第六話 日常
どうやら空理グラは俺の能力を奪いに来たのではなく俺を仲間にしに来たらしい。なんでその発想に俺達は至らなかったんだ?
「はっはっはっは!真、お前泣いてたのか?!」
「笑うな、捻るよ。」
「怖い怖い。」
現在俺、真、冬矢、そして空理グラは俺の家、俺の部屋にいる。あんなことがあったのだ。今日はもちろん学校は休校。今でもまだパトカーと警察がうろついているだろう。幸いけが人が数人いただけで大事にはならなかった。犯人のあの穴を作り出す能力者も本を空理グラが奪ったことによってただの一般人。あとの事はおまわりさんに任せておけば大丈夫だろう。
「悪いな、騒がしいやつらで。」
「ううん、いいよ。全然。このクッキーおいしいし。」
「それは関係ない気がするが。」
空理グラは行儀の良いやつだった。今だって正座しながら喧嘩してる真と冬矢をクッキーかじりつつ眺めて笑ってる。こんな良いやつの空理グラとあの学校を襲ったやつを同じに考えるなんて俺も失礼なことをしたものだ。
「おい、真、冬矢。いい加減落ち着け。」
「だってよ!ユラ!捻ってくるんだ!」
「何をなんだ…怖すぎる。」
「私泣いてないから」
「泣いてたじゃんか。俺の前で。」
「ユラも捻るよ。」
「ごめんなさい。」
「わかればいい。」
相変わらず最終的な俺達幼馴染組の主導権は真が握っている。女性って最強の種だろ。神様パワーバランスどうなってんだ。
「それで、空理グラさん。うちのユラを仲間にしたいってどういうこと?」
「いつお前のになったんだ俺は。」
「今。」
「あっはっは!ほんとに君たち面白いね。あ、ユラ君お茶ありがと。」
お茶を一口飲んで、一息ついてから空理グラは話し出す。
「私と、もう一人で今ね、対能力者のチームを作ってる途中なの。」
「対能力者の…チーム。」
また今日のような一般人からはどうしようもない能力者が引き起こす事件を解決する組合、と言ったところだろうか。確かのこの先の世の中に必要なものだ。能力を悪に使用する者たちは必ず現れる。そんなとき善の能力者が集まったチームなんてものがあれば憂いなしだ。
「もう一人ってことは空理グラさん以外にももう一人能力者がいるの?」
「うん、博士って言う人がいるよ。まだ二人しかいないんだけど…それでも、きっと人の役に立つチームになる!学校の事は謝るよ。間に合わなくてごめん。ほかの場所で銀行強盗があってさ。」
なんだその間に合わなかった理由。今度待ち合わせの時にでも使おうかな。
「…グラって呼び捨ててもいいか?」
「もちろん。」
「学校の件、グラが悪いわけでは決してない。それにこの広い国を一人で全部見るなんてこと無理だろうよ。」
「でしょ?だからやっぱり私のチームに来てくれると助かるんだけどなぁ…」
俺は少し考えて、真と冬矢の方をみる。まだ少し悩んでいるんだ。この日常を捨てることに。そんな俺の心境を二人はお見通しのようだった。
「俺はユラがそのチームに行くことは賛成だぜ。」
「私も。…ねぇグラさん。ユラがそのチームに行ったらもう私たちの所には戻ってこなくなるの?」
「そんなことないよ!事件がない時は日常を過ごしてもらって全然かまわない…んだけど。このところ能力者関連の事件が多すぎて多分難しいとは思う。でも全然縛り付ける気はないから。それだけは言っとくね。」
「じゃ学校はやめたら。で暇なときに私たちに会いに来て。」
「だな!それが良い!」
「なんか薄情なやつら…。」
「そう?私はユラはそう言った生き方の方が合ってると思うよ。確かになんにもなかった日常も悪くない。でもユラ、つまらなそうだったから。」
