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《最初の魔法使い》 REMAKE  作者: コトワリ
第一章 最初の魔法使い
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第五十五話 抵抗

 「全員左右に全力で走れ!!!」


俺は声を後ろに届け、手は目の前に広がる光へと向けた。この光が攻撃なのか能力者本人なのかはわからないが、どちらにせよ俺の対応は一つに限られている。


「【瞬間固定】!」


俺はクラリタから手に入れた固定の能力で光を止めた。ただし、一瞬。その一瞬で俺は仲間たちならどうにかできると信じていた。


「ユラ、下がれ。」


俺を後ろに押しつつ博士が前に出た。【瞬間固定】の効力はわずか一秒。すぐに光線は動き出し、またも俺達を消し炭にかかるが…光は屈折した。


「よっ…と!!」


博士は空中に光線の大きさほどの水を作り出し、上手く光線を上方向に逸れたがかなりギリギリだった。もう少しで博士にかするくらい。


「博士、大丈夫か?」

「あぁ。上手くいかないものだな、初めてやることと言うのは。それで…あいつが光の襲撃者ってとこなのか?」


視線の先には大柄で肌が日焼けしてこげ茶になっており、グラサンをかけている明らかに不審者みたいなやつがいた。


「みなさーん、避難してくださーい!危ないのでー!!アム、誘導してきて。」

「任せろ。シロ、ミシェルさんをちゃんと見とけよ!」

「らじゃ」


『ノマド』メンバーはすぐに行動しだす。ミシェルさんは震えながらヘルターさんとシロの後ろの隠れていた。


「ユラ様!水仙様!」

「スマラスさん、そっちは大丈夫だったか?」

「はい、お二方のおかげでお嬢様も無事です。あの男が…お嬢様の命を狙う者ですね。」


スマラスさんがその男を睨みつけると、やれやれと腕を動かす大男。背の高さはアムと同じくらいか?だが姿を現すとはおもわなかった。今までの行動はちょっかいだけ出して姿を眩ませていたというのに今回は堂々と俺たちの前に現れる。


「ふっふっふっふ…笑いが止まらねぇ、止まらねぇなぁ!」

「どうして悪人ってのは毎回イかれた登場の仕方すんだ…。お前は何者だ。」

「イかれてるから悪人なんだよ!斎月ユラ!俺の名は龍光ウセル!お前らの能力をもらいに来たぜ。」


かっけぇ名前しやがって…。『光』ってのは善人の為の物じゃなかったのかよ。


「…理由は。」

「もちろんあるが…お前らにわざわざ話す必要はねぇなぁ…。そうだなーそれじゃあ…。」


ウセルが顎に手を当て、考えるそぶりをした瞬間。


「【狼化】!」

「【レベル2】!!」


俺の横をアムと、赤と黒い色の毛並みをした狼が猛スピードで過ぎ去っていった。

あの狼…スマラスさんか!?


「はぁああ!!」

「先手必勝だ!」

「遅すぎるぜ。カップラーメンができちまう。」


目で追える速度は当に超えている二人の攻撃を、その男は一瞬にして避けた。移動の瞬間が、見えなかった。『光』の能力…。


「くっ!」

「アム様!何かあいつを動けなくする術はありますか!」

「合わせろ!!」


アムは手のひらを向けて、両手からエネルギー弾を作り出しウセルを挟むように両方向からその力をぶつける。


「【魔式光線破】!」

「おぉ、こりゃあぶねぇ。」


アムの背方向に現れた六つの球体から、それぞれ光線が飛び出してウセルを襲った。これによりウセルの逃げる方向は後ろだけ。


「だが、あぶねぇだけだな。」


またも目にとらえられない回避をする。だが、スマラスさんはその一瞬を狙った。移動した場所を即判断、行動するつもりだったのだ。ただし攻撃行動ではなく、知らせる行動に移ることになる。


