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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第五話 決意

 冬矢からの電話で、俺と真は学校へと走っていた。遅刻でもないのにこうして朝から学校へと走るのはなんだか不本意だ。それでも急がなければいけない。近頃、能力関連の話が多く出ている。つまりは…学校での騒ぎもきっと能力者によるものだと予想できる。

 そしてその予想は図らずも的中してしまった。


「なんだあれ…?!」

「穴…?」


 学校に着くと大騒ぎが起きていた。叫び声、パトカーのサイレン。よくは見えないが逃げ惑う人。だが近づくことができない。学校をぐるっと囲むように底の見えない謎の穴ができていたのだ。これじゃあ中には…。


「いったい何が起きてるんだ…。」

「とりあえずユラ、炎で…

「そこの君たち!ここから離れなさい!」


 呼びかけられた方を見ると警察がいた。誰かが呼んだのか。周りを見ると俺たちのような野次馬が何人かいた。中には同じく学校に登校しようとし、来ている生徒も多くいる。


「真、とりあえず一旦離れよう。」

「でもユラ!周りを探したけど冬矢がいない!」

「マジか…てことは学校の中…」


 まだ学校が始まるには時間が早い。そんな大勢が校舎にいるとは思えない。てか能力者自体どこに?校門の奥の方を目を凝らしてみると一人、明らかに異質な恰好をしている男を見つけた。高笑いしている。この状況を楽しんでいるのか?そんなことより俺はそいつの手から目を離せなかった。…手には本が握られていた。


「真、見ろ。」

「え?…あれは、魔本…。ユラの居場所がバレたからここに?」

「可能性はあるかもしれない。この騒ぎも俺のせい…。」


 くそっ、どうしてもっと早く考えられなかった。俺個人をこそこそと狙う必要もない。手当たり次第人の多い場所を襲えばいいじゃないか。能力者は、一般人と違って目立つのだから。


「ユラ、早く冬矢を!本は持ってるでしょ!?」

「わかってるが…!」


 心の準備、なんてもの今すぐすっ飛ばしたい。だがそう簡単に体が動いてくれない。人を…傷つけるのだ。一度やれば歯止めは効かない。この日常からも離れることになる。それだけは嫌だった。真と冬矢と、バカやってる毎日を手放したくなかった。


「俺には…」


 頭に手を当て、悩む。だが所詮悩んでやりすごそうとしてるだけだ。何をしたらいいかなんて決めたくない。こうしている間にもあの能力者はどこかにいってくれるかもしれない。誰か勇気あるものが動くかもしれない。そんなたられば、己が動くことですべて叶うというのに。


「ユラ!前を見て!」

「…!」

「ユラの両親は…殺された…。それはわかってる。だからユラは…君は誰も傷つけず逃げる人生を選んだ。両親のために長く生きるために。でも今、この瞬間を逃せばまた後悔を重ねることになる!」

「…俺にできるのか…。この炎でほかの人を…」


 俺の両親がいない理由、そして俺が逃げることを人生の目的にした理由。それは数年前に殺人鬼に殺害されたからだった。狙われた理由はない。完全なる愉快犯。そんな時俺を支えてくれたのは真と冬矢だった。


 その時、学校からまた叫び声が聞こえてくる。もう何人残っているか…。それに全員穴に落とされてしまえば次はこっちのみんなに標的を変えるだろう。聞こえてくる嘲るような笑いすらも、俺の心は燃えなかった。

 あぁ…だめだ。これだから俺はダメなのだ。肝心なところで何もできない。準備しても、どれだけ用意周到でも、言い訳を考える。楽しいことばかりに目を向けて…一人じゃ何もできない。隣に冬矢がいて、一緒に行こう、なんて言われれば…。いやこれも言い訳。

