空理・其之三
私は現在めちゃくちゃ絶好調だった。こうなったらいいのにな、という私の個人的な妄想が現実になったのだ。事の顛末はこう。
ある日、私はお父さんの付き添いでお偉いさんの集まるパーティー的なとこに行くことになった。滅多に私はお父さんの仕事上の付き添いなんかついて行かないのだが、美味しいものが食べれるという言葉にほいほいとついて行ったのだ。お父さんがこうして何かしら本心を隠して私を誘う事もかなり珍しいので、私はその嘘に付き合ってあげた。…と言う気持ち半分、食欲半分。
「…なるほど。」
「許せ。俺だって嫌だったよ。」
「そう…。まぁたまにはお父さんを慕う優しい親孝行な娘を演じてあげますよ。」
「助かる。」
その会場にはお偉いさん+そのお偉いさんの息子さん、娘さんが付き添っていたのだった。目的は自慢+お見合いまがい。まぁ、結局何考えてるかわからない国を引っ張るお方も親バカって事なんだろうか。
「とりあえず俺のそばから離れるなよ。」
「美味い。」
「もう食ってんのかよ…。別にいいが。良いのか?たまのこしチャンス。」
「それ親が子に言う?」
「言うだろ、ラクさせてくれ。」
「情けない…ほら、これ美味しい。」
「ホントだうめぇ。」
私は仕事面のお父さん横目にとにかく食いまくった。いや別に家でそんな美味しくないもの食べてたり食べたりなかったりしているわけではない。なんか舌鼓を打ちたい気分だった。食べている間、それはいろんな子たちに話しかけられた。お父さん結構顔広いから私の存在もまぁまぁ珍しいのだろう。
「おや、空理さんの娘さんですか?」
「はい、そうです。」
「明月さんから話はよく聞いておりますよ。利口で頭もよく人づきあいがとてもお上手だとか。週末はとお友達とスポーツを嗜まれるとか。」
どこのお嬢様だ。
「…はい、そうですね。その通りです。父には感謝していますホント。」
「はっはっは、本当によくできた娘さんですね。明月さんも鼻が高いででしょう?」
「え、えぇまぁ。そうですね。ははっ…。」
まぁ、お父さんが私の事を本当に大切に思ってくれてることがわかったから良しとするか。少し、いやもうほとんど別人レベルで誇張されているが。
「ふぅ…食べた食べた。」
「グラ、今日はありがとな。上司に言われて断れなくてよ…。」
「いいよ。私も美味しい物たらふく食べたから。」
今は会場のお店から外に出て、二人して休憩中である。私がいないとお父さんはすぐ煙草を吸いだすので防止のため一緒にいる。
「なぁ、グラよ。あれから能力はどうだ。」
「ばっちり。ただお披露目の場所がないのが残念かな。」
「一生なくていいんだがな…。」
そんな感じで話していると、一人会場からふくよかな男性が出てきた。煙草を吸える場所を探しているのだろうか。
私が興味もなく、かといって考えることもないのでぼんやりとその人を眺め、乾いた目を潤した瞬間だった。
「静かにしろ。」
「むぐっ…!?だ、だれ…」
突然五人の真っ黒い服に身を包んだ男たちが現れた。一人はそのふくよかな男性の口にハンカチを当て、刃物を突き立てている。残りの二人は会場へ、もう二人は…
「おい、お前らも黙ってつかまってもらうぞ!」
「なんだなんだ!?」
何が目的かわからないけど…とりあえず敵意はある。
どうやらお披露目会の機会は割と早く来たようだ。
「お父さん、中の人達に知らせてきて。」
「…おい、グラ。まさかお前。」
「良いから。」
こんな時でも、お父さんはきっと私の意見を尊重してお偉いさん方の所へ行ってくれるんだろうなと思った。けれど…
「バカ野郎。娘置いて逃げる父がいるか。」
「…馬鹿はどっち。」
「余裕だな!少し寝てもら…。」
「それはこっちのセリフ。」
私は一分も経たず、空圧で五人ともを制圧した。突然見えない力で上から押し付けられらり、吹き飛ばされたり。男たちは何が起きたかすらもわからず倒れて行った。
このことはすぐに国の上の人達に広まった。何せこの会場には国を支える人が多くいたのだから、仕方ない。私は危険人物として処罰されるのかなと、少し残念に思った。
…私がその意見をまっすぐから受け入れると思ったら大間違いだ。
私は頭の固い人たちの意見が決まる前に、お父さんの力を借りて直談判をしに行った。もちろん、この力を認めてもらうため。人を助けたいのだ。大人は綺麗事だと、机上の空論だと言うのだとわかってはいた。
けれども私は抗うことにした。それが若者の特権なのだから。
「私のような能力者は今後も現れます!善人ならいいですがその中にはきっと悪人もいるでしょう。その時、警察や自衛隊では相手になりません。ですから、そういう事が起きた時、対能力者組織は必要でしょう?」
的なプレゼンをしてきてみた。すると…
「グラ、我が娘ながらお前の行動力をたまに恐ろしく思うぜ…。まさかちゃんと対能力者軍団としての立場を勝ち取るとは…。」
「え、ほんとに通ったんだ…。」
結果、私は政府公認の対能力者組織の創設者となった。この歳で意味の分からない称号を手に入れたものだ。能力なんて存在認められるかどうか半分賭けだったのだがこんな女の子が五人もの男をのめしたという事実と、お父さんの存在がでかいのだろう。感謝感謝。
だが、うまく行ったのはここまでだった。
「ただし条件付きだ。」
「聞く。」
「一か月以内にグラも含めメンバーを三人以上にしろ、だと。」
「…無理。」
「いやここまで来たら頑張れよ。俺も全力で協力してやるから。」
能力者探しか…見つけること自体はそこまで難しくはないだろう。だが問題はチームに入ってくれるのかという事だ。こんな力を手に入れてわざわざ人のためになりたいなんて言うものの方が私的には少ないと思う。いや私が言っては元も子もないのだけども。
「はぁ…事態は困難を極めますなぁ。」
「どっから学んだんだそのしゃべり方。とりあえず俺の部下とか知り合いにそれっぽい人がいないか探し…。」
そうお父さんが言った瞬間だった。お父さんのスマホがブルブルと揺れ出す。
「はい、空理ですが…。え?研究所をいきなり水浸しにして追放された人間がいる?なんでそれを俺に…あ、なるほど。助かります。じゃあ詳しい事は…あ、メールで。了解です。それじゃ。」
どうやら神様は私に両手を差し伸べてくれているようだ。