「お嬢様!!!」

「え…?」


スマラスさんの叫ぶ声と同時に、ウセルの手はすでにミシェルさんに差し掛かっていた。


「一番の目的はお前だからな、お嬢様?」

「た、たす…け…!!」


俺が確認できた状況は三つ。ミシェルさんが叫び、それよりも先にヘルターさんがミシェルさんの前に全身を盾に立ちはだかる。それよりも先に…


「【零式・グランゼロ】」


現在『ノマド』最強のグラが動いていた。


「なっ!?ぐぅうう!!!」


高出力かつ超強力なバグから生まれる重力弾。光だろうがなんだろうが、何もかもを弾いて押しのけていく。


「おぉぉおおおおおお!!!」


ウセルは光を手のひらから放出し、重力弾を消し去った。


「私の友達には指一本触れさせないから。」

「…やっぱ一筋縄ではいかねぇか。」


グラなら勝てる。それにすでに俺達も息を整えられている。『光』の即時移動にさえ気を付ければ捕まえはできなくても逃がすことなら…!


「ま、最初から正当に言って勝てるとは思ってねぇけどな。」


次の瞬間、ウセルを中心に放出された生暖かい空気に全員包まれた。

俺の意思は、そこで落ちてしまった。


ーーー


「…『眠り』の能力画期的すぎるぜぇ。殺して奪って正解だったな。」


眠りの力。それはウセルが辺りを駆け回り、能力者を見つけ次第手当たり次第に襲撃した結果手に入れた能力…。

ウセルは慢心して、眠りこけたその場の能力者全員に近づく。ウセルは手を向けて、圧倒的な能力でその場一帯ごと消し去ろうとして光を貯めだす。その時だった。


「させない…!!」


気絶したように眠った全員を突然地面から現れた岩がドーム状に、守るように出現した。二人を除いて。

…なんだか、むずむずと動いていたから多分外に出して大丈夫だろう。


「おいおい、どうなってんだ…?なんでお前らは起きてられる?」


困惑するウセルの前には、白髪の少年と長髪の女性…いや長髪で美人で天才で全知万能の私が立ちはだかった。


「私の体の70%はコーヒーでできているからな!」

「…意思の…強さ!」

「マジかよ、お前ら最高だわ。」


…正直、今すぐにでも倒れそうだ。コーヒー飲んでいるからだとか、虚勢を張ってはいるが正直めちゃくちゃ眠たい。日頃からカフェインを摂取しているおかげで何とか意識を保てているのだとしたら、バカにして眠りこけた三人を笑ってやりたい。


「…シロ、耳を私に。」

「ん…?」

「正直私はもう寝る。眠い。ただなんとかユラ達を起こしてみるから一人で時間稼ぎを頼む。後ろは任せてくれ。」

「りょ。」


そう言い終わると、シロはすぐにウセルに攻撃を始める。


「おぉおぉ、ガキんちょが!意思の力ってのは能力かなんかなのか?」

「意思の…力!」

「会話できねぇなお前。まずはお前から潰そうか!!」


よし…シロなら死にはしないだろう。…………ダメだ、寝るな。私。

岩を少し開き、中の様子を見る。全員今の状況なんか忘れたように眠りこけていた。その満足そうな寝顔を叩いてやりたい…。叩いて起きてくれるだろうか。


「ユラ!アム!グラ!起きろ!!!」


私は水を三人の顔にぶっかける。反応はするが起きる気配はない。ユラが起きればな…瞬間移動でミシェルさん達だけでも逃がせられるのだが。

不安になり、シロの方に目をやる。


「がっ…ごはっ…!!」

「くっ、固いやろうだな!それになんで俺の移動する場所がわかる?!」

「意思…ちか…ら!!」

「万能過ぎんだろその力!おらぁああ!!」


シロの目の前で直線状に光を放つが、シロはすぐに対応して避けて殴りかかっている。光すらも避ける動体視力…。さすがだが…シロの方が少し不利か…?ウセルとかいうやつ、能力だけじゃなくちゃんと肉弾戦も逸品だ。どうする。このままじゃシロが潰れる。光の攻撃は逸らせるが、直接来られたら私の勝ち目は五分五分だ。


「…くそっ!シロ!私も加勢する!」


最善手は二対一でさっさと倒す。これしかない!