そんな風に俺は見えてたのか。確かに本を見つけてから俺の人生に何か色がついたような感覚があった。真の言う通りなのかもしれない。
「でも冬矢はなんで賛成?止めると思ってた。」
「そりゃ会いにくくなったり、ユラが危険なことに巻き込まれるのは嫌だぜ?でも俺は俺の友達に自慢したい!いつかニュースで報道されるユラをな!あいつ、俺の友達なんだぜって。…だからよ、ユラ。俺のわがままで、お前に人を救ってほしいんだ。」
「冬矢…お前たまにいいこと言うよな。」
「たまには余計だ。」
その様子をグラはにっこにこしながら見ている。
「そんなに微笑ましいか?」
「あ、気分を悪くしたならごめんね。でも私は…その…仲間っていうものが今までなかったから。この能力で、なんだか不可抗力的にできたけど。」
グラにもグラの何か過去があるんだろう。俺が両親を亡くしたように。この本は日常に面白さを、色どりを忘れたものが手に入るものなのかもしれない。
その時、俺の隣に座っていた真がグラの方に寄って、グラを抱きしめた。
「んぇ?!」
「グラさん、ユラをお願いね。この馬鹿は自分の事を考えすぎてるようで、実は誰よりも周りの事を考えてる人だから。たまに無茶するかもしれないけど止めてあげて」
「…わかった、真ちゃんの気持ち、確かに受け取った!」
「ちゃんはいらない。」
「…!うん!」
グラの笑顔はその時が最高だったように思える。やっぱかわいい。と空気にそぐわない事を考えてしまった。真が抱きしめている間、その後、なにやら真に耳打ちで話していたようだったがその時の真の面白そうな表情と顔の赤くなった真が気になった。
「なぁ冬矢、あいつら何話してんだ?」
「お前鈍感だからなぁ…。」
「冬矢に言われたくない!」
「これに関してはお前に一番言われたくないぞ!?」
そうして女の子同士の会話は終わったのか真が戻ってきた。
「ユラ、ちゃんとたまにでいいから戻ってきてね。」
「おう?」
「あはは!…それじゃあユラ君。一応確認だけど。私たちの仲間になってくれるんだよね?」
「あぁ、決めたよ。」
「わかった。明日の朝迎えに来るよ。それまでに準備しといてね。」
「グラはこれからどうするんだ?」
「私は一旦拠点に戻るよ。『ジェネシスシティ』ってわかる?」
「あの…大都会の新しい街か?」
ジェネシスシティ。ほんの数年前にできた新しい街。個人的にはなんかすごいものができたんだなぁくらいだった。めちゃくちゃ高い建物がわんさかあるイメージ。
「そこに拠点があるの。ここからちょっと遠いけどね。」
グラはお茶を飲み干して、立ち上がった。もうここを出ていくのだろう。
俺たちはグラと玄関まで歩いた。
「いやぁ、わざわざ来てよかったよ。あの記事をみてピーンときてね。」
「やっぱりあの記事からだったんだ…。」
「うん。これからユラ君を追いかけるマスコミやファンが増えるかもね。」
「ありえん。」
「ユラがファンから歓声浴びてるの見てみたい。」
「真、俺をバカにしてるだろ。」
「ばれた?」
「ユラ、真はいつまで経ってもこういうやつなんだよ。」
「冬矢…お前だけだ俺の親友は。」
「…」
「もちろん真もだ、なぁ?冬矢そうだろ?」
「おう当たり前だ真を仲間外れにするわけないだろ?」
「あっはっは、君たちほんとに仲いいね。」
グラは靴を履いてもう俺の家の前で空中に浮かび上がってる。便利な能力だがどういった能力なのだろうか?俺はあんなに安定して空を飛べない。
「それじゃあまた明日。じゃあねー!」
グラはそう言って飛んで行ってしまった。明日はあれにくっついて飛んでいくのだろうか。とんでもない恐怖体験になりそうだ。
「よし…まぁこの家をどうとかする必要はないだろう。」