 自分に嫌気がさしているのに動かない自分を恨んでいる。

 そんなときだった。


「…っ!?」

「ねぇ…」


 真が俺の頬を勢いよく叩いた。


「ユラ。…違うね。能力者さん…もなんかあの穴を作ってるやつと同じみたいでいやだな…。じゃあ…魔法使いさん…なんて良いかな。響きが良い。」


 真は横ばかり見る俺をまっすぐ見つめる。


「魔法使いさん、私の親友を助けて。」


 真は涙を流して俺に訴えた。いや、こんな意気地なしの俺にではない。あくまでも魔法使いさんとやらにだ。

 俺じゃないなら、動ける。そうだろ。


「…やってやろうじゃないか。日常を代償に涙を流す女の子を救えるなら。本望だ。」


 俺は地面に置いた鞄から本を取り出し、走り出す。

 俺はなるんだ。人を助ける魔法使いに。最初の、魔法使いに。


「俺はもう…逃げない!!!」


 俺は警察の事も周りの人目も気にせず走り、大きな穴を足から炎を出してなんとか飛びきった。できるなら安定した着地もしたかったが。


「ぉおおお!…げふっ。」


 痛い、が慣れている。もう何度地面に激突したことか。

 俺は用心しつつ学校の門を走り通る。こんな急いで学校に向かうのは初めてだ。

 すぐに俺は会えた。この騒ぎの中心に。


「お前が…この穴を作り出してるんだな?」

「あぁ…?なんだお前。誰だよ。」


 見た目は中学生…だからと言って警戒を怠ることはない。能力はなんとなくわかっているが何が起こるかわからないのだから。周りを見るといくつも大きな穴ができていた。これがこいつの能力…。穴を作り出せるのか。地味に見えるがこんなのがいきなり足元にできたら逃げられないだろう。奥を見るとおびえてへたり込んでいる者。逃げようと目を凝らしている者。助けを乞う者。11人。冬矢は…。


「ユラ!すまねぇ…俺じゃ10人しか救えなかった。」

「十分すぎるだろ、何もんだお前。ちょっとそこで待っとけ。あとは俺が何とかする。」


 俺はソイツに向き直す。


「ようよう、俺を置いてけぼりに話を進めてんじゃねぇっての。まず何?誰なの?てか学校入れない…」


 そいつはようやく俺の手にあるものに気付いたようだ。


「はぁあああ…やっと見つけたぜ…。ヒーロー気取り君。」

「ヒーローだろ。この状況俺は。」

「それもそうだな。自意識過剰君。」


 バカでかい溜息をしてから俺を見る目が変わった。飢えて食料を探す目ではない。肥えたものが己の欲望を抑えず宝を探す目に。


「一応聞きてぇんだが、能力譲ってくれたりすんのか?」

「それでこの場から離れてくれるなら考える。」

「それはねぇな。暴れ続ける。」

「そりゃそうか。」


 こんなやつだが結構真面目だな。嘘をつく気がない。俺を下に見ているのだろう。

 かなり能力に自信があるようだ。


「それじゃあはい、落ちてねー。」

「なっ!?」


 突然俺の足元に穴ができる。底は見えない、深淵だ。


「くっ!」

「炎…?」


 俺はとっさに足から炎を出して浮く。機動力はまだまだだがあいつの攻撃を避けるくらいなら十分だ。


「羨ましいぜ、その能力。まさにヒーローじゃねぇか。」

「そんな減らず口、叩いてられるのか!」


 俺はそいつに向かって炎を放った。かなり安定して撃てている…が、届くことはなかった。


「ふん…やっぱこの程度か」

「なっ?!後ろから…俺の炎!?」


 俺が放った火炎放射はそいつの目の前に現れた穴に吸われ、俺の後ろに出現した穴から放射された。この穴、ワープゲートみたいにつながっているのか!?

 だが俺の炎は俺には効かない。最初からわかっていたことだ。


「効かないのか。そっかー…」


 そう言ってそいつは後ろにいる生徒や先生たちの方をみた。その行動が何を意味してるかはすぐにわかる。つぎは後ろのやつらに炎が行くぞ、って意味だ。


「汚いやつだな…。」

「そりゃどうも。…てか俺もうツカレタ。さっさと終わらせるから。」


 そいつが空を殴ったと思うとその拳は俺の目の前から現れた。


「がはっ…!」

「お、意外と鍛えてるんだな。」


 俺は人生初の暴力をくらって悶絶する。痛すぎる…!能力を使い慣れすぎだろ…!どうやってあいつに勝つ!?俺は炎を放つこともできない…どうすれば…。


「ユラ!ブーストを使え!俺が言った方もだ!」

「冬矢!?」


 大声で俺の方へと声をかける。そうだあれなら炎を放つことはない!