「卑怯だぜ?!一人に二人かよ!?」

「大男に女の子と少年だ。これでフェアなくらいさ。」


だんだんと眠りに飲み込まれていく体を無理矢理動かし、若干息の根止める勢いで能力を使う。全滅なんて、絶対にさせない!


「【超臨界流体爆発】」

「あん?!」


気体による移動の速さ、水の流動性。それを一定空間にフルに総動員させる。その空間内ではあらゆるものが粉と化す。


「何が…がっ!?だぁあああ!!」


目に見えない、というのもこの技の悪趣味な所だ。ウセルの腕に上手く当たった。岩ですらも粉々にするその威力。それなのに、ウセルは激しく出血するだけで済んでいた。


「な、なんだ今の…!?

はぁ…はぁ…!!」

「シロ!」

「わかってる!」


光だからって、その身に拳が当たらないわけではない。シロの際限なく上がり続ける暴力はウセルを悶えさせるには十分な一撃だった。


「…や、やりやがる…!だがな!!水の女!お前がここまで離れていいのかよ!?」

「何を言って…そうかっ!!」


離れすぎた!これじゃあウセルの光線は軽く私の岩のドームを吹き飛ばせる!まずい…間に合わない!!この距離じゃシロが走ったところで無理だ。遠隔での屈折は成功率が極めて低い…!


「お前らはあとでじっくりなぶり殺してやるぜ!終わりだぁあああ!!!」


私は無意味だとわかっていても、何重にも岩を重ねる。それくらいしかできない。一か八かで水をウセルが光線を放つその瞬間に屈折させるしかない!どこに飛んでいくかはわからないが、この際私がどうなっても…。

その意思で、その一か八かをやるつもりだった。だが、近くに仲間がいることを思い出す。だめだ、シロも巻き添えに…!

その躊躇いを、私は次の瞬間呪った。


「…は、男じゃねぇか。テメェ。」

「お前に…褒められても…だっ…ぐはっ…」

「シロ!?」


シロが光線の出るその瞬間、飛び出る前に自ら盾となり高出力の光線を身を挺して止めていた。


「無茶を…どけ!!」

「おぉお!?」


私はとりあえず大量の水でウセルを遠くに押し出す。今はダメージを喰らっているおかげか、そのまま足を取られてくれた。


「シロ!すまない、私がいながら…!」

「い、いい、よ。ごはっ…まもれ…たでしょ?なら…いい。」


強靭で金属のように硬くできるシロの肉体でも、至近距離の岩をも砕く光線。かなりの出血をシロはしていた。これは…


「なんで…どうして私には回復できないんだ!!水は…人を癒すだろ…普通。」

「…博士…」

「なんだ…シロ。どうした。」

「たのし…かったよ。何もなく…おわる人生だって…思ってた。でも最後に…会えて…たの…」


その内容は、あまり耳には入れたくない内容だった。シロがもう生きる事を諦めていたから。私は最後のシロの言葉を受け取る間、シロの体の熱がなくなっていくのを嫌でも感じていた。シロの目がどんどん虚ろになっていく。だめだ、一人死んだら…いや死なない!ミシェルさんに治してもらえれば!!まだ…。その希望がどうしようもなく可能性の低い事なのかは無駄に良い頭が教えてくる。


「治してもらえれば、なんて思ってんだろうが俺の攻撃をあんな距離で喰らってまだ喋れた方が不思議なんだよなぁ。」

「…ウセル!!!」

「なんだよ、それが最後の言葉でいいのか?じゃあ、死ね。」


前方が光り輝く。屈折させればまだ…と思ったが途端に眠気が忘れていたように襲いだす。どうしてだろうか。安心したわけじゃ……


「殺しはしない、でも死ぬのはお前だ!!」

「タイミングが良すぎんだろが!!」


アムがウセルを横からタックルして弾いた。


「ミナヅキ、生きてっか?」

「…すまん…後は…任せた。」


何もかも忘れたかった。腕の中の冷たい仲間も、この現状も。

私の重たい瞼が、それを許してしまった。


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