「帰ってくる場所は欲しいもんね。じゃあ今日は…」
「パーティだな!」
「だな!」
「そうね、珍しく三人。意見が合った。」
その日は三人で遊び、ご飯を食べ、なんだかんだ二人とも俺の家にまた泊まっていくことになった。最後まで俺は自分のベットで寝ることはできないらしい。
「なんで明日門出っていうのに俺は床なんだ。」
「俺は下のソファで寝かせてもらうぞー。」
「冬矢はソファから落ちて結局床で寝てるじゃん。朝起きて見たらいつも変な体勢で。あれ体痛くないの?」
「やわらかいからな!体!」
笑いながら冬矢は下に降りていった。愉快なやつだよほんと。
俺はいつものように部屋に布団を敷く。この布団薄いんだよなぁ…。
だからと言って新しいものを買おうとしないのが俺クオリティである。ただただめんどくさいだけ。
「じゃユラ、おやすみ。」
「おう、いつものように俺のベッドで寝な!」
「何怒ってるの…。」
そうして電気を消して、俺は布団に入り、天井を見ながら考える。もうこうやって三人で同じ屋根の下寝ることも、たまに真と一緒に登校することも少なくなるんだろうか。実は全部俺の夢で、また明日から普通の、いつも通りの、色どりのない日常に戻ってるんじゃないだろうか。そのことに少し残念な気持ちがあった。俺はもうこの本を手放したくないんだと実感する。
それと同時に、三人での日常も手放したくないという気持ちもあった。俺はわがままだな。
「…ユラ、まだ起きてる?」
「一分じゃさすがに寝れない。」
「そう、じゃちょっと話さない?」
「いいぞ。」
「私さ、本音を言えばユラには危険な目にあってほしくない。だからそのチームには行ってほしくない。」
「俺も危険な目にあいたくない。」
「黙って聞いて。」
「一方通行な会話って矛盾してねぇか…。」
「…ずっとこうやって話してたい。なんにもない日常を過ごしていたかった。」
「…別にもう戻ってこないわけじゃないぞ。」
「そうかもしれないけどさ。」
その時、真の声が近づいてくるのがわかった。
「お前何し…」
「うわ、こんなので寝てたの?なんかごめん。」
真が俺の布団に潜り込んできていた。さすがに狭い。
「あのベットもらっていいか。」
「だめ。今日だけ、一緒に寝たい。」
「…狭い。」
「おやすみ。」
「はぁ…」
気づいたらなんだか気持ちが楽になってた。なんだよ俺、不安だったのか。明日からの非日常に俺はおびえていたようだ。真が隣にいるだけで安心する。ちょろいやつだな俺も。
そこで俺は眠りについた。疲れがたまっていたのだろう。明日からの毎日が、楽しくあること願うばかりだ。
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「ユラは…もう寝たの?」
私はユラの隣でパニックだった。なんで寝れるの?私女の子だよね?あーもう…鈍感なこの人に恋をした私も私だがこんなことってあるのか。
結局最後までこの思いを伝えることはなかった。だって三人の関係にひびが入ると思ったから。でも決してそんなことはないのだ。だって冬矢は私の気持ちはわかっていただろうし、そのうえで応援してくれていたのだ。いつもは馬鹿やっているが冬矢は一番私たちの事をよくわかっている。ユラに出会う前から冬矢はこうだった。空気を読むのがうまいのだ。
「私、頑張ったんだけどなぁ…。」
グラさんに「ユラ君はとらないから。」と言われてどっきりしてしまった。そんなに私わかりやすいの?初対面のグラさんにバレるくらい?それなのに…
私は少し起き上がってユラの顔を見る。
「なんで気づかないの…ばか。」
もうヤケクソになって私はまた横になって寝た…かった。
「…寝れない…」