「ブーストで一気にやっちまえ!」

「こいつ…最後の最後まで邪魔しやがって…おら!なんで一人で10人見てられんだよ!!!」

「うぉっあぶねぇ?!もうお前の技は見切った!」

「何回みても二回ジャンプしてるようにしか見えねぇ…。あいつ人間か?」

「俺もそう思う。」

「あん!?!?」


 俺はそいつが冬矢に気を取られている間に炎を噴射して一気に近づいていた。これは冬矢と一緒に考えた技の一つ。【ブースト】。単純に速度を上げて移動するだけ。と俺は考えていたが冬矢はさらに俺の上に行った。


「おらぁあああ!!!腕だけ【ブースト】パンチ!」

「名前ダぐはあぁああ!!!」


 そいつは俺の拳をもろに、できるだけ体の中心を狙って殴ったからか漫画でしか見ないくらいに飛んでいった。それは綺麗に。


「はぁ…はぁ…いっ……てぇ!」


 腕にだけ炎をまとって速度を上げるのでもちろん体が引き裂かれるように痛い。これは改善の余地ありだ…。

 だがとりあえずは…


「俺の…勝ち…か?」


 その瞬間だった。目の前の冬矢、冬矢が守った10人。そして校門の方から大声が聞こえてくる。これはさっきまでの逃げるような叫び声じゃない。だれかをたたえる、凱旋の声だ。


「ユラ!!よくやった!すごいぞお前!すごいすごい!」

「お前の語彙力の方がすごいよ」


 すると俺の後ろから何かがとんでもない勢いで突撃してきた。

 真だった。

 穴が消えたのか。あいつの意識が落ちたからだろうか。


「ゆぅらぁああ…」

「おい顔、すごい事になってる。」

「ユラがすごいの!」

「俺かよ?!」


 何にせよ…あいつを止められて…。いや待て、俺が来るより前に穴に落ちた人はどこへ…?辺りを見ると多くあった穴は消え、倒れこむ生徒がいた。俺は近づいて生死を確認する。


「生きてる…!でも病院には行かせなきゃ。真!」

「もう呼んだ。ユラも休…」


 真を遮って警察官が俺の前に立つ。まぁこうなるか。ヒーローは見方によって変わるのだから。俺は警察の前に立ち、半ばあきらめた顔で立つ。このまま俺どうなるんだろうなぁ…。


「すまないが、ちょっと署へ…」

「だーめ!すとっぷ!」


 真を遮った警察官をさらに遮った女の子が突然空から降ってきた。

 親方!空から!ってこのシチュエーション…

 思い立ってその子をよく見ると、あの子、空理グラだった。


「誰だ君は!」

「私は空理グラ。はいこれ見て。」

「なんだってんだこれが…。」


 警察は空理グラに渡された紙を見て、青ざめた。


「も、申し訳ありません。失礼しました。まさかあなたとは思わず…。」

「いいよ。救急車来るまでけが人見て。あと今回の犯人から本は取り上げてるから。ほら。だからあのへんな穴はもう作れないはずだよ。」

「は、はぁ…?とりあえずわかりました。では。」


 警察は能力についてはよく知らないようだ。だがこの女の子が警察にとって何かしらの立場であることは間違いのだろう。

 気づいたら俺の後ろに真がくっついてた。


「ユラ、逃げよう。」

「賛成。」


 そうして俺はその場から離れようとしたが…


「がへっ」

「ダメか…」

「だめだよ!」


 目の前に見えない壁でもあるかのように俺は宙に顔をぶつけた。

 空理グラの仕業だろう。


「ちょっとちょっと、ユラ君!」

「はいなんでしょう。私、朝芽ですが。」

「はいなんでしょうって言ってるじゃん!?」


 俺の前に立ちふさがる空理グラ。完全に後ろの真が威嚇してるのがわかる。これは能力だなもう。長年一緒にいたため身に着いた能力である。


「おいおいおい、ユラと話すならこの俺。朝芽冬矢を通してもらわねぇとな!」

「君に用はないよ?」

「誰だお前。」

「おいおいおい、ユラ。それはひどいぞ。」


 冬矢と真が俺の事を守ってくれていることが嬉しかった。

 流石にここからもう一戦はいやだ。助けてくれたんだか面倒を重ねたくなかったのかわからないが空理グラから逃げねば…。


「ねぇーユラくーん!私に嘘ついてたくせに逃げるのー?」

「うっ…」


 そうだ能力なんて知らない的なこと言ったんだった…。


「グラだか蔵だか知らねぇがユラを傷つけさせないぞ!」

「そうだそうだ、言え言えー」

「真、棒読みすぎない?」

「え私ユラ君倒しに来たんじゃないんだけど。」

「え?」

「え?」


 違うのか?じゃあ何しに?


「私、ユラ君を仲間にしに来たんだけど…。」


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