正義・其之二
私がきっちりと挨拶をしてみると、ドゥタラ家の長女は呆れた顔でめんどくさがりながらも挨拶を返してくれた。なんだかイメージと少し違うな…。
「どうも。おっしゃる通りわたくしがドゥタラ・ミシェルド・アルバレンタインですわ。まさかこんなところまでお話に来る方がいらっしゃりますとは…少し困りましたわ。ですがフェルバル家の方ですものね。」
「休憩中で?」
「見たらわかりましょう?わたくしああいった場が嫌いですの。騒がしくて…誰も私そのものとは会話してくれない。あくまでもドゥタラ家の長女としてですの。だから疲れましたわ。」
「あぁ…わかります。」
適当言っているわけではない。ほんとにわかる。私と本心から話してくれる者なんてアルタくらいだ。気のしれた友人なんて私にはいないから、ドゥタラ嬢が言っていることがよくわかった。
「適当ですの?どうせあなたも私に何か話が合って…。」
「いや、私はあなたの先のトイレに用があるのですが…。」
私は今さらながら自分がここに来た理由を思い出し、そういうと…
「あ、あら…そうでしたのね。それはどうも申し訳ありませんわ…。」
ドゥタラ嬢は顔を赤らめて伸ばしていた足と背をきゅっと綺麗に整えた。なんだか恥ずかしいもんだが…いやここは大人の余裕を見せねば。堂々と私はトイレへと入っていった。
「ふぅ…。ん?」
用を足してトイレから帰ってきた私を、ドゥタラ嬢が凝視していた。だが帰ってきたことがわかるとすぐに目を背けてしまった。
このまま帰ってもいいのだが…少し興味ができてしまった。多分ここでこの方と話していたほうがまだ楽しめるだろう。気になっていたこともあるし。
「ドゥタラさん。」
「…ミシェルでいいですわ。ドゥタラだと多くいるでしょう?」
「では…ミシェルさん。一度聞いてみたかったのですが。」
「…わたくし、まだあなたをそこまで信用していないのですわ。えーと…クラリタ様?」
「クラリタでいいですよ。そうですね…今ミシェルさん従者いませんよね?」
「見ての通りですわ。お手洗いにと少し抜け出したものですから。」
「私も見てのとおり、今連れている者はいません。なので…一度無礼講という事で、話さないかい?」
私は笑顔でそう言ってみた。なぜか私の笑顔は悪者に見えるとよくアルタに言われるのだが、怖がらせてないだろか。
すると、ミシェルさんも笑顔で返してくれた。ただし、敬語は外せないようだ。
「…ふふっ、クラリタ様はどこか、変なお方ですわね。いいですわよ。無礼講。わたくしその言葉好きですわ。」
「それはよかった。ではぜひ、敬称を略してください。クラリタ様だなんて、無礼講には相応しくないから。」
「…それでは、あなたも私はミシェルと、呼び捨ててもらって構いませんわよ。…クラリタ。」
そうして、大人の嫌な思惑が飛び交う様々なものに縛られた会場の横で二人きりの何も気にすることのない、自由な会話が始まった。
「何を聞きたいんですの?」
「あぁ、そうだった。ドゥタラ家ってもう長く続いてきているだろう?」
「そうですわね。三百…何年でしたかしら。よくはわたくしも知りませんわ。」
「そうそう、長いんだよ。それでどうしてそんな長く続いているのに、長女がこんなに幼いんだろなって。」
長女、という事はその名の通り一番年上の娘という事だろう。確かにドゥタラ家と言うのはドゥタラ一族の者だけで構成されているわけではない。ドゥタラ家から派生した多くの家系が支えているからだ。だがどうも…違和感だった。それにドゥタラ家はいつでも長女が次の長となると聞いている。私達フェルバル家とは違うその事実に私は疑問だった。ちなみに私達フェルバル家は性別年齢関係なく十年おきに一番優秀だったものが投票によって決まる。今のところ私が人気的に一位らしい困ったものだ。ちょっと手を抜こう。
「あぁ…確かに不思議かもしれませんわね。ドゥタラ家は少々めんどくさいのですわ。一つルールとしてドゥタラ家の看板はいつでも女と決まっているんですの。」
「へぇ…なんでだい?」
「なんでも、女性が一番強い種族だとかいう理由で。バカバカしいですわよね。結局一族をまとめているのはその看板の夫ですもの。…つまりは私のお父様という事になるんですけど。」
「なるほど、長女ってのはその長の一番娘…結構単純な話だったな。」
「あら、つまらなかったですか?」
「いやいや、あっちの会場での会話よりよっぽど面白かった。」
「それはよかったですわ。…フェルバル家はどういった基準で決めているんですの?」
「リーダーみたいなものをかい?」
「そうですわ。」
「フェルバル家はね…十年おきに、一番業績を出したものがその次の十年間のフェルバル家の家運を握ることになるんだよ。性別も年齢も関係なくね。」
「まぁ、それはいいですわね。わたくしも生まれてくるならフェルバル家が良かったですわ。」
「いやぁ…それはどうかな。こっちは女性に厳しい風潮があるから。」
「それは変わらないですわよ。表ではわたくしの母上もちやほやされてますが…裏では酷い物ですわ。」
「そうなのかい?私は美人な人だと思うけどね。」
「頭がポンなんですわ。」
「おぉ、中々攻めたことを…。」
「ふふっ、ドゥタラ家の女は馬鹿にはされますが、いざという時は強いんですのよ。」
そんな感じで、私はミシェルさんとかなりの時間話し合った。生まれて初めて、時間が流れていくことを惜しく感じ…いや、毎朝起きる瞬間もそうか。




