われてることが…
「おいおい嬢ちゃん!よそ見してていいのか!?」
すでにマゴの近くに、本を持つ能力者らしき男が襲い掛かってきていた。足から煙が出ている…速度系の能力者か?手に持つナイフがマゴに触れそうな、その瞬間。
「ちゃんと見てますから。【スプラッシュ】」
「なっ!?み、みず…がぼぼぼぼ…。」
「ふん…誰が嬢ちゃんですか。とっくに成人してますよ!」
「へぇ、やんじゃねぇか。おい!お前ら!一人ずつやっちまえ!」
「了解でっさー!行くぞお前ら!」
大男の声で、周りの小粒が一気に襲い掛かってきた。見た感じ、本は持っていない。それなのにどうして能力者であるマゴに立ち向かえるか。それは蛮勇ともいえるが、ある一人の人間の発明品によるものともいえた。
「【ファイア・レベル2】!!」
「…2ですか。【スプラッシュ】」
「レベル1の水魔法ごと…き?」
最初に乗り出した男が打ち出す炎は、マゴによる圧倒的な水力でかき消され…
「うわぁああああ!!???」
「情けないですね。」
そのままその水は周りの意気込み、心を燃やしていた何人かを流していった。
「一般魔法なんてもの、天下の『雷刀雪』に効くはずないでしょう。」
「あれ、マゴは前ライに一般魔法だけで負けてなかったかい?」
「あれは卑怯ですよ!あんな人間離れした動き予想できるわけないじゃないですか!」
一般魔法、それは本に選ばれなかった者達への救済処置。魔警の副隊長は独自に能力の原理を研究し、ついには本を持っていない人たちでもとある道具を使うことで疑似的な魔法を使えるようになったのだ。その種類は多種多様だが、基本となる五つが存在し、その五つは人によって使える種類が違う。【ファイア】、【スプラッシュ】、【ダーク】、【ライト】、【ヒール】の五つだ。
ここで、なぜマゴが期待の新人なのかを説明することができる。
「ど…どうしてその女の一般魔法の方が強いんだ?!というかなぜ魔本の方の能力を使わねぇ!」
「ふっふっふ…私は能力を使ってますよ。まとめ役さん。」
「くっ…得体のしれねぇ!気持ちのわりぃやつらだ!おい、お前!その力奮ってやれ!」
「兄貴も一緒にやりましょうよ。」
「良いから行け!」
「あいあい…さ、次は俺とだ。」
今度出てきたのは正真正銘能力者。見た感じは何の能力かはわからないが…。
「【ファイア】【スプラッシュ】【ライト】」
「は?ちょ、待て待て待て待て!!!か、紙こうせ…
前に出たその輩は何かしようとしたみたいだが、その三つの力に圧倒され真価を発揮する前に伸びてしまった。最も、真価と呼ぶに値するほどの力かはわからないが。
これこそがマゴの能力。『五種属適正』だ。一人一種類と制限された五つの一般魔法を、マゴは能力の力でその五つ全て、それも高水準の物を使えるのだ。そもそも、一般魔法はレベル1から10まであるのだが、マゴの火力をレベルで言うのなら…11くらいらしい。本人が言ってた。
「やっぱりマゴを加入させて良かったな。」
「マゴの勧誘に関しては、メクルを素直に褒めることがあると思わなかったよ、俺も。」
「ちっ…もういい!吹き飛べや!」
こっちが談笑しているのが気に食わなかったらしい。ガタイの良い大男は肩から砲弾のようなものを放った。変な能力。
「僕がやろうか?」
「いや、俺でいい。」
ケルトが刀に手を置く。そしたら最後、全ては元々の形は保てない。
「【無流 鬼時雨荒咲】」
太刀筋が残像を残し、変なところから放たれた砲弾は切り刻まれた。もう数少ない無流の使い手。ケルトは学生時代、魔警の№1の剣士に習ったのだ。おかげで今では二番目に強い刀使い。最も、師は超えられなかったようだが。
「ま、まだまだ。俺様にはあと三人の能力者が…」
「マゴ、そっちは終わったかい?」
「はい、みんなスプラッシュしてやりましたよ。」
見てみるとマゴの目の前に水浸しで倒れている見た目だけ強そうな男たちが倒れていた。仕事が早いなー。もうマゴ一人でいいんじゃない?と、言いたいが魔警のルールで任務は三人以上と決められている。仕方ない仕方ない。
「なんなんだよお前ら…!人間じゃねぇ!」
「あれ、最初に自己紹介しなかったかい?」
倉庫に差し込む光をバックに、僕が代表して、改めて名乗った。
「能魔力管理警備隊、『雷刀雪』だ。君たちがとりあえず檻に入るまでの仲だ。最後まで仲良くしようじゃないか。」
すでに今この瞬間は、能力を受け入れ、扱いきった新たな時代へと再開していた